3章 26話 1節 JudgeLightRebirth
警戒しながら森のような木々の生い茂る中の小道を進む。
タクの隣にベイノ少将が並びかけた。
そろそろタクも、ベイノが必要以上にタクに構ってきているのを
薄々感じていた。
ベイノが話すべき相手は、部隊を率いるティープであり、
いかにタクと同じ年頃の息子がいるとは言え、
二等兵でしかない一兵卒の少年兵に
将官クラスの人物が絡んでくるのは違和感だったのである。
「タク二等兵。
君は、あの女の子のボディガードか何かを任命されているのかな?
いや、機密情報なら答えなくても構わないが?」
例えタクに話しかける事が不自然であっても相手は上官である。
無視する事は出来ない。
タクは礼を失する事ないように応えた。
「はい。
彼女はVIP待遇の存在で、
自分はその警護をメインでやらせていただいています。」
「彼女の顔に見覚えがある。
ワルクワが保護したという少女に瓜二つだ。
彼女もクールン人というヤツかな?
クールン人とはクローンか何かの技術なのか?
いや・・・・・・そういう事を聞きたいのではない。
失礼した。忘れてくれ。
君は任務に誇りを持っているのかね?」
ベイノは軽はずみな発言した事を慌てて訂正する。
ハルカがクールン人だとしても、それは軍事機密の類であり、
興味があったとしても簡単に口にすべきではなかった。
それはベイノも自覚している事であり、
だから、慌てて訂正したのだった。
つい口にしてしまったが、彼が聞きたかった事は本当に
クールン人の事ではなかったからである。
タクは違和感を感じつつも、ベイノの事は嫌いではない。
少年は年齢の割に、多くの大人たちを見てきている。
その観察眼が、ベイノを悪い大人と評価しなかった。
そう感じたのに明確な理由はなく、それはまるで本能である。
「閣下。
ハルカの素性に関しては、私からは答えかねます。
ですが、任務に誇りは持っています。
自分より弱い存在を守る。
それは武器を携行する軍人の基本行動だと思います。」
「うむ。
そうだ。
二等兵の言う通りだ。
軍人たるもの、弱き者を護る存在でなくてはならん。」
ベイノはうんうんと頷いた。
まるで自分に言い聞かせているかのようである。
そして言葉を続ける。
「その志のまま、育ってくれたまえ。
軍人が弱き者を虐げるような世界は、
救いようがなく、世も末だ。」
タクは何故か言葉の重みを感じた。
ベイノは特に目新しい事は言っていない。
たいした事でもない、普通の事だ。
だが、その言葉には重みがあった。
「はっ!ありがとうございます!」
タクは応える。
少なくとも自分の行動を後押ししてくれているのだ。
悪い気はしない。
二人がそのような会話をしていた時、
隊の前方でざわつきが起こる。
タクとベイノも皆の視線の先を追った。
道の向かい側に一人の女性が立っているのが見えたからである。
女性に気付くとハルカが大きく手を振って声をあげた。
「ヒナ姉ちゃーーーん!」
ハルカの声に女性も応え、右手を軽く振った。
ハルカの知り合いという事は、目的のクールン人である。
ハルカは女性の元まで駆けだしていく。
慌ててタクも追いかけた。
ティープらは女性に警戒されないように、タクのように走り出す事もなく、
それまでと同じスピードで進む。
ハルカとタクだけが、女性の側まで走っていった。
まもなくヒナと呼ばれた女性の近くまで来ると、
ヒナは案外若い事がわかる。
ハルカが「ヒナ姉ちゃん」と呼んだことでも若い女性なのは想像ついたが、
実年齢はタクと同じぐらいであろうか。
ハルカほどではないにしても、少女と言える年齢である。
ヒナはハルカを迎えると、タクの存在に驚いた様子もなく
平常心でハルカと挨拶を交わした。
「久しぶりね。ハルカ。
メコに状況は聞いていたけど、
元気そうで何よりだわ。
そちらはスノートールの軍人さん?
若いのね。」
品定めをするような視線を受けて、
タクは一瞬不愉快な気持ちになる。
14歳と若いタクが軍人であるのは、
ただでさえ周囲から疑惑の視線が突き刺さる。
「頼りになるのか?」
という不信感だった。
その視線を受けた事は、タクは1度や2度ではない。
だが、感情を抑えてタクは敬礼を返した。
「タク二等兵であります。
クールンの皆様をお迎えに参りました。」
「そう。ご苦労様。
でも、あなたたち、付けられていたようね。
部外者が入り込んでいるわ。」
「!?」
一瞬タクは考えたが、思い当たる節があったので
直ぐに安心し、少女に返す。
「我が隊の兵士の事ではないでしょうか?
現在、森の中を探索するチームが20名ほどいます。」
「違うわ。気配が違うもの。
それに数は100ぐらいよ。
森の東側から侵入したみたいね。」
「え!!!」
タクは慌てて後方を歩くティープたちを見て叫んだ。
この時点でヒナという少女の言葉を一切疑っていない。
「父さん!
敵がいる!
100人規模で敵がここに侵入しているって!」
タクの言葉を聞いて、ティープらはお互い顔を見合わせると、
タクの元へと走り出した。
まずは、合流する事が先決である。
「はぁはぁはぁ。
タク、どういう事だ?
100人規模の敵?
敵の狙いは?俺たちか?クールン人か?」
ティープの言葉にヒナが視線を森の中へ向けたまま答えた。
「どうでしょうね?
どちらも。というように見えますが。」
ヒナの言葉を受け、ベイノが森の中に入った隊員と通信を取る。
彼は一旦全員が合流するように指示を出す。
素早い決断である。
だがほぼ同時に、緊張した雰囲気の中を
前方にある木の影より一人の男性が姿を現した。
軍人の服装ではない。
女性でもない。
ティープが即座に銃口を向け叫んだ。
「止まれ!動くな!
動くと撃つ!」
その言葉を聞いた男は、おもむろに両手を挙げ
抵抗の意思がない事を伝えるが、
不敵な表情で、タクらを見て口元を二やつかせる。
「ビンゴォ!
あの方の言った通りだ!
ハハハ!
流石だな。」
男性にしては甲高い声がタクの耳に、
とても耳障りに届いた。




