1章 7話 2節
4人はハルカを先頭に、研究所内の通路を進む。
ハルカの隣には、タクが並び周囲の警戒をしていた。
「ちょっとー。近付きすぎなんですけどー。」
「警護しているんだから、文句言うなよ。」
「そう言って、近付きたいだけでしょ!?
えっち。変態!」
「変態ってなんだよ!
子どもの癖にっ!」
「あなたも子どもじゃん!!」
先頭でじゃれ合う小さな2人を見て、ティープは少し安堵の表情をした。
そして、隣で同じように微笑ましく2人を見るモミジに話しかける。
「君が合流してくれて、良かった。
俺は、あの子がどうも苦手でね。」
「あら?ハルカですか?
あの子は立派ですのよ。
母親を軍に殺されたのに、あんなに明るく振舞って。
対して、妹のルカゼは塞ぎこんじゃって、
何を考えているのかわからないところがあって、
困ってますの。」
その話を聞いて、ティープは思うところがあった。
ティープ自身も、幼い頃に両親と妹を亡くしている。
軍人になったのも、家族を宇宙海賊に殺されたからだった。
タクも孤児で、実の両親の顔を知らない。
そしてハルカも母親を亡くしているという。
偶然か?と聞かれれば、それは違うのだろう。
何故なら、この時代、
わざわざ軍人になる人間は、何かしらの理由がある。
徴兵制もないスノートールで、軍人になるという事は
それなりの理由があるのである。
その理由が、家庭環境であったりするのは良くある事で、
兵たちの間で身寄りの話をすれば、多くの者が何かしら
問題を抱えていたりした。
そして、ハルカ。
彼女も、クールン人として軍の研究材料になっているのだとしたら、
それはそれで普通ではない。
母親を軍に殺されていると聞いても、不思議には感じなかった。
戦場とは、特異な空間なのだ。
そこに、身の不幸を背負った人間が集うのは、
ある意味、自然な事なのかもしれない。
だが、ティープがハルカを苦手と感じるのは、そういう所ではない。
モミジには伝える事はなかったが、
ティープはハルカに、得も言われぬ「恐怖」を感じていた。
目の前で、物体を宙に浮かせる魔法を見たからであろうか?
感じる恐怖を、苦手と称してしまったのである。
黙るティープを見て、モミジは少し目を細めた。
「怖い・・・・・・ですか?私たちが。」
本心を見透かされたように感じたティープは
慌てて取り繕うとしたが、ふと、無駄ではないか?と感じた。
彼女らクールン人は、尋常ではない。
つまり、人の心を読める事も出来るかも知れないと考えたからだ。
彼は首を振った。
否定ではなく、肯定の首振りである。
「本音を言えば、そうだな。
人は未知のモノに恐怖を感じる。
まさに君たちは俺らからしてみれば、未知だ。
恐怖がないとは言えないな。」
ティープの言葉にモミジは黙った。
そして、本音を語ったティープに本音で返す。
「人と・・・・・・共存は出来ないのでしょうか?
私たちだって、クールン人に生まれたくて
生まれたわけじゃない。
人と区別される事を望んだわけじゃない。
普通に生きて、普通に暮らしたい。」
今度はティープが黙る番である。
彼女は大人ではなかったが、18歳ぐらいで
恐らく、ハルカやチサやルカゼといった少女たちの
リーダーか、面倒をみている立場なのではないか?と想像がつく。
彼女とて、苦悩しているのだと察せられた。
こうして話してみれば、多感などこにでもいるような
普通の少女たちである。
「騙されてはいけない!」という警戒心はある。
だが、ティープも少しだけ彼女らに感情を移入する事ができた。
そして、タク。
彼はハルカを見て、真っ先に警戒心を解いた。
この手の感受性は、子どものほうが心に素直なのかもしれない。
大人が物事を難しく考えているだけなのかも知れない。
ティープは、寂しそうに俯くモミジに声をかける。
「君たちが人類の敵ではない。とハッキリわかるのであれば、
俺は君たちが人類社会に溶け込めるように努力する。
こう見えて、俺は社会に発言力があるほうなんだ。
期待してくれていいぜ。」
ティープは、それまでずっと構えていた銃を降ろした。
警戒心を解いたと行動で示したのである。
その言動を見て、モミジの表情が和らぐ。
「本当ですか!?
嬉しいです。
女性しか居ない私たちクールン人だけでは
生きていけません!
人類に敵対するとか、有り得ないんですよ!」
「女性だけ?」
「はい。クールンの血は女性だけしか受け継がれないみたいで、
クールン人の母親から男子は生まれないのです。
この研究所でも、繁殖計画が実施されたのですが、
結果は、女性ばっかり。
クールン人の父親は存在しませんので、女だけという事になります。」
「まさか・・・・・・。
君たちは、その繁殖計画の・・・・・・。」
モミジはコクリと頷いた。
という事は、彼女らは生まれてからずっと、
研究材料だったと言う事である。
実験で生まれ、生まれてからもずっと実験材料だったのだ。
普通の生きかたを知らないのだ。
ティープは天井を見上げた。
カレンディーナの事を思いだす。
「おっかさんは、感じ取ったのかも知れないな。
タクら孤児たちも、生まれてからずっと孤児で生きてきた。
普通と言われる家庭環境を知らなかった。
彼女たちにも、同じオーラを感じたのかな?
そうか、そうだよな。おっかさん。
そりゃ、助けたいよな?」
ティープは心の中でカレンディーナに話しかけた。
もちろん、返事はない。
代わりに返ってきたのは、ハルカの明るい声だった。
「ルカゼー!
軍人さんたち、連れてきたよー!」
4人は、研究所の中にある食堂と思われる大部屋へと
足を踏み入れるのだった。




