1章 5話 3節
星暦1002年6月20日
タクらを乗せた巡洋艦ブレイズは
ビリアン星系を侵攻中の神聖ワルクワ王国第3軍と合流した。
ワルクワはガイアントレイブに対して、
おおまかに3方向からの多方面より領土内に進入した。
第3軍は、スノートールの内戦の際に援軍に現われた
国王ドメトス6世が直接指揮するワルクワ軍の本隊である。
ただし、スノートール領内からガイアントレイブ領に進入したため、
侵攻作戦の中心というよりは、予備兵力的な扱いであった。
侵攻作戦の本軍は、ワルクワ領から進達した第1軍、第2軍である。
巡洋艦ブレイズは、ワルクワ軍旗艦のドッチボーに接舷する。
ドッチボーに入艦を許されたのは
ゲイリ、ティープと使用人として2人の計4名であった。
ゲイリはボディガードとしてマイーザ大佐と
付き人としてタクを選んだ。
最年少のタクを選んだのは、ワルクワ軍に警戒されないためである。
14歳の少年が同伴してくれば、無理な事はしないだろう。
警戒は緩むだろうとの読みであった。
4人は、ドッチボーに通されると、客室のような部屋に案内される。
そこには一人の男性が、4人を待ち構えていた。
相手の顔を見るなり、声をあげたのはティープである。
「ガル!
本当に生きていたのだな。
久しぶりだ。
顔を見たいと思ってたんだ。」
「ティープ。
ゲイリも久しぶりだ。
心配かけたな。」
4人を出迎えたのは、スノートール生まれのガルという男だった。
彼は、FGパイロットとして先の内戦時に戦場で
ティープと部隊を組んでいた男であり、
ティープやゲイリ、そして皇帝ウルスが士官学校に在籍していた時の
同級生でもある。
しかし戦闘の最中に被弾し、気を失った状態で
宇宙に流されていた。
そこを、奇跡的にワルクワ王国に拾われ、救助されたのである。
皇帝ウルスの学友という事もあり、
ワルクワの国王ドメトス6世に価値を見出され、
そのままドメトス6世の側近として、
活躍の場をワルクワ王国に移していたのである。
スノートールとワルクワの同盟交渉にも活躍した、
この時代でキーパーソンの一人である。
今回の巡洋艦ブレイズの受け入れも、
彼が中心となって動いていた。
ワルクワとスノートールを繋ぐパイプ役であるのは間違いない。
ティープとガルは握手を交わすと、次にガルの手はゲイリに向けられる。
ガルはゲイリとも握手を求めた。
ゲイリは少し反応が遅れる。
「ガル、学生時代から少し印象が変わったか?
いくら久しぶりとは言え、握手を求めてくるような奴では
なかったと記憶しているが?」
ゲイリが言う。
彼は思った事をすぐに口にだす癖がある。
もちろん、それは雑談レベルの他愛もない会話だけに限られたが、
相手の印象が悪くなる事も少なくなかった。
ゲイリの性格を知っているガルは笑って応える。
「異国の地で、ツテもなく生活しているんだ。
多少は・・・・・・な。
それより、ゲイリ。
お前こそ、皇帝の側近なのだろう?
いや、義理の弟として皇族の一員だ。
変わらなきゃダメだろう?」
昨年ゲイリは、皇帝ウルスの妹であるセリア姫と結婚した。
言われてみれば、彼も皇族なのである。
しかし、全く以って特徴のない、オーラの感じる事が出来ない
見た目はどこにでもいる中佐階級の青年である。
タクは、セリア姫の結婚式の映像を見た事があったが、
夫の顔は一切覚えておらず、
今の今まで、セリア姫の夫だと言う事を知らなかった。
ポカンとしているタクを尻目に、ゲイリは頭をかく。
「ただの中佐ってのがいいのさ。
自由に動ける。
今回だって、国賓待遇で招かれてたら、目立って仕方ないだろ?」
「お前らしいよ。変わらずで安心した。」
3人は談笑しながら、それぞれテーブルにつく。
マイーザ大佐とタクも席に案内された。
5人が椅子に座ると、「さて。」とガルが口火を切る。
「国賓レベルの客がわざわざこっちに来た。
という事は、それなりの理由なのだろう?」
ガルは鋭い男である。
単純に、今後の戦略を煮詰めるためだけの交渉
だとは思っていなかった。
彼の中では、戦場は膠着状態ではあるが、
時間稼ぎをされているというだけで、進退窮まるという状況ではない。
このタイミングでゲイリが来訪するほどではないのだ。
ゲイリもその位の事は把握している。
「そうだな。
単刀直入に言うと、戦後の話だ。
この戦争、違和感が一つある。
それはワルクワが大まかに軍を3つに分け、
国境線という国境線から、全軍を投入した事が不思議だったんだ。
クシャナダ女王の戦争責任を追及するだけなら、
全方位からガイアントレイブに進行する必要はない。
進行は一方向から、圧をかけるだけでもいいはずなのに、
この進軍は、まるでガイアントレイブを滅亡させるような動きだ。
ドメトス6世陛下は、何を狙ってる?」
「ああ、それな。
お前はわかってるんだろ?
今更隠す必要もないが。
今回の進軍は、ドメトス陛下の思惑だけで動いているのではない。
ワルクワには有力な権力者が3人いる。
ドメトス陛下と、ルギー公爵、ミッツバリー公爵だ。
3方向からの進軍の総司令官は、それぞれこの3名だ。
ルギー公爵とミッツバリー公爵は、仲が悪い。
お互いが、国家のNo.2であると自認している。
第1軍のルギー公爵軍と第2軍のミッツバリー公爵軍は
競い合うように軍を動かした。
云わば、ワルクワの内部抗争の結果だな。
陛下には、お子に男子がいない。
カーナ姫だけだ。
2人は、今回の戦争で手柄を立てて、
カーナ姫の後ろ盾になろうと考えているんだよ。
本当に、国家というものは救い難いな。
スノートールで内戦があったばかりだというのに。」
ガルはヤレヤレという表情をする。
ウルスが士官学校時代、宮殿の政争に巻き込まれている事を
身近で察していたガルである。
困ったものだという感情は本物であるように見えた。




