1章 4話 5節
ウルスとトメリスクの会話で、ふと気付いた事を
ティープが発言する。
「エスカレッソで思ったんだが、
今回の件、不老者が関わっているというのはないのか?
彼らは遠距離の物体を電気信号で動かす事が出来るだろ?
その応用と言うか。
不老者ではないかも知れないが、人体改造技術を
こちらの世界に応用している可能性は?」
問いに答えるのはゲイリである。
「考えられる事としては、それが一番可能性が高い。
だが、不老者世界での技術は、我々は常に目を光らせていて、
彼らの暴走がないように徹底的に管理している。
国家の枠組みを超えて。な。
そこを踏まえると、もしかしたら技術自体は
不老者世界の技術の応用かもしれないが、
管理・研究しているのは、こちらの世界でやっていると考えていいだろう。
いずれにせよ。ゴットマザーマリアの関与はないはずだ。」
ゴットマザーマリアとは、不老者世界を司るAIシステムの名である。
不老者世界はゴットマザーマリアによって管理されており、
ゴットマザーマリアは、不老ではない通常世界に
害をなす思考はできないように設計されている。
また、通常世界とゴットマザーマリアには、
契約という名の取り決めが存在し、その契約下において、
二つの世界は相互不干渉であった。
ゴットマザーマリアは不死者の一人一人を徹底的に管理しているため、
通常世界の人類は、ゴットマザーマリアさえ監視していれば
不死者全てを監視しているものと同じである。
不死者世界は、国家であるスノートール、ワルクワ・ガイアントレイブの
3国のみならず、民間の組織など数多のグループが監視しているため
不老者の技術が暴走するというという事は考えにくい。
つまり、今回の件で不老者世界の関与は完全否定できた。
それに、さすがのバイオニック生命体であっても、
推進力のない物体を、宇宙空間で自由に動かすような革新的な技術はない。
「考えても埒がないってところか。」
ティープが言うとトメリスクは大きく頷いた。
「だからこその、K作戦です。
問題となるのは、ロアーソンの位置です。
我々がいるノルシーナ星系とは近い距離にありますが、
ロアーソンのあるビリアン星系は、
予定ではワルクワの第3軍が侵攻予定の星域となっており、
そこに我が軍が部隊を進めるとなると、問題が生じます。」
トメリスクの言葉に、ゲイリが答える。
「第3軍は、ワルクワの本隊であり、
ドメトル6世が親征している部隊でもある。
そこが今回の胆だな。
ドメトル6世の側近に取り立てられているガルという人物は
元スノートールの人間で、旧知の仲。
彼を利用する。
今後の対ガイアントレイブ戦略について、
ガルのツテで話し合いを設けたいと打診している。
まずはワルクワ軍と合流し、ビリアン星系攻略作戦に随伴しようって魂胆だ。」
「ん?戦略の話し合い?」
「ああ。だから俺が行く。
お前達は、俺の護衛という事だ。」
ゲイリがティープに向かってウインクした。
ゲイリはイケメンという外見ではないし、キザな男でもなかったので
そのウインクは様にはなっていなかったが、
彼なりのドヤ顔という感じである。
付き合いの長いティープは、その不恰好なウインクを流す事が出来た。
「なるほどな。
ゲイリは知る人は知っているが、外に向けてはただ中佐。
過剰な護衛も必要なく、巡洋艦ブレイズ1隻で
ワルクワ軍と合流したとしても違和感はないわけか。
だが、ガルが居るのであれば、ゲイリはウルスの腹心、
重要人物であることを知っている。
無碍に扱われる事はない。と。」
更に言えば、そこに、ゲイリとは士官学校から付き合いのあるティープが
護衛につくということにも、不自然さはない。
むしろ妥当な人選だとも言える。
「それに・・・・・・。」
2人の会話に、ウルスが口を挟む。
「K作戦をカモラージュする。
ティープ、君に新型FGのテストをお願いしたい。
後方勤務になるというから、誰に任せようか悩んでいたところだが、
前線に戻るというなら、君に新型を任せたい。
K作戦が敵の耳に触れる事はないとは思うが、
便宜上、K作戦を新型FGのテスト運用と位置づけする。
君は有名人だからな。
下手に隠すよりも、そのほうがいいだろう。」
会議に参加していた一同が頷いた。
トメリスクがあとに続く。
「わからない事だらけで、話し合いにもなりませんので、
今回は作戦の大まかな枠組みの意思統一を会議の目的とします。
・・・・・・。
まずは、敵の新兵器を探るため、クールン人と呼ばれる者たちが
いると思われる惑星ロアーソンを調査します。
そのためには、ワルクワ王国と合流する必要がありますが、
その理由付けとして、
ゲイリ中佐が今後の戦略の話し合いという事で、ロアーソン攻略を担当する
ワルクワ第3軍と合流します。
都合が良いとは言えませんが、戦場は現在、硬直状態であり、
タイミングとしてはベストでございましょう。
その中で、ロアーソン攻略にブレイズが参加できるように
交渉をお願いします。」
ゲイリが頷く。
トメリスクは話を続けた。
「惑星ロアーソン攻略部隊に参加できたら、
手がかりがあるとするのであれば、
惑星に唯一存在する軍の施設の研究所でしょう。
この研究所は、ロアーソンに元々いた生命体の研究を実施しているところです。
体長0.02mmしかない生命体で、
人類に害はなく、ロアーソンにはそれ以外の生命体は存在しません。
もちろん、知的生命体でもなく、研究の価値もないと言われておりますが、
今もこの研究施設が、軍の管轄として機能しているのには
若干、引っかかります。
惑星固有の生命体が存在していた場合、
その研究が行われるのは、特に不自然な事ではないのですが、
研究が終えたのであれば多くの場合、民間に払い下げられるのが普通です。」
それまで無言だったオットー大佐が相槌を打つ。
「つまり今も尚、何かしらの研究を継続している可能性が高いと言う事か。
それが、クールン人である可能性があると。」
「そういう事です。
ブレイズはロアーソン攻略の際、重力下での新型FGのテストとして
研究所を制圧していただきます。
ロアーソンには大規模な駐留陸軍は存在しておらず、
戦闘が起る可能性があるのは、この研究所がある一帯だけです。
新型FGのテストという目的で部隊を投入するには
妥当な線だと言えるでしょう。
この一連のFGテストを、K作戦と呼ぶことになります。
K作戦の本来の目的を知っているのは、ここにいるメンバーだけ。
という事です。」
オットーが腕組みしながら、ウンウンと頷く。
「承知しました。
研究所の制圧、そして可能であれば、クールン人と呼ばれる者たちの保護。
それを、ワルクワに気取られないように行う。
という話ですな。」
オットーは口に出して言ったが、それはこの場に参加している
マリーやタクに向けて説明する気持ちから発せられた言葉であった。
艦長職であり、部隊の責任者である彼の彼らしい配慮である。
特に質問や意見がない事を受け、ウルスが椅子から立ち上がった。
「じゃあ、ティープ。
格納庫に案内しよう。
新型機は、既に納品されている。」
ウルスはまるで子どものように目を輝かせながら言った。
彼がFGに対して、童心の憧れのような感情を抱いている事は
彼の知り合いならば、誰もが知っていた。
男子はどの時代も、巨大人型ロボットに憧れを持つものである。
皇帝となったウルスも、例外ではなかったのであった。




