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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~邂逅~

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1章 7話 1節 クールン人

ハルカは言った。

「惑星ロアーソンの通信を遮断した」と。

事の重大さに気付いていながらも、ティープは平常心を装う。


「通信を遮断した。だと?

何のために?

どうやって?」


「ルカゼはね。妹なんだけど、ルカゼ。

ルカゼはそういう事が出来るの。

外部との通信を遮断して、定期連絡とかは

過去の通信を模倣して偽の通信を流してたかな。

あなたたち、外国の軍人さんが

私たちを助けに来てくれると信じてね。」


その言葉を聞いたタクがようやく言葉を発する。


「父さん!

この子たちは被害者なんだよ。

ガイアントレイブの実験材料にされて、利用されて!

リリラアイス星域にいたあの子だって、助けを求めていた!

母さんはそれを助けようって!」


「タクッ!

銃を降ろすな!

視線を切るな!

そんな母さんは、誰に殺された!?」


ハルカから視線を逸らさずに、ティープは怒鳴った。

ビクッ!とタクは萎縮する。

オドオドと銃を再びハルカに向け構える。

しかし、彼は勇気を振り絞る。


「父さん。

この子たちは悪くないと思う。

不思議な力があるだけで、それを大人たちに利用されてただけだよ。

助けようよ。助けてあげようよ!

父さん!!!」


タクの必死の声にティープは黙ったままだった。

タクの気持ちはわからないでもない。

ティープだって、それが出来るのであればそうしてやりたいところだ。

だが、それは出来ない相談である。

何故なら、彼女たちの力は強すぎるのだ。

惑星の通信を遮断するなど、そんな事が出来てしまえば、

戦場の勝敗は一変してしまう。

ガイアントレイブは、彼女らを研究し、実験材料にしようとしたと言うが、

果たして、スノートール帝国では

彼女らの存在を放置できるのか?

出来るわけがない。

そんな巨大な力を野放しに出来るわけがないではないか?

彼女は、外国の軍が自分たちを助けてくれる。と言うが、

ガイアントレイブから助け出したとして、どうなる?

スノートール帝国ですら、彼女たちに自由を与えるとは考えにくいのだ。

ティープはそう感じていたが、言葉に出す事は出来ない。

だが、「助ける」と嘘をつく事も出来ないでいた。

黙っているティープを尻目に、一度緊張の糸が切れたタクが

ハルカに近づく。


「ハルカ。君の事は、スノートール帝国が保護する。

大丈夫。

僕が君を守ってあげる。

ガイアントレイブのやつらが追ってきても

俺が守るよ。

安心して。」


タクはお兄ちゃん風を吹かせるように言った。

だが、言われたハルカは不満そうである。


「ふーん。

お兄さんは、頼りなさそうだけどなぁ。」


ハルカは口を尖らせるが、彼女の感想は致し方ないかもしれない。

屈強な兵士と言っていい大人のティープに比べ、

未だ14歳で身体も出来上がっていないタクが貧弱に見えてしまうのは

しょうがない事である。


「私はこっちのおじさんに守ってもらいたいなー。」


フラッとティープに歩み寄るが、ティープはほぼ同時に後ろに下がると

ハルカとの距離はそのままに、相変わらず銃の照準は合わせたままである。


「近付くな!

俺には、君が守られるべき存在には思えない。」


「えー。傷ついちゃうんですけどー。」


と言うと、再び口を尖らせた。

愛らしい仕草に見えるが、状況にはマッチしていない。

銃口を突付けられている場面で、このような対応が出来る事が

異常なのだ。

普通はそのような余裕はないはずである。

だからティープは、警戒を解くことが出来ない。


「とりあえず、その妹に会わせてくれ。

君たちの力は危険だ。

まずは、危険だって自覚するべきだ。」


「人畜無害なのになぁ。

まぁいいや。ルカゼは・・・・・・。

んと、こっちかな?」


そう言うとハルカは背中を向けて歩き出した。

慌ててタクが彼女に隣に並びかけると、小声で呟く。


「ハルカ。君は僕が守る。」


「あっそ。期待してるね。」


ハルカも小声で返した。

ティープは周囲を警戒しながら、前方を歩く2人と少し距離を置いて

後に続く。

相変わらず、銃口はハルカに照準を合わせている。

警戒を解くことはなかったが、タクがハルカに近付くのは止めなかった。

ほんのちょっとだけ、気を許していたのであろうか?

もしくは、タクは14歳。

年齢が近い者同士であれば、打ち解けるかも知れないと考えてだろうか?

ティープ自身も、自分の行動を言語化できるまで

状況把握が出来ているとは言えなかったのである。


少し歩くと、廊下で佇む一人の少女を見かけた。

ハルカよりは年上に見える。

年齢は18歳ぐらいであろうか?

少女を見つけたハルカは、彼女に声をかける。


「モミジ姉ちゃん!!!」


そのワードには聞き覚えがあった。

確か、戦場で交戦したパイロットの口からも発せられたワードである。

「彼女がモミジ?」

ティープは注意深く彼女を観察する。

モミジと呼ばれた少女は、ハルカを見かけると

フゥと安堵の息を漏らした。


「ハルカ、何があったの?

その人たちは?

突然、部屋のロックが解除されて・・・・・・。

でも、何処にも誰も居ないし・・・・・・。

何がなんだか。」


「この人たちは、外国の軍人さんたちだよ。

私たちを解放してくれるために来たの。

ルームロックは、ルカゼが解除したんじゃないかな?

今、研究所の皆は、地下のシェルターに逃げ込んでいると思うよ。」


「軍人さん?」


モミジが思わずティープを見た。

この中で唯一の大人と言っていいティープが状況を把握していると

感じたからである。

ティープは敵意のなさそうなモミジには銃口を向けなかった。


「君もクールン人だな?

スノートール王国のティープ大佐だ。

君たちを保護したい。

だが、信じられない事ばかり起きていてね。

出来れば、素直に指示に従って欲しい。」


「えっ、は・・・・・い。

では、どうすれば?」


モミジの質問に答えたのはハルカだった。


「ルカゼのとこに向かってる。

今回、軍人さんを手引きしたのは、あの子みたいだから。」


ハルカは屈託のない笑顔で言ったが、言われたモミジは眉をしかめた。


「ルカゼが?

あの子、何を考えてるの!?」


「さぁ?私もよくわからないけど。

でもこの力はルカゼだよ?」


二人の会話自体は、理解できる内容である。

だが、理解できるのは単語としてであって、

内容までは理解しがたい部分があった。

しかし、この場所で謎を解き明かすために時間を費やしている余裕はない。

いずれ判る事だとティープは思った。

そもそも彼女たちが何者なのか?

今は、名前の判っている3人、ハルカ、モミジ、ルカゼを

保護するのが優先だと考えたのである。


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