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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~転承~

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155/159

3章 26話 5節

森の中を暫く走ると少し開けた場所に来た。

ちょっとした広いグラウンドぐらいの広さがあるが、

上空からは確認できなかったため、この場所にも

光学迷彩などの仕掛けがあるのだろう。

整地された地面に、何の変哲のない住宅が10棟ほど建てられている。

ちょっとした集落のようである。

その住宅の前に20人ほどの人だかりが見えた。

年齢や体形、服装などはは千差万別だったが、

一見して全員が女性であると判る。

彼女らの集団がヒナを見かけると、

その中から4人ほどの少女が走ってきた。

3人はヒナと同じ歳ぐらいであろうか?

1人はハルカと同世代のようである。

まず、先頭を走ってきた女性がヒナに言葉をかけた。


「ヒナ!

良かったぁ。無事で。

戦闘になったんでしょ?」


ヒナは軽く頷くと、険しい表情で返事を返す。


「敵が来てる。

大婆さまに報告して。

逃げ切るのは無理だと思うから、戦う。って。」


「わ、わかった。」


ヒナの言葉を受けて後ろに控えていた一人が元来た道を帰っていく。

すれ違いざまに、遅れて走ってきた少女が

ハルカの名前を呼びながら、彼女に飛びついてきた。


「ハルカー。」


「ちょっとメコー。

全力で走ってきたんだから、飛び掛からないでよー。」


ハルカの表情が柔らかくなった。

この娘が、ハルカと交信をしていたメコという少女のようである。

ヒナに話しかけていた少女もハルカの顔を見た。


「ハルカ。お帰り。」


「うん。ただいま。カズ姉ちゃん。」


感動とは言えないまでも、再会を果たしたクールン人同胞の光景は

ほんの少しの間、安らぎを感じさせてくれる。

だが、ティープは空気も読まずにこの場に割り込んでいった。

そんな悠長な時間はないのである。


「君たちがクールン人で間違いないな?

スノートール帝国のティープ大佐だ。

君たちを保護したい。

だが、先ほど言っていた敵とはなんだ?

ガイアントレイブの刺客なのか?

何故君たちはそれがわかる?」


ティープの問いに答えたのはヒナだった。

カズら今合流したばっかりの少女たちは

大人で軍人であるティープをまだ警戒しているようで

直ぐに反応する素振りはない。


「ガイアントレイブではないと思います。

王国であるなら、わざわざ今を狙わなくても

逃げ出す前に私たちを始末していたはずです。

それに、気配も違います。

異質な・・・・・・。

人間社会とは違った感覚です。」


驚いたのはハルカである。


「え?

ヒナ姉ちゃん、この気配が判るの?

私でも感じなかったのに!?」


これはティープも感じていた疑問だったので

ハルカが代弁してくれたような形になった。

ヒナはハルカと視線を合わせると、クスッと笑う。


「魔法ね。

少なくともハルカより使えるのよ。

メコだって、あなたより魔法の力が強いでしょ?」


「メコは通信手段に特化してるからー。

それに魔法の力があるんだったら、研究所に・・・・・・。」


ハルカは素朴に思った事を口にした。

魔法の力が強いのであれば、ハルカらと同じように

ガイアントレイブの研究材料になっていたはずである。

だが、ヒナは否定する。


「モミジお姉ちゃんがね。

魔法の力は隠しなさいって。

ハルカやルカゼは、お母さんの力が絶大だったし、

ルカゼは物心付く前から、魔法を自然に使ってたでしょ?

だから騙せないけど、私たちなら

魔法を使えないという事にしておけば、

研究所には連れて行かれないだろう。ってね。」


「そ・・・・・・そうなんだ。」


明らかに落胆したようなハルカの表情だった。

モミジやルカゼには敵わないにしても、

他のクールン人よりは魔法が使えるという自負が

ハルカにはあったからである。

この辺りはやはり11歳の少女だと言えよう。

この事実を重く見たのはティープである。


「魔法が使えるのか!?」


ルカゼやモミジほどではないにしても、

魔法が使えると言うのは、この状況では朗報である。

なにせ今彼らはバイオソルジャーという危険な相手と

交戦している。

魔法自体を忌諱しているティープであったが、

この場面で「魔法は使ってはいけない!」というほど

柔軟性がない男ではなかった。

ティープは決断するとヒナに言う。


「状況が状況だ。

ここで全滅していては話にならない。

魔法の協力が欲しい。」


「わかっています。

あの敵は私たちクールン人も狙っています。

先ほど、明らかにハルカに向かって

あの異物は襲い掛かってきました。

あの敵は、私たちの敵でもあります。」


「助かる。

で、俺たちはどうしたらいい?」


「化け物の足を私たちで止めます。

その隙に倒していただけたら。」


「わかった!」


ティープはそう頷くと、陸戦隊員たちに指示を出した。

扇状に陣を組ませ、一斉に射撃できるように隊員を配置する。

もちろん、ハルカやクールン人は後方に下がらせ、

ハルカの護衛役のタクと、将官であるベイノも

クールン人と共に後方に下がった。


先ほど駆け抜けてきた小道の奥から、

ドサドサドサと地面を響く音が近付いてくる。


「来るぞ!」


ティープの号令の下、陸戦隊員たちが一斉に銃を構えた。

先ほどは不意打ちであったがため混乱したが、

ここに派遣された陸戦隊員たちはスノートールが誇る

最強の陸戦部隊「焔騎士団」の面々である。

怯えた表情の兵は一人も居ない。

そして、小道の奥から再び異形のバイオソルジャーたちが現れる。

一体の肩の上には、謎の男リュウドンゴンが乗っていた。

彼は待ち構える帝国軍の兵士たちを見て

フフッと笑う。


「追いかけっこはここで終わりかね?」


待ち構えられていたにも関わらず、

リュウドンゴンの表情は余裕に満ちている。

圧倒的な戦力に差があるのを彼の表情が物語っていた。

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