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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~邂逅~

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1章 5話 2節

訓練を終え、6人は巡洋艦ブレイズに帰還した。

格納庫の中で、まっさきにコックピットを出たのはマリーである。


「ちょっと、タク!

あなたもうちょっと、射撃の精度を上げなさいよ!」


開口一番、格納庫に彼女の声が響き渡る。

少し遅れてコックピットのハッチを開いたタクは

ヘルメットを脱ぐと、マリーを見た。


「無茶言わないでくださいよ。

曹長と軍曹相手に、逃げ回るだけで精一杯なんですから。」


タクの言う事はごもっともな話である。

モルレフ曹長とヒルン軍曹は、先の内戦からの戦士であり、

2機がかりで襲われれば、新兵のタクが苦戦するのは当たり前であった。

現にマリーが標的になった際は、逃げ回ることさえ出来ずに

瞬時に撃墜されている。

だが、マリーにも言い分はある。


「新型機に乗っているんでしょう?

オーバースペックが泣くわよ!」


「パワーがありすぎるんだよ。こいつ。」


タクは振り返ると、愛機であるスノーバロンを見た。

メリーベルエレクトロニクス社の最新鋭の新型FG。

彼はその性能を持て余し気味に感じていた。

馴染んでいないだけだとエースであるティープは言うが、

若干、チグハグさも感じている。

例えば、スノーバロンの回避性能は特筆すべきものがある。

要は、「敵の攻撃を回避できる」のだ。

回避しようと思えば、回避できる。

という事は必然、回避する事に比重がかかってしまう。

攻撃は最大の防御と言うが、それはある意味、

「回避できない場面」で通用する言葉でもある。

攻撃を回避できないのであれば、こちらから攻撃し

相手が攻撃する余裕を与えなければいい。

だが、タクは敵の攻撃を回避できるのだ。

そのため、攻撃よりも回避に思考が偏っていた。

攻撃もしなければならないと頭ではわかっていたが、

どうしても改善できなかったのである。

タクとマリーの会話を他所に、同じく格納庫に戻ったティープは

モルレフに近づいて行った。

右手に持っていたスポーツドリンクをモルレフに渡たすと、

自分はタオルで汗を拭く。


「曹長から見て、2人はどうです?」


ティープは階級こそモルレフの上であったが、年齢は下である。

この時代、年上を敬うという感性は、希薄ではあったが

ティープには年上を敬うという価値観がある。

それは、今自分が生きている時代を作ったのは

先駆者達のお陰だと感じているからだ。

彼は、お世辞に裕福な家庭に生まれたのでもなく、

若くして家族を失い、今は軍人などの職業についている。

だが、彼が生きている時代には、娯楽があった。

彼は学生時代、フットコロというスポーツ選手だったが、

スポーツを嗜む事が出来る時代というのは、平和な時代である。

スポーツを楽しむことが出来ない時代もあったのだ。

だから、彼は今の時代を幸せな時代だと感じているし、

その時代を作り上げた先駆者達に敬意を払っていた。

もちろん、軍人として先の内戦を生き抜いた同僚たちを

戦友だとも感じている。

ティープより年上の軍人は皆、内戦を生き残った兵である。

手渡されたスポーツドリンクを口に含みながら

モフレフは答えた。


「マリー伍長は頭がいい。

場面場面での動きかたってのを理解していますな。

戦術論ってのを叩きこんでいる感じがします。

FGの操縦技術がついていっていないのはありますが、

彼女はまだ、経験が浅い。

生き残っていけば、組織の中核人物になれる器でしょう。

・・・・・・。

タク二等兵は、ふむ。」


モルレフの口がヘの字に曲がる。


「目がいいと言うんですかな。

反射神経というか、反応が素晴らしくいい。

たまに、こちらの攻撃を先読みしているかのように

攻撃のモーションと同時に回避運動をしているような時がある。

天性の才能、というやつかも知れません。」


想像以上の褒め言葉に、ティープは目を丸くした。


「新型の性能のおかげ?という事はありませんか?

私から見れば、まだまだ荒い。」


帝国の大エースの言葉にモルレフは笑った。


「ハハハッ。

大佐からみれば、全てのFGパイロットは”荒い”。でしょうよ。

新型といっても、1機のFG。

戦場を一変させるほどの力はありません。

よくやっていますよ。タクは。

ところで、ゼッレの奴はどうですか?」


「ああ、1回の模擬戦で3回は死んでいますね。

ただ、成長は見込めます。

筋は悪くない。」


「大佐相手にone on oneをやってるわけですからな。

3回なら及第点でしょう。

いい経験になっている事でしょ。」


模擬戦では、ティープの相手を担当しているゼッレが

一番の外れくじだと言えよう。

彼の役割は、ティープをタクやマリーから遠ざける役割であり、

タイマンを張っているわけではなかったが、

それでも相手はエースパイロットのティープである。

距離をとって戦ってはいたが、それでも。である。

ただし、この模擬戦の目的は、新兵である

タク、マリー、ゼッレの成長であり、

タクとマリーに、モルレフとヒルン

ゼッレにティープが付くという力関係がアンバランスな布陣であったので

この結果は仕方なかった。

この経験を糧に、戦場で生き延びてくれれば良い。

そのための訓練である。


モフレフは当初、生きる伝説とまで言われたティープに対し、

距離を感じていたが、既にその距離は縮まっていた。

鬼神か何かかと思っていたが、案外、普通の人間だという感想であった。


「大佐は、タクが心配なのですね。」


世間話程度に言った台詞であったが、ティープは真剣な顔で答える。


「あいつ。

おっかさん、カレンディーナ少将の死を感じていないようなんだ。

悲しむでもなく、敵討ちや怒りに震えるでもなく、

何事もなかったかのように過ごしている。

無理しているんじゃないかって考えてしまって。」


ティープも幼いころに父親・母親・妹を亡くしている。

宇宙海賊に襲われた結果だった。

その時は、涙が枯れるほどに悲しんだ過去がある。

そして、軍人の道を選んだのも、

軍人として宇宙海賊を取り締まる敵討ちの気持ちが強かったのである。

しかし、自分の姿を鑑みて、今のタクは異常のように思える。

あまりにも、「普通」だったからだ。

だが、モルレフは軽く笑ってティープに言葉を返した。


「彼なりの処世術なのでしょう。

あまりにも悲しい出来事が起きたとき、

人は痛みを感じないように振る舞うらしいです。

時間は一番の良薬とも言います。

今は、見守ってあげましょうや。」


モルレフの言葉を聞き、ティープは

今もマリーと話し込んでいるタクを見た。

その眼差しは、不安そうな、しかし、何も出来ない無気力な、

新米の父親のそれだったのである。


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