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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~転承~

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156/159

3章 26話 6節

リュウドンゴンは広場に集まっている集団に

舐めまわすような視線を泳がせた。

そして満足気な表情を見せる。


「帝国の軍人、一般人のような貴婦人たち。

か弱い女性を守るような陣形。

う~ん。

素晴らしい。」


彼は待ち受けていた帝国軍とクールン人の集団を見て、

満足気な表情だった。

追いかけっこに飽きていたのもあるが、

逃げ切れないと判断した事にご満悦だったのだ。

余裕の男にティープは銃を構えながら尋ねる。


「貴様は何者だ?

なぜこの場所にいる?

目的はなんだ!?」


「判っているのに、性格の悪い質問です。

クールン人の存在を許すはずがないでしょう?

ガイアントレイブのやり方が手緩いから

こうして私が出張ってきたわけですよ。」


リュウドンゴンの言葉に、ティープは

「チッ」と舌打ちした。

予想はついていたが、この男は

クールン人の存在を知っていたのだ。

クールン人を狙ってここに来ているのだ。

しかも、このタイミングなのを考慮すれば、

ティープら巡洋艦ブレイズが付けられており、

自分たちがここに、この招かれざる客を

呼び込んだのであろうと推測できる。

それはつまり、帝国のK作戦の情報が外部に漏れていた事を意味していた。

だが、K作戦の存在は帝国でもトップシークレットな話題である。

もちろん、可能性的にはガルやルカゼというもう一組のクールン人が

情報を流したという事も考えられなくはないが、

禁忌と言われるバイオソルジャー技術をワルクワが使用してくるとは思えない。

ワルクワは現時点では少なくとも、帝国の同盟国である。

要するに、目の前の敵は、

帝国がトップシークレットで進めていたK作戦の概要を知り得るほどの

巨大な組織なのだという事である。

それが何なのか皆目検討もつかないが、

導かれる結論にティープは背筋を凍らせた。

そうしている内に、ティープとリュウドンゴンの会話の途中で、

ヒナが動く。


「この場所に私たちが居ると知っているのに、

でも、ジャッジライトリバースが居る事は知らない!!!」


「んんっ?ジャッジライトリバース?」


リュウドンゴンは眉毛を八の字に曲げた。

初めて聞くフレーズだからである。

ヒナが叫ぶ!


「私たちの事よ!!

カズっ!!!」


ヒナは先ほど合流した少女の名を呼んだ。

カズと呼ばれた少女は両手を前方にかざすと力を込める。

その動きに瞬間的に反応したのはリュウドンゴンである。


「まさかっ!?

魔法を!!!」


「遅いっ!」


ヒナの言葉と同時に、リュウドンゴンたちが立っている地面が

うにゃりとうねる。

土の地面だったものがぐにゃぐにゃと揺れ始めると、

その場に立つバイオソルジャー8体のバランスが崩れた。

更に自重で、地面の中に埋まっていく。

リュウドンゴンは咄嗟に状況を把握した。


「こいつら、地面を液状化にっ!

行け!化け物ども!

あいつらを殺せっ!」


命令を受け動き出そうとするバイオソルジャーの足元が

さらにうねり、力を込めて地面を蹴る事が出来ない。

蹴るどころか、異形の化け物の膝までが地面の中に消えていく。

カズは更に気合を入れた。


「ウォータージャッジメント!

水のカズ!

地中で溺れなさい!!」


まるで底なし沼に引きづりこまれるように

バイオソルジャーたちの身体が地中に飲み込まれていく。

だが、その速度は早いとも言えなかった。

数秒経ってはいたが、まだ膝上までしか地中に埋まってなかった。

ティープは隊員らに命令を下す。


「敵は身動きが出来ない!

今だ!撃て!!」


パンパンパン!!と乾いた銃声が森に響いた。

バイオソルジャーたちは、その太い腕で

ハンドガンの弾を受け止める。

致命傷を与える事は難しかったが、それでもその場から

動けない標的である。

一方的に攻撃する事が可能だった。

銃口に晒される事になったリュウドンゴンも流石に焦る。


「くっ!おい!

投げろ!陸地に投げるんだ!!

このままでは地中に埋まってしまう!!」


リュウドンゴンの命令を、バイオソルジャーの1体が実行する。

肩に載っていた彼の身体を、右手で掴んでは

後方に投げた。

空中を舞うリュウドンゴンを、後方にいた別のバイオソルジャーが

受け取ると更に後方、森の入り口の小道まで投げ飛ばす。

優しく投げ飛ばされたリュウドンゴンは、魔法が効いていない

固い地面の上にふらつきながら着地にした。

ティープの銃口がリュウドンゴンを狙う。


「逃がすかっ!

お前には聞きたいことある!」


パンパンパン!と3連射したが、生かして捉えようとした事で

足元を狙ったため、銃弾はリュウドンゴンの身体を捉える事が出来なかった。

男はフゥーと安堵のため息を漏らしながら、木々の影に隠れる。


「この地のクールン人は、たいした魔法が

使えなかったのではなかったのか?

貴重なバイオソルジャーをこれ以上失ってはあのお方に叱責される。

敵に魔法がある以上、深入りは出来ん!!

ここまでか!」


そう言うと、ポケットから口笛を取り出し、大きく息を吸い込んで吹いた。

しかし、音は何も聞こえない。

人間が感知できない周波数の犬笛だったのである。

彼はこの地に100体近いバイオソルジャーを投入しており、

全ての戦力を使えば、クールン人と帝国陸戦隊を全滅させることは可能だっただろう。

だが、既に1体のバイオソルジャーを失い、

ここで8体ものバイオソルジャーが地中に捉えられている。

流石に許容できない損害であった。


「ここは退く!

化け物ども!!地中から抜け出し、殺すだけ殺せ!!」


そう言うと、更にポケットから小さなカプセルを取り出し、

8体のバイオソルジャーに向け投げた。

空中でカプセルは光を発し、爆発する。

その光を受けた異形の化け物の瞳が更に赤く充血していく。


「ははは!!!

リミッターを切った!

化け物同士、ぞんぶんに殺し合うがいい!!!」


そう言うと、元来た道を戻るように去って行こうとする。


「待てっ!!」


とティープは叫ぶが、目の前の地面は底なし沼のようになっており、

更にはバイオソルジャーの太い腕が振り回され、

追う事は出来なかった。

舌打ちするティープに、タクが呼びかける。


「父さん、あれ!!」


タクの言葉に振り向いた瞬間、


「ぐおおおおおおおおおおおお!!!」


という叫び声が広場を満たした。

とてつもない大音量で、ヒナやカズは両手を耳に充ててうずくまる。

大気が震えるほどのバイオソルジャーの咆哮だったのである。

その隙に、3体ほどのバイオソルジャーが

沼地のようになった地面を無理やりジャンプで脱出する。

戦闘は第2ラウンドに差し掛かろうとしていた。

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