1章 6話 5節
ハルカという少女は、場に似つかわしくない態度だった。
若干、演技がかっているというか、
中二病っぽく、クールン人というキャラクターを演じているように思えた。
だから余計にティープはイライラしていた。
生死を左右するような場所にいていい存在ではないからだった。
しかし、ティープの気持ちを察する事なく、
ハルカは陽気な笑顔を見せる。
「クールン人ってのは、わかっているようでわかってないのかな?
だって私、研究者じゃなくて、研究されるほうだもん。
詳しく知りたいなら、研究員に聞いたほうが早いと思うよ?」
あどけない表情で応える。
だが、ティープの質問にははぐらかせる事無く答えていた。
クールン人とは何か?何をしているのか?何者か?
彼女は研究の被験者だと言う。
その答えだけで十分だった。
ガイアントレイブ王国は、彼女らを使って何かしようという意図があるのだ。
ティープは次の質問をぶつける。
「ハルカと言ったな。
君は何ができる?
戦場に居たのはチサと言ったな?
そのチサは、物体を力を加えずに動かす事が出来るのか?
ハルカ、君も出来るのか?」
「んー。力は加えているんだけどネ。
私も出来なくはないよ。」
と言うと、白衣の胸元から、小さな物体が浮き上がってきた。
それは首元にかけられたネックレスの小さなアクセサリーである。
彼女の胸元から、小さなコインのようなアクセサリーが
フワフワと、ハルカの顔の前まで浮き上がる。
彼女は得意気に微笑みを浮かべた。
「チサ姉ほど大きい物も、量も動かせないけど、
この位ならね。
チサ姉は、人ぐらいの大きさだったらいっぺんに沢山の物を
動かせたんだ。
だから、軍に目をつけられたんだけどさぁ。」
無邪気に話す少女を前に、二人の男たちは動きが止まっていた。
ティープは宙に浮きあがるアクセサリーのトリックを見破ろうと
少女を凝視していたし、
タクに至っては、思考停止状態だった。
彼ら二人は既に「宇宙空間を自由に飛び回る機雷」という不可解な現象を
経験しており、その謎を調べる目的でこの地にたどり着いたというのに、
タクに限って言えば、摩訶不思議な現象に対して「受け入れる」準備が
整っていなかったと言える。
信じられない光景に、タクの時間は止まっていた。
ティープはと言うと、受け入れる覚悟があり、
実際にこの目で確認した事で、現実を受け入れつつあった。
「それが、君たちの言う魔法。ってやつか。
原理はどうなっている?」
「んー。詳しいことは先生に聞かないとわからないかな。
私たちが研究しているわけじゃないし。」
「出来るのはそれだけか?
他に何が出来る?」
「ふーん。私に興味津々って訳だ。
ふふふ。
どうしようかなぁ~。」
「ふざけるなっ!!
こっちは婚約者を殺されているんだ!!!!
真面目に答えろ!」
ティープの怒声でタクは我に返った。
そう、目の前にいるのは年下の女の子であったが、
彼女はカレンディーナを死なせたものの鍵を持っている可能性がある。
あまりにも情報量が多い案件であったが、
カレンディーナの死の真相を探るという目的は忘れてはいけない。
タクは気持ちを切り替えた。
怒鳴られたハルカは、口を尖らせながら顎を引くと
「ごめんなさい。」
と言う。
そこだけ見れば、歳相応の女の子である。
その表情でティープも溜飲を下げた。
彼女は研究材料だ。
恐らくこの研究所に閉じ込められているのだろう。
久々に外界の人間と接した事でテンションが上がっていたのかもしれない。
「わかればいい。
君の友達を俺達は殺しているかもしれない。
そこは、お互い様だ。
だが必死なんだ。
質問に答えてくれ。」
ティープの表情から怒りが消えた事で、
ハルカもようやく顔を正面にあげた。
ティープの他に何が出来る?と言う質問は確信犯である。
彼は、チサと呼ばれた人物が、物体の浮遊の他に、
脳に直接思考を送り込む事と自分の視界を他人と共有する事が
出来る事を知っている。
ハルカが嘘をつかないか、試しているのだった。
ハルカはそんな事も気にせずに質問に答える。
「んー。
何が出来るって明確なものはないんだ。
人によって違うって言うのかな?
ほら、人でもサ、
重い物を持ち上げたり、ジャンプ力があったり、
視力が良かったりするじゃない?
そんな感じ。
イメージって言うのかな?
イメージ出来たものは、なんでも出来るし、
イメージ出来ないものは出来ない。
特定の何が出来るとかじゃないんだ。
だから、魔法って呼ばれてる。」
「君達は・・・・・・。
クールン人ってのは、何人いる?」
「今は30人ぐらいかな?
魔法が使えない子もいるけど。」
「30人!!!」
思わずタクが絶句した。
クールン人ひとりに、タクらは戦闘で大苦戦した。
カレンディーナさえも失ったほどである。
そんな力を使う人間が30人も
集まればどうなるのか?
被害を想像するだけで恐ろしい。
だが、ここまでの話でティープは一つの疑問にぶち当たる。
クールン人。
想像していたよりも、恐ろしい存在である。
まさに戦争の帰趨を決するような強力な力である。
なんとしてでも、機密を守らなければならないレベルの
兵器であると言える。
だが、この研究所の、ロアーソンの防衛力が皆無なのは何故なのか?
敵に渡してはいけない機密であるにも関わらず、
ハルカはティープたちの目の前にいる。
「君たちほどの力を、ガイアントレイブは何故放置している?
決して敵に見せてはいけないレベルのものだ。
何故、君は俺のたちの目の前に姿を現すことができたんだ?」
「妹が、電波妨害してたんだよ。
あなた達が来る事がわかってたからね。
ロアーソンと外部の通信を遮断したんだ。
だから、ここの人たちは、
今何が起きてるか?理解出来ていないと思うよ。」
ハルカは楽しそうに言った。
まるでその内容の重大さを理解していないよう言ったのだった。




