1章 5話 5節
会議は具体的な攻略目標の話になり、
ゲイリとガルの会話は続いていく。
会話の内容を理解できるはずもなく、
タクは思わず欠伸をしてしまった。
その瞬間を偶然見かけてしまったガルは、微笑みを浮かべた。
「疲れたかい?
ちょっと休憩しようか。
ゲイリ、ここから先なら、俺たちだけでもいいだろう?
お連れの皆様には、艦内で食事でもしてもらうといい。」
思わずタクの顔にも微笑みが出る。
退屈だったのが、丸分かりだった。
ゲイリもタクを見て、表情を崩す。
「そうだな。
ああ、ガル。紹介しておこう。
そこにいる少年は、ティープと2人で新型FGの
テストパイロットをやってもらっている。
ものは相談なのだが、新型機の重力下での性能テストを
やりたいんだが、惑星攻略作戦に参加させてもらえないだろうか?
重力下でのFGの運動性能は落ちる。
防衛力が低い適当な攻略惑星がなくてな。
この方面、ビリアン星系には強力な部隊が配備されていないと聞いた。
どこか適当な攻略戦で性能テストをやりたいんだ。」
「新型?
メリーベル社の新型か?
噂には聞いている。
それは我々としても興味があるな。」
タクの乗る新型FGスノーバロンの製造メーカーである
メリーベルエレクトロニクスは本社をワルクワに持つ航空機メーカーである。
もちろん、ワルクワのFG開発にも太いパイプがあり、
スノーバロンの性能はワルクワFGの開発にも
十分に関係してくるだろう。
ガルとしても、ゲイリの提案は魅力的に見えた。
「惑星ロアーソンの攻略が近々予定されている。
あそこなら、中規模の軍事施設が数箇所あるだけであるし、
丁度いいかもしれないな。
タク少年。
新型の活躍は、我が軍の戦力強化にも繋がるかもしれない。
頑張ってくれたまえ。」
「あ!
はい!ありがとうございます。
ご期待に応えられるよう頑張ります!」
タクの初々しい返事に、場は和む。
少年の態度に満足したガルは、通信機で兵を呼ぶと、
ゲイリを除く3人の来訪者をドッチボーの食堂に案内するように命じた。
退出間際の配慮も欠かさない。
「ワルクワの郷土料理を味わうといい。
香辛料がふんだんに使われていて、スノートールでは
味わえない味だ。
後でブレイズに残っている兵たちにも
食事を届けるように陛下に頼んでみよう。
癖になる味だぞ。」
ガルは片目でウインクすると、ティープとタクを送りだす。
マイーザ大佐を含めた3人は、会議室を後にした。
食堂に案内されている途中、ティープはタクの頭を
ポンポンと叩く。
「なんだよ?父さん!?」
「お前、ガルの事、気に入ったんだろ?
甘い言葉言われただけで。
どんだけちょろいんだよ。」
ティープは笑った。
言葉ではそう言ったが、ティープ自身もガルとは仲がいい。
別に悪い気分ではなかった。
タクは素直に認める。
「なんか紳士!って感じだった。
陛下とはまた違ったオーラを感じたよ。
上官に持つなら、ああいう人がいいな。」
もし、この言葉をゲイリが聞いたら、驚いていただろう。
ガルは士官学校時代、グループ活動のリーダーには不向きだった。
自身が何でもソツなくこなす事ができるため、
周りにもそのレベルを求め、
周りが出来ないのであれば、自分でやってしまう性格だったからである。
孤高の戦士。
というイメージで、周囲もガルとは連携が取れているとは言い難かった。
それは軍に配属されてからでも変わらず、
唯一、ティープとカレンディーナのみがガルを扱えたのである。
スノートールを離れ、一番成長したのは
ガルなのかもしれないと、ティープは思う。
確かに、ウルスは皇帝になり、ティープはFGのエースパイロットになり、
ゲイリはウルスの知恵袋として、軍の軍師の立場になった。
対してガルは故国を離れ、馴染みのない他国の1兵士に過ぎない。
だが、ゲイリが指摘した事もある、兵士としての、
否、リーダーとしての素質の無さが改善されているように、
タクの反応を見ていると感じるのだ。
ゲイリ曰く、ガルにリーダーとしての素質があれば、
最強の兵士になるかも知れないと言っていた。
今は仕える君主が違えど、ガルとは友人であるティープにとって
それは嬉しい事である。
ティープはタクの頭をもう一度、ポンポンと叩いた。
「うちで一人前に育ったら、ガルの下で修行するのも
いいかも知れないな。
見識も広がるだろう。
学校で学ぶよりも、大事な事を勉強できるかもしれない。」
「え?いいの?」
「ああ、一人前になったらな。
未熟者を他国に派遣するのは、
スノートールのメンツに関わる。」
「うん!頑張るよ!俺。」
タクの無邪気な笑顔を見るのは、久しぶりな気がする。
カレンディーナを喪ってから、タクの笑顔はどことなくぎこちなかった。
だが、別れで喪失した心は、新たなる出会いで埋められるのかもしれない。
完全に補完できるわけではないだろうが、
生きる人間には、必要な要素なのだろうとティープは思う。
願わくば、ティープ自身が、そんな存在になれれば良かったのだが、
自分の存在価値は別のベクトルにあるのだろう。
と割り切るしかなかった。
少し寂しい気分になりながら、ティープはタクの頭を
ポンポンと叩き続けるのであった。
「もう、ちょっとやめてよぉ・・・・・・。」
タクの台詞が心地いい。




