3章 26話 3節
パンパンパン!
即座に銃声が森の中に響く。
陸戦隊員が放った銃弾が異形の生物に当たるが、
異形のモノは全く微動だにせずに銃弾を受け止めた。
ベイノが舌打ちをする。
「チッ!
バイオソルジャーかっ?
星間法で禁止されているものを!」
バイオソルジャーとはバイオテクノロジーを使って
身体を強化させた兵士の総称である。
確かに一人の兵士としては格段に戦闘能力が向上するものの、
実用性はあまりないと言えた。
理由は、精神が保てないからである。
運動神経、反応速度、感覚を研ぎ澄まされたバイオソルジャーは
通常の人間とは全く違った感性を持ち、
その感性は人格をも破壊する。
脳がキャパシティーを超えるのだ。
制御できないバイオソルジャーは、ただの暴れる暴力である。
軍として有効的に扱える兵器でもなければ、
人道的にも非難された技術でもある。
だが、全く制御できない兵器という事ではない。
脳にAIチップを組み込んで、AIに制御されれば良いのである。
実際、人類がまだ銀河系地球という惑星に縛られていた時は、
人類を含めた生物と言う生物にAIを埋め込み、
兵器化した歴史があった。
その時の戦争は地獄であったと言われている。
生物という生物が、敵と味方に分かれ、
殺し合っていた。
哺乳類のみならず、爬虫類、鳥類、魚介類、昆虫、
そして動物だけではなく、植物までもAIにて制御し、
都市という都市に、殺傷兵器をまき散らしたのだった。
その時代、生態系の8割が滅んだと言われている。
銀河が衰退し、他の銀河系に人類が足を伸ばすきっかけになった
理由の一つとも言われている。
バイオソルジャーというのは、その時の兵器の名残だった。
もちろん琥珀銀河では禁止された技術である。
しかし、目の前のソレはバイオソルジャーを連想させた。
パンパン!
複数の銃撃を受けても、たじろぐことがない異形の生物は、
丸太よりも太い腕を振り回し、周囲の兵士たちをなぎ倒していく。
タクも、血の気が引く感覚に襲われた。
「銃が効いてないっ!」
タクの動揺にティープが叱咤する。
「効いていないんじゃない!
痛点がないんだ。
痛みを感じていない。
だから、神経を遮断させろ!
それしか止める方法はない!!」
銃とは、神経を遮断するには不向きな武器である。
銃が有効なのは、相手が痛みを伴い、怯んだり動きが止まったりするからだ。
確実に相手の神経を遮断させるためには、
斧などの武器で、首をぶった切るほうが早い。
銃で神経を撃ち抜くのは神業の部類である。
タクはティープの指示の困難さを痛感する。
もちろん、銃で相手の神経を断ち切る事は不可能ではない。
しかし、若干15歳の少年兵にその技量はなかったのである。
タクも片手のハンドガンで応戦していたが、
命中こそすれ、致命傷を与えるに至っていなかった。
その内、異形の化け物はタクの方を見ると、
タクの後方で恐る恐る立っている少女に目をつけた。
赤く充血した目の瞳孔が見開く。
「コイツッ!!!
ハルカ狙いかっ!」
タクが叫んだと同時に、異形の化け物は膝を曲げ、
そしてジャンプした。
高さ3mにもなろうかという大きなジャンプで
一気にタクの目の前に着地する。
「うわぁぁぁぁ!」
パンパンパン!
ハンドガンを3連射するものの、化け物は怯む素振りなく、
再び右手を頭上に高く掲げた。
振り下ろせばタクもろとも、後ろにいるハルカさえも
巻き込んで薙ぎ倒す事が可能であろう。
タクもハルカもあまりにも恐怖で、その場を動く事が出来なかった。
パン!
パン!
その瞬間、2発の銃声がほぼ同時に鳴り響くと、
タクの目の前の化け物のこめかみ辺りからパッパッ!と赤い鮮血が飛び散り、
同時に眉間の真ん中にも銃弾により穴が開く。
ティープとベイノだった。
ベイノの銃弾は横からこめかみを貫通し、脳へと着弾し、
ティープの一撃は、顔の真正面の眉間の中心を撃ち抜いていた。
2発の致命的な攻撃を受け、異形の化け物は
力を失ったかのように動きを止めると、
ゆっくりと後ろ向きに倒れていった。
神経を刈り取る事に成功したのである。
「父さん!閣下!」
振るえた声でタクが二人に感謝の意を伝えるが、
安心もつかの間、頭上の木々を飛び跳ねていた物体が
次々と地表へと雪崩込んでくる。
バイオソルジャーは1体ではなく、
空中を飛び回っていた得体の知れない物体全てが
同じような異形の化け物だったのである。
その数は、実に8体。
陸戦隊員たちを取り囲むように、次々に地面に降り立っていった。
ティープは反重力スーツを脱ぎ捨てると、
タクの隣に移動し、再び銃を構える。
一つ大きなため息が出た。
「ふぅー。
なんだこいつら?
人なのか?」
同じく、タクやハルカを守るようにベイノも隣に位置を取る。
守るべきはこの幼い二人だと決めたようだ。
「元は人でしょうな。
全身毛むくじゃらじゃない。
手足があり、二足歩行できる生物で
全身に毛がないのは、人類だけです!」
「人?
そんな・・・・・・。化け物じゃないですか!アレ!」
タクは改めて、異形の化け物を見た。
良く見れば、服のようなものを身に付けている。
服と言うよりは簡易の防具であろうか。
心臓や肺がある胸と、股間部に鉄の板が張ってある。
だが、身体のバランスがもはや人ではなかった。
身長の半分ぐらいもある肩幅。
肩幅の3分の1を占める太い首。
顔よりも大きい腕や掌。
丸太のようにに太く硬そうな太ももに足首。
辛うじて、足のサイズは大きくないが、
まるで手の平のように、指が左右に大きく開いていた。
足でも何かを掴めるかのようである。
結論。
「それは人ではなかった」
まさに化け物と形容するに相応しかったのである。
1体の異形にも苦戦していた彼らの前に
8体もの数の異形が取り囲む。
それは、絶望という感情を呼び起こすに十分な脅威であった。




