1章 4話 1節 K作戦
ティープの問いにゲイリは、パソコンのモニターを叩いた。
「惑星クールンは、いわくつきの惑星でな。
大気も水もあり、ハビタブルゾーンに存在していながら、
生命の居ない星と言われている。
80年ほど前に、ガイアントレイブは移民船団を派遣し
200万人ほどが惑星クールンで開拓を始めたのだが、
伝染病か何かで200万人がほぼ全滅したと言われているんだ。
生存者は4名。
奇跡のクールン移民とニュースになったようだね。」
オットーがその話を聞き、思い出したかのように言う。
「そう言えば、惑星クールンでありましたな。
先行して惑星に入った調査団のメンバーも、2年後には死去しており、
かの地に降り立った人間で生き残ったのは4人だけ。
しかも全員が女性であると。
惑星移民の恐ろしさを感じさせる事件として
軍の資料にもありましたが、
確か、移民団の全滅原因をガイアントレイブは公開しておらず、
謎の事件の一つである記憶しております。」
「ああ、それ以外の情報は全くなく、
生存した4人の続報も皆無。
人によっては、他国の惑星開発を遅らせるための
ガイアントレイブのでっちあげだ。という意見もある。」
ゲイリの言葉に一同は黙った。
誰もが、「怪しさ」を感じたからだった。
しかし、その言葉は感覚でしかなく、口にするのは憚られたのだ。
ティープが意を決したかのように口を開く。
「ゲイリ。
おっかさんの後任は、ロニャード中尉になるはずだったが、
予定は変更はないな?」
「ああ。お前が前線を退くなら、FGの実戦部隊は
ロニャード中尉が引き継ぐことには代わりはない。」
ゲイリは答えた。
ロニャード中尉はティープの僚機として
先の内戦を潜り抜けたエースパイロットの一人である。
ティープの補佐の立場でありながら、
自身も撃墜数を稼ぎ、見事内戦を生き抜いた。
何よりも雪結晶の彗星と呼ばれたティープの僚機として
コンビを組んだ実績は高く評価されている。
並のパイロットでは彼についていく事さえも難しいのだ。
ロニャードは未だ23歳と若かったが、カレンディーナ少将の推薦もあり、
彼女の後任には、ロニャードが内定していたのである。
そもそもFGが兵器として実戦運用されだしてから日は浅く、
FGを率いる経験が豊富な人材がいなかった事もあり、
ロニャードよりも戦果をあげたFGパイロットは
ほとんど存在しない中で、ティープが前線を退くとなれば、
実績面ではロニャードが1歩抜けていた。
むしろ、持ち前の技量で敵に突っ込んでいくティープよりも
部隊指揮に関しては優れているとの評価もあるぐらいである。
ティープはゲイリの回答に頷いた。
「予定はそのまま進めてくれ。
ただ、俺は前線に残るぜ?
おっかさんが死ぬ羽目になった原因を知りたい。
クールン人ってのは何なのか?
俺は知らなきゃいけない。」
カレンディーナの退任とともに、後方の惑星勤務に異動するはずだった
ティープが、前線に残ると言う。
ここにいるメンバーは誰も驚かなかった。
ティープとカレンディーナの関係を知っているからである。
ゲイリも特に驚いた表情はない。
「部隊はどうする?
ロニャードの代わりもだ。
前線に残ると言っても、新兵器の謎を解明したいのだろ?
普通に戦っていればいいというものではないだろう。」
「補佐はマリー伍長でいいだろ?
彼女もおっかさんという相棒を失って今一人だ。」
「わっ・・・・・・私も少将が亡くなった理由を知りたく思います。」
慌ててマリーが口を挟んだ。
彼女自身も、カレンディーナの僚機として
上官を守れなかった責任を感じていた。
ティープの提案はまさに救い舟である。
そして、タクも思わず口にしてしまう。
「父さん!!
俺も、俺も母さんの死の真相を知りたい。
力にはなれないかも知れないけど、俺も!」
若い2人の直訴に、会議に出席しているメンバーは
同情を感じ得ない。
10秒ほどの沈黙のあと、ゲイリが提案する。
「我が軍としても、未知の兵器の存在は軽く扱えない。
この空域に戦略的価値はないのにも関わらず、
新兵器を投入してきたのは、実験の意味が込められているんだろう。
戦闘で敵のFGを撃墜したことで、
恐らく、暫くは新兵器の投入はないと思われるが、
脅威であるのは間違いないからな。
ティープが居なかったら、FG部隊の全滅はおろか
ブレイズの轟沈も可能性はあったと考えられる。
・・・・・・。
オットー艦長。参謀本部より命令を伝える。
貴官に敵の新兵器の調査任務を命じる。
巡洋艦ブレイズの戦力を以って、敵の兵器を探って欲しい。
追加調査員として、ティープ大佐・マリー伍長を預ける。
作戦名はK作戦。
巡洋艦ブレイズは本日付けをもって、リリラアイス星域を離れ、
王国本隊と合流して欲しい。」
ゲイリの言葉に、オットーが椅子から立ち上がり
素早く敬礼を返した。
「オットー大佐及び巡洋艦ブレイズ、
命令を受け賜りました。
ティープ大佐に命を救われたも同然です。
喜んで協力致します!」
会議に参加していたティープ以外の人員もオットーに続き、
モニターに向かって敬礼を返した。
ティープは深く頭を下げる。
「艦長。ありがとう。
皆を守れるように、全力を尽くすよ。」
ティープも立ち上がると、オットーに向け敬礼を返した。
星暦1002年2月24日
巡洋艦ブレイズはリリラアイス攻略部隊から離脱し、
スノートール帝国軍が本陣を構えるノルシーナ星系を目指す。
K作戦は静かに発動するのであった。




