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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~転承~

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158/159

3章 27話 2節

普通の一般人がボールを投げる程度のスピードで

小箱はバイオソルジャーに向かって飛んで行った。

避けようと思えば避けられるスピードではあるが、

銃弾を受けても倒れないバイオソルジャーが

小さな小箱の群れを気にするはずがない。

気にする素振りも見えない化け物の前まで

小箱が飛来した瞬間、ヒナが叫ぶ!


「ジャッジライトリバース!

ファイヤージャッジメント!!!

火のヒナ!

業火の海に飲まれなさい!!!」


叫びと同時に小箱がパン!と一斉に破裂すると

中から炎がブワッ!とバイオソルジャーたちの上空で

カーテンのように広がった。

ベイノはその光景を見て、彼女らクールン人が

何をやろうとしている事を察知する。


「なるほど。

小箱に中には、ガソリンの類を入れていたな。

それを空中でまき散らし、発火させる。

可燃したガソリンは、まるで火の雨のように

対象とその一帯を包み込む!!!」


その語調には明らかな嫌悪感があった。

タクは知らない事ではあるが、ベイノはかつて

決死の覚悟で玉砕的に突っ込んでくる敵と戦った事がある。

何でもありの戦場だった。

道徳と言うものが存在しない戦場だった。

彼の心の中には、今もその時のトラウマが残っており

目の前の光景が当時を思い出させたのである。


辺りは炎に包まれ、業火の海の中に

バイオソルジャーたちが飲み込まれると、

「ぐおおおおおおお!」

と苦しがる叫びが広場を覆った。

更に追い打ちをかけるように陸戦隊員が銃を続けざまに放つ。

タクには手ごたえがあった。


「やった!!

あの男、リュウドンゴンとか名乗った奴、

あいつ立ち去り間際に

”化け物同士で殺し合え!”なんて言ってたけど

こんな化け物とクールン人を一緒くたにするなんて

許せない!!

バイオソルジャーなんか、正真正銘の化け物じゃないかっ!!

こんなのと一緒にするなんてっ!」


タクの言葉を聞いたベイノが目を細めた。

言うべきか言わざるべきか少し悩んだ末に、

ベイノは言うべきであると決断する。


「タク二等兵。

バイオソルジャーも、今でこそあのような姿になっているが、

元はどこにでもいる普通の人間だったのだよ。」


ベイノの言葉にタクは怪訝な顔をした。

ベイノは言葉を続ける。


「バイオソルジャー。

バイオテクノロジーの技術によって、

遺伝子組み換え、合成、融合。

強い兵士を作るために、普通の人間を改造したのだ。

そして、その技術は成功した。

一般人では到底及ばない身体能力と戦闘力を人類は手にしたが、

あまりにも強い戦闘力に対し、人は恐怖し、

彼らから『理性を奪った』のだ。

考えてもみたまえ、

圧倒的な身体能力に、思考力・判断力・決断力が備わっていたら

どうなるかを。

人類は恐怖したのだ。

完成型である最強の兵士を恐れたのだ。

だから、人類はバイオテクノロジーで改造した兵士たちから

理性を奪い、自我を奪い、尊厳さえも奪って、

簡単な命令しか聞かないよう

コントロールできるように改造した。

バイオソルジャーをただの化け物にしたのは、

他でもない我々人類なんだよ!」


ベイノの言葉に、タクは思考が追い付いていなかった。

ベイノが何を言おうとしているのか?瞬時にはわからなかったからである。

しかし、ベイノは言葉を続けた。


「化け物を生み出す事が出来る人類こそが、

正真正銘の化け物であると思わないかね?」


「!!!」


「タク二等兵。君はまだ若い。

世界がどういうものなのか?

自分を取り巻く社会がどういうものであるのか?

を理解していかなければならない。

クールン人というモノだけに捉えられてはいけない。

君が守らなければならないのは、

クールン人ではない。

人間の尊厳だ。

そこを守れば、結果はおのずとついてくる!」


「閣下!?

どうして小官にそんな事を!?」


タクは遂に疑問に思っていた事を口に出して聞いた。

いくら珍しい少年兵とは言え、

ベイノがあまりにも二等兵でしかないタクに

関わってくるからである。

司令官であるのに、このマークサスへの上陸に

同行しているのだって、実はタクが目当てではないのか?

と、思い始めていたからであった。

タクの質問を受けて、ベイノは無意識に銃を握る手に力が入る。


「私は・・・・・・。

たった一つの、大切なものを守ろうとした戦士と戦ったことがある。

かの戦士は、全てを犠牲にして、

たった一つのものを守ろうとしてきた。

人間の生命や尊厳などを全て投げ捨てて向かってきたのだ。

周りを全て敵と認識し、全方位に攻撃してきたのだ。

だが、私には彼女が本当に守ろうとしたものが

守れたとは思えない。

現に!」


と、そこまで話すとベイノはタクを見た。

視線が合ったタクは、きょとんとした表情を見せる。

ベイノは首を振る。


「とにかくだ。

目的と手段を間違ってはいけないよ。

君の今の瞳は、その時の戦士の目と同じだ。

何もかもを敵視し、受け入れざる者を排除しようという

強い意思を感じられる。

君の任務はクールン人の警護だが、

だからと言って、無秩序に人を敵視してはいけない。

周りは全て敵だと錯覚してはいけない。

バイオソルジャーとて、元は愛国心あった

ただの国民だったのだから。」


「閣下・・・・・・。」


タクは言葉に詰まった。

ここで何かを言ってしまえば、

言ってはいけない事まで言ってしまいそうになったからだ。

タクらが、カサンドウラで何者かの襲撃を受けた事、

強烈な民意という悪意に潰されそうになった事を

ベイノが知っているはずもない。

だが、ベイノのその口ぶりは、

何もかもを見通しているかのような言葉だった。

タクは黙って目の前に広がる炎の壁を見た。

その中で両手を挙げ、熱に苦しむバイオソルジャーが居る。

中の酸素も火によって消費され、息もできない状態であろう。

彼らも元は、普通の人・・・・・・。

否、軍人である彼らは

日常でも人同士で殺し合いをしている。

だから、元が人であろうとなかろうと

それが敵ならば、戦う事は悪い事ではない。

だが、このような化け物を作り上げたのは

人間自身であるという事は理解しなければならないと思った。

そう、敵への憎悪が、復讐心が、

バイオソルジャーという非人道的な兵器を作り上げたのだ。

その事は、クールン人問題にも全く関係がないとは言えないだろう。

クールン人が人であるのか?化け物であるのか?

それは、予め決定された事実ではなく、

人の意思、集合体の総意によって決まるのだ。

タクらの行動が、クールン人を人にも、化け物にもする可能性があるのである。

その境界線こそが、タクらの選択で変わり得るのである。

それこそ、彼らの肩にかかっている重責であるとも言えたのだった。


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