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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~転承~

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157/159

3章 27話 1節 (タイトル未定)

ぐおおおおおおおおおおおおおおおお!


激しい咆哮が鼓膜を揺さぶった。

直接的な外傷はないが、神経に響く。

集中力を落としたカズの魔法は一部弱まり、

その隙をついた3体のバイオソルジャーが、

ジャンプして液状化した地面のエリアを抜け出した。

残りの5体も後に続こうとするが、

フッ!

と、急にバイオソルジャーの咆哮が止む。

吠えていた化け物は、急に首を搔きむしるように仕草で

明らかに苦しんでいた。

喉に何か詰まったのか?声を出したくても出せないようである。

代わりに後方にいるクールン人の集団から声がした。


「リーフジャッジメント!

木のアサ!!!

1体だけですが、呼吸を止めました!」


またしてもタクと同じぐらいの歳の少女の叫びに

ベイノが反応し、銃口を首を掻きむしるバイオソルジャーの喉元に向けると

引き金を引く。

バフバフ!という音と共に銃弾は首の中央に命中し、

バイオソルジャーは口から声ではなく、赤い鮮血を噴水のように

上空へと吐いては倒れた。

しかしエリアに残る5体の内、倒したのは1体。

残りの2体が、同じく地中に捕まる仲間のバイオソルジャーを

踏み台にして、彼らもジャンプしエリアを脱出する。

連続した攻撃で地中に残された2体は力尽きて倒れるが、

カズの魔法によって液状化したエリアを計5体のバイオソルジャーが

脱出したのだった。

5体は理性もなく、ただ腕を振り回して暴れる。

攻撃の精密性はなく、焔騎士団の面々はなんとか回避しているが、

手の打ちようがなかった。

しかし、ティープは隊員を励ます。


「こちらの損害はなく、3体も倒せたんだ!

残り5!

帝国軍人の矜持を見せろ!」


叱咤を受け、隊員たちも覚悟を決める。

後方には、無防備な女性のグループが30人近くいるのだ。

ここで逃げ出すような兵士は、焔騎士団にはいない。

一人が銃を撃ち、敵の注意を引き付けると

次は左右から銃で攻撃する。

バイオソルジャーは左右からの同時攻撃に

首を激しく振るが、どちらを攻撃するか迷っている間に

後方からも銃撃を受ける。

タクは一連の動きを見て、感嘆していた。


「凄いっ!

敵に的を絞らせないように連携している。

まるで、対バイオソルジャーの訓練をしていたかのようだ。」


タクの独語に、隣にいたベイノが応えた。


「あれは、対バイオソルジャーというより

対FG戦闘の応用だな。

陸戦隊員だけでFGを叩くための動きだ。

それぞれがヒットアンドウェイで

FGに的を絞らせない戦い方だね。」


対FG戦闘と聞いて、FGパイロットであるタクは肝が冷える思いをした。

あんな様々な角度から代わる代わる撃ってこられたのでは

翻弄されてしまう事間違いなしである。

今はハンドガンでの攻撃であるが、

あれがロケットランチャーや対戦車砲の類であったなら

流石のFGと言えども無傷では済まない。

スノートール帝国の対FG戦術が歩兵部隊にまで

浸透している事に驚愕するしかなかった。

身体が硬直したタクを見て、ベイノは笑う。


「はは。

そんなに考える事はない。

FGであるならば、罠が張られていると思えば、

その場から立ち去ればいいだけの話だ。

あれは、FGを退かせる事は出来るが、

撃破する戦術としては足りてないのだよ。

歩兵でFGを簡単に撃破出来るのであれば苦労はしない。

しかし・・・・・・。

ここで瞬時に対FG戦術を応用してくるとは、

流石に帝国最強と言われる焔騎士団だけある。

見事な連携だ。」


ベイノも感心するかのように言った。

一撃で倒す事は難しいが、少しずつダメージを与えていっている。

翻弄していると言っても良かった。

理性の無いバイオソルジャーである事も、戦術が上手く機能している理由である。

更に、液状化の魔法を使っていたカズも

態勢を立て直すと、新たな足場に液状化の魔法を付与する。

流石に2度目とあり、少しでも地盤が緩めば、

バイオソルジャーはその場を離れようと飛び跳ねるが、

その瞬間は隙が出来る。

十分な援護になった。

だが、一見優勢に見える戦場であったが、

ティープもベイノも危機感を持っていた。

これは根競べである。

バイオソルジャーが倒れるのか先か、

それとも、味方の弾薬が切れるのが先か?

ティープはヒナに向かって叫んだ。


「ここに何か武器はないか?

やつらタフすぎる!!!」


そう、帝国軍はここで戦闘になる事を想定していなかった。

護身用のハンドガンは所持していたが、

対人間であれば十分であり、それ以上の火力のある武器は

携帯していなかったのである。

クールン人に警戒させないための配慮もここでは裏目にでた。

今必要なのは、身体を貫通する殺傷能力ではなく、

部位ごと吹き飛ばすほどの破壊力である。

それが圧倒的に足りなかったのだ。

現に、バイオソルジャーたちは既に100発以上の銃弾を受けている個体もある。

だが、倒れる気配がなかった。

銃の弾数が少なくなった事は、それまで一回の攻撃で3連射していた隊員たちが

1発ずつしか撃たなくなった事でも推測できた。

予備のカートリッジも底をついてきていたのである。

ティープの要請を受けたヒナは、近くにいた同胞に向かって叫ぶ。


「マミ!

大婆さまの許可は取っているね?

アレを!!!」


「大丈夫!

準備は出来てるよ!」


マミと言われた少女は、後方のクールン人たちに合図をした。

するとクールン人の更に後方にポツポツとなにやら小さな球体が

無数に浮かぶ上がってくる。

モノを浮かせる魔法はティープらも何度も見たことがあり、

特段珍しいものではない。

ハルカでさえも手のひらサイズのモノであれば

空中に浮かせる事ができる。

ましてや、30人近くのクールン人がいれば、

50個ほどの数の小さな小箱を浮かせる事など不思議ではないだろう。


「いっけぇーー!」


ヒナが叫ぶと、浮かんだ無数の個体は一斉に空中を走り出し、

バイオソルジャーに向かっていた。

だが、何の変哲もないたただの小箱のようである。

殺傷能力があるようにはティープに見えなかった。

スピードも音速を超えるという事もなく、

加速度による衝撃にも期待できない。

ティープは思わず口にする。


「何をしようってんだっ!?」


「まぁ、見てなさいって!!!」


ヒナは自信ありげに叫んだ。

クールン人の底力を見せてやると言わんばかりに。

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