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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~邂逅~

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1章 3話 4節

ふとした感覚で、タクは目が覚めた。

身体が横に寝転がっているのを感じる。

布団の中であろうか?安らぎさえ感じていた。

瞳を開けると、照明の器具と天井が見える。


「あ、タク。」


女性の声にタクは顔を右に倒すと、そこにはマリーがいた。


「マリー伍長。

ここは?」


「ブレイズの医務室よ。

あなた、ポロンのコックピットで気を失ってたから。

身体は大丈夫?」


「う・・・うん。」


そう言いながらタクは身体を起こす。

特に身体には異常がないようだ。

上半身だけ身体を起こすと、無意識に両手を身体の前に掲げ

掌を見る。

ようやく思考が追いついて来た。


「せ・・・・・・戦闘は?」


この質問は愚問ではある。

戦闘が終っていなければ、タクもマリーもここには居ない。

医務室で寝ているという事は、彼らは戦闘で生き残った事を意味する。

だが、確認は必要だった。

何よりも自分が落ち着くために、必要な行為だったのである。

マリーは軽く頷く。


「敵機は撃破したわ。

あなたが気を失ってすぐにね。」


マリーの言葉と同時に記憶が蘇る。

タクはビームライフルに撃たれたのだ。

正確には、タクの視界はガイアントレイブのパイロットと繋がっており、

その視界の主が撃たれたのだ。

その事を思いだすと、ビクッと身震いが走る。

高い場所から飛び降りると、脳に血が回らなくなり気を失うという話があるが

眩いばかりの光に包まれた時、彼は意識を失った。

恐怖を感じたからだと思う。

だが、記憶が戻っていくにつれ、タクはマリーに

尋ねなければならない事があるのを思い出した。


「母さんは・・・・・・?」


とても静かな声だった。

マリーも聞かれることは予想していた。

怒鳴り込むように、聞かれるのだと予想していたため、

タクの言動は予想外だった。

マリーは、首を左右に振る。

その仕草で充分だった。

タクは唇を少し噛む。


「そっか。」


タクとマリーの付き合いは長くはない。

だが初めて見せる神妙な顔つきのタクに、マリーは戸惑った。

年上とは言え、大学を卒業したばっかりの22歳の彼女に

少年の心境などわかりはしない。

慰めることも、励ますことも出来ないでいた。

そんなマリーの心を知ってか知らずか、

タクは呟きだす。


「母さんは、僕らを裏切った。

生きていてくれるだけで良かったんだ。

側にいてくれるだけで、

帰る家で待ってくれるだけで良かったんだ。

母さんは、僕らを裏切って、勝手な事をしてっ!」


それはマリーにとって予想外の台詞だった。

怒りの対象がカレンディーナに向かうとは思っていなかったのである。


「それは違うわ。

カレンディーナ少将は、あなたたちのいるこの世界を

守るために、あなたたちの生活を守るために・・・・・。」


「違うっ!

僕らは孤児だった。

一度は実の親に捨てられた孤児なんだ。

捨てられる事には敏感なんだよ!

僕らに必要なのは、安定した世界でも生活でもなく、

頼りになる、信頼できる、

信じることができる大人なんだ!

母さんが一番に考えなきゃいけないことは、

僕らの元に帰ってくる事なんだっ!!!!」


タクはうつむきながら叫んだ。


「僕は母さんを許さない!

僕らを裏切った母さんをっ!!」


「タクぅ・・・・・。」


タクとは対照的に、今度はマリーが力なく吐息のように

タクの名前を呼んだ。

マリーは思う。

タクは、感情のやり場がわからないのだと。

怒り、悲しみ、悔しさなどが入り乱れているのだろうと。

だが、これはタクの防衛本能である。

心を繋ぎとめる為に、彼はカレンディーナを恨んだ。

そう思わないと、彼女が彼の目の前から居なくなった事実を

受け止める事ができないからだ。

大切な人を失った悲しみよりも、

大切な人に裏切られたほうが、気が楽だったのである。

もちろん、本人はそこまで考えていない。

そして言葉とは裏腹に、カレンディーナを恨んでもいない。

ただ、裏切られたという気持ちでいないと

心の整理がつきそうになかった。

それだけの話である。

しかし、マリーはタクのそういう気持ちを汲み取る事が出来ず、

2人の間に沈黙の時間が流れた。


「なんで・・・・・・。なんで・・・・・・。」


タクは言った。

だが、その答えは返ってこない。

その2人の空気を破ったのは、医務室のドアを叩く音だった。


コンコン


ガチャとドアが開く。

静かに開けられたドアの向こうには、一人の男性が立っていた。


「父さん・・・・・・。」


タクの言葉に、マリーが慌ててパイプ椅子から立ち上がる。

背筋を伸ばし、敬礼の仕草を実施した。


「ティープ大佐でございますか?

お初にお目にかかります。

マリー伍長であります。」


マリーの初々しい敬礼に、ティープも敬礼で返す。


「ティープ大佐だ。

知っているかと思うが、タクの父親代わりをしている。

伍長の今回の活躍は聞いている。

ありがとう。

おっ、タクも起きていたか。

丁度良かった。」


そう言うと、部屋の中に入ってくる。

今年28歳になるティープは、スラリとした長身と言っていい

スポーツマンといった体躯の男性である。

もてるだろうな。とマリーは第一印象をもった。

自然体で部屋の中に入ってくると、ベッドの横の空いたパイプ椅子に座る。

マリーにも着席を促した。

気まずい雰囲気が流れるが、タクは口を開く。


「父さん。母さんを守れなくてごめんなさい。」


ティープはタクに手を伸ばすと、頭を撫でた。


「お前がおっかさんを守れなかったんじゃない。

おっかさんがお前を守ったんだ。

よく生きていてきれた。

ありがとうよ。」


頭を撫でられながら、タクの表情が次第に崩れていく。

顔をくしゃくしゃにしながら、タクの瞳に涙が溜まっていった。


「ううぅ・・・・・・ううっ・・・・・・。」


タクは泣いた。

ようやく流れ落ちる涙は、まるでダムの決壊のように

とめどもなく続く。

押さえ込んでいたものが、溢れ出てくるかのように、

際限なく続いた。

号泣と言ってもいい。

その涙に、マリーは安堵する。

泣くべくときには、泣くべきだと、彼女は知っていたからだった。

それが、人には必要だと。

彼女は知っていたから。

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