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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~邂逅~

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1章 4話 6節

旗艦である巡洋艦ワルキューレのクルーであっても、

頻繁に皇帝ウルスの姿を見かける事はない。

ましてや、格納庫のメカニックマン達がウルスと謁見する事など

ほとんどないと言ってよかった。

仮にウルスが格納庫に訪れる事があったとしても、

一般のクルーは席を外す事になるからである。

しかし、この日は違った。

ウルスはティープやマリー、タクを連れ立って

格納庫に姿を現す。

何も話を聞いていなかったメカニックマンたちがざわついた。


「お・・・・・・おいアレ!」


「っ!!!!陛下!!!っ!!!」


慌ててクルーたちが敬礼を返すが、ウルスは


「気にしないで作業を続けてくれ。」


と周囲のクルーに伝えると、ティープたちを先導する。

ティープは先の内戦においては、ワルキューレ配属のFGパイロットだった。

メカニックマンの一人がティープに気付く。


「ティープ大佐!ティープ大佐ではありませんか!?

お久しぶりです。

また、ワルキューレ配属になったのですか?」


気さくに声をかけた男性であったが、隣にいた同僚に肘をこずかれる。

皇帝ウルスの手前であったのも理由の一つであったが、

もう一つ、大きな理由があった。

こづかれた男は、「ハッ!」と気付いた表情になる。

内戦時、この船には3人のFGパイロットが居た。

ティープとロニャードとカレンディーナである。

特にカレンディーナはメカニックマンたちからも、おっかさんと親しまれるほど

人気があった女性である。

彼女の死を知らないクルーは居なかったし、

ティープとカレンディーナが婚約者だったことも知っている。

配慮が足りていなかったのは、事実であろう。

だが、ティープは顔見知りのメカニックマンに笑顔で応えた。


「ツル伍長。お久しぶりです。

皆、元気そうでなによりです。

今回は、新型FGの見学ですよ。」


ティープの返答に、ツル伍長は言葉を返せなかった。

カレンディーナを失って悲しいはずのティープが

そんな素振りを一切見せなかったからである。

2人の空気感を察したウルスが助けをだす。


「伍長。ティープ大佐に新型2機を見せたい。

案内してくれるかな?」


「ハ・・・・・ハッ!承知しました!」


思わぬ指名にツルは慌てて直立すると敬礼を返す。

大抜擢である。


「こちらです!」


ぎこちなく案内するツルに、ティープは口元をほころばせた。

懐かしい空気である。

内戦時はこの場に、ティープとカレンディーナは居た。

格納庫では、メンテナンスの手伝いをしなかった事で、

カレンディーナによく叱られたものである。

そのとき、一緒に叱られていたのがツル伍長だった。

ティープにメンテナンスの基礎を教えなければならない立場だったのに、

いつも雑談で盛り上がっていたからである。

だが、この日は世間話はなかった。


「あれです。」


ツルが指さした先には、真っ白なカラーリングのFGが1機みえる。

白を基調としたFGは珍しい。

光源の少ない宇宙空間で、白は微弱な光さえも反射してしまうほど

目立つ存在となってしまう。

戦闘用の兵器としては、白は有り得なかった。

だが、そんな不利な白い機体で、戦場を自由に飛びまわり、

エースと呼ばれるほどの成績を挙げた者がいる。

「雪結晶の彗星」ティープ大佐、その人である。

彼が搭乗したワンオフ機FGシュヴァンは、雪の結晶を国旗にあしらい、

白を国家のナショナルカラーとするスノートールのシンボルとして

製造された兵器であった。

そのシュヴァンにティープが搭乗する事になったのは、

ただの偶然である。

ワンオフ機であり、試作機でもあったシュヴァンのテストパイロットとして

ティープは選ばれた。

それだけだったが、戦場で異様に目立つ真っ白な機体は

「ホワイトデビル」「白の8」として敵兵に

恐れられる存在となっていったのである。

だがシュヴァンは、先の内戦で大破し、

今は存在しないはずだった。

目の前に見えるシュヴァンと同じ白を基調とした機体に

ティープは目を疑った。


「あれは?シュヴァン?

いや、細部が若干違うな。

んー。細部どころではないか?完全に別機種か。

姉妹機か何かかな?」


独り言のようにシュヴァンの元パイロットが言う。

ツルはティープの反応に満足げである。


「違いがわかるとは、流石です。

あれはシュヴァンの後継機、ルシュヴァンになります。

大佐の戦闘データを元に、完全改修した最新型ですよ。」


「素晴らしい。」


「ですが、大佐に見てもらいたいのはこちらではなく、

もう一機のほうです。」


ツルが指さした。

そこには見慣れないFGが佇んでいる。


「メリーベルエレクトロニクスが開発し、

シュヴァンを失った大佐に乗って欲しいと

納品してきた、こちらもワンオフ機になります。

スノーバロン。

正直、カタログスペック的には

全てのFGを凌駕します。

試験的に搭乗したパイロット達も、

この機体の運動性能には目を見開いていました。」


「メリーベル?

世界的航空機メーカーじゃないか。

FG産業に参入してきたのか。」


ティープの言葉にゲイリが反応した。


「メリーベルがわが国にFGを卸してきた理由は

きな臭いがな。

内戦で戦力を消耗した我が軍なら、

戦闘データを取るのにうってつけだと思われているのだろう。

だが、その機体の性能は本物だ。

オーバースペック気味でもある。

コスト的に量産機にはむかないが、

データを取って、削られる部分は削って、

量産機を開発するつもりなんだろうな。

お前に乗ってもらって活躍してもらえば、宣伝にもなる。」


メリーベルエレクトロニクスは世界的な軍需産業メーカーであり、

取引はスノートールに留まらない。

本社はワルクワにあり、ワルクワ軍の所持する航空機の

80%はメリーベル製である。


「国力の劣るスノートールで試作機のテストを実施し、

正式な商品化はワルクワに売りつける算段なのだろう。

我が軍であれば、戦闘データは抱負に取れるってわけだ。」


とゲイリは付け加えた。

ゲイリの予想にティープは怪訝な顔をする。


「そこまで予想しておいて、相手の手の内に乗るのか?」


「残念ながら、スノーバロンの性能は本物だ。

短期間でここまでのFGを開発してくる実力は

認めざるを得ないな。

流石はメリーベルさまさまってやつだよ。」


ティープ、ゲイリ、ウルスは無言になった。

今回の対ガイアントレイブの戦争が終れば、

国際秩序は、ワルクワとスノートールの綱引きの状態になる。

ワルクワのFGの性能が格段に向上する事は

喜ばしい結果ではなかった。

ティープは2機のFGを交互に見る。

曲線を意識して使われ、FGとしては細身で重量も低い

ルシュヴァンは、まるで貴婦人のようである。

ティープが雪結晶と名付けられたのも、

シュヴァンが、雪結晶のように美しさをもっていたからだった。

対して、スノーバロンは重量級FGではないものの

鋭角さを前面に出した、名前の通り男爵のイメージであった。

ルシュヴァンが美しいとするならば、スノーバロンはかっこ良さがあった。

ティープは決断する。


「2機とも、ブレイズに配備されるんだよな?

俺はルシュヴァンに乗る。

スノーバロンはタク、お前が乗れ。

性能が高いのであれば、未熟なお前でも

生存率は上がるだろう。」


「え?俺???」


「ああ、お前は既に戦闘に参加し、生き残った。

それに、ブレイズのFGパイロットは数が足りない。

パイロットとして、作戦に参加してもらうぞ。」


ティープの言葉に、反対する者は居なかったのである。

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