1章 1話 4節
マーク隊が向かった方向からの光。
もはやそれは、最悪な事態を想定させた。
カレンディーナが通信機をいれる。
「マーク!何があった!?
マリー、周辺の策敵レーダーの範囲を広げてっ!
全ての電磁波を解析。
今も何の反応もなかった。
何が起きてるって言うのさっ!」
すぐさまマーク少尉からの通信が届く。
「レルガー軍曹機がいきなり爆発した。
攻撃を受けている感じはなかった!
いきなりだっ!」
「マーク!一旦下がって!
合流する。
マリー、タク、ついてきな!」
カレンディーナのルックが向きを変えると
一気にバーニアの火が点る。
マリーとタクは一瞬遅れたが、すぐさま操縦桿を倒して
アクセルを踏んだ。
3機はマーク隊に合流すべく、光の線を描く。
途中で先行していたモルレフ隊と合流したが、
モルレフ曹長も状況を掴みきれていない。
「少将・・・・・・。
こいつは?」
「詮索は後さ。
まずは、マーク少尉と合流する。」
既に巡洋艦ブレイズは前進を止め、
警戒態勢に入っている。
コンガラッソ軍曹とレルガー軍曹機の
謎の爆発の原因がわからないようでは、
このまま前進は出来ない。
電磁波の解析を進めていたマリーは
小さな痕跡を逃すまいと、コンピューターと死闘を
繰り広げていた。
マーク少尉のルックが合流した時、
マリーの解析結果が出る。
「少将。
物理レーダーの対象範囲を1mまで絞ったら
こんな結果が!」
マリーよりデータが送られてきた。
通常、物理レーダーは直径3m、質量100kg以上の
物体を感知する。
それ以下の物質まで検知すると、
宇宙デブリなどのゴミも感知してしまい、
途方もない量になってしまうからだ。
宇宙空間で脅威になるのは質量である。
宇宙空間にただ浮かんでいる岩石などはあまり問題ではないが、
もの凄いスピードで飛んでいる物体は
加速度に比例して質量が増える。
光速に近いスピードで飛来する直径1mの岩石は
戦艦のぶ厚い装甲さえも貫通した。
従って、物理レーダーが感知するのは直径3m以上の
単純に大きさの大きい物か、加速度などにより
質量が100Kg以上になるものだけであった。
それに加え、熱源レーダなどを組み合わせる事で
宇宙航行の安全は確保される。
ミサイルなどの自ら推進力がある兵器は、熱源レーダで感知できたし、
マシンガンの弾などは運動量(速度×物質自体の質量)を物理レーダで計測できた。
逆に言えば、計測できる範囲以下のモノは
感知できない。
秒速2000mで飛来する20mmの弾丸は
FGの装甲でさえも貫通しないからである。
ましてや広大な宇宙空間である。
2万km以上離れた敵と交戦する宇宙戦闘では
運動量によって増大した質量が100kg以下の物体は
脅威ではなかった。
例外として危険だと言えるのは、宇宙機雷の類があるが
静止している宇宙機雷は、目視確認で対処できる。
今回のコンガラッソとタクの任務がまさにそれであった。
艦船の前方で障害物を視認する。
それだけだったのである。
そして、マリーが出した解析結果は驚くべきものが提出された。
「なんだこれは?浮遊機雷か?
だが、浮遊機雷が何故動いている?
推進力は???
推進力なしで自由に動く物体なんて考えられない!」
データには、カレンディーナたちを取り囲むように
大量の物質が、円を描くように周囲に点在していた。
それもまるで魚の群れが対象を取り囲むように
運動していたのである。
その運動もただ真っ直ぐ進んでいるのではない。
方向を変え、クルリと一回転するモノまである。
無重力の宇宙空間で、そんな動きが出来るわけがない。
大気中なら空気が、海中であれば水があれば
それらを使って運動は出来る。
だが、真空の無重力空間の宇宙で自由に飛び回るためには
物体自身に推進力がなければ不可能であった。
推進力になるものを取り付ければ、それは熱を発生する事になり、
熱源レーダで感知できる。
しかし、目の前で動き回る魚群のような物質からは
熱源反応が全くなかったのである。
これではレーダーに感知出来るはずがない。
マリーが慌しく、コックピットのコンピュータを操作した。
「物体の解析結果でました!
G-2機雷です。
指向性があり、触れた対象の装甲を貫く破壊力があります。
もし、複数のG-2がFGに吸い寄せられるように接触したなら、
粉々に爆散したとしても不思議じゃありません!」
マリーの報告に通信機越しの6人は言葉を失った。
マリーの報告は、コンガラッソたちの2機のルックが、
いきなり爆発した理由と合致する。
レーダに捉えられない浮遊機雷が、モニターの死角から
FGにくっついてきたとしたら、逃げる術はない。
レーダに頼り切っていると言われればそれまでであるが、
宇宙空間での運動には、推進力が必要であった。
推進力がなければ、慣性で前に進むことは出来ても
方向転換など自由に動く事はできない。
むしろ重力がないため、一度動き出せば
慣性によって止まる事も難しいのが宇宙空間である。
物質が推進力なしに自在に動く事は想定外なのであった。