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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~邂逅~

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1章 3話 3節

ほどなくして、マリー伍長がタクのFGポロンの元へと辿りつく。

タクのポロンは全ての動力を失っており、

通信機での呼びかけにも反応はなかった。

整体識別信号だけはキャッチしていたので

生きているのはわかっていたが、マリーは不安を隠せない。

マリーは自身のFGルックをポロンに接触させる。

接触により、少なくともマリーの声はタクに届くようになる。


「タクッ!?

平気?敵は居なくなったわ。

ポロンを再起動できる?タク?」


勿論、返事は期待していなかったが、

再起動の気配すらないポロンに、マリーはルックの

コックピットのハッチを開け、宇宙空間に出た。

ポロンのコックピットである頭部へと近付く。

コックピットは外からでも手動で開けられる作りになっている。

マリーは空気ジェットで宇宙空間を移動しながら

ポロンの頭部へと手をかけると、緊急用のレバーを倒す。

ガシャという衝撃と共に、頭部コックピットのハッチが開く。


「タク!?」


彼女は声をかけるが、ただでさえヘルメットによって

音が篭もる状態に加え、コックピット内の酸素が宇宙空間に放出された事で

真空状態になったコックピット内では、声は伝わらない。

マリーは椅子に座ったまま動かないタクの肩に手をかける。

ヘルメットの中を覗き込むと、タクは気を失っているかのように、

瞳を閉じたまま、うな垂れていた。

身体に外傷は見当たらない。

マリーは、「ふぅ」とため息を漏らした。

激しい戦闘を実施した後である。

緊張の糸が解け、気を失ったのだろうと推測した。

彼女はヘルメットの通信機能をONにする。


「モルレフ曹長!タクは無事のようです。

気を失っているようですので、私のルックに収容して

ポロンは牽引でブレイズに合流します。」


「承知した。

我々の理解の及ばない事に遭遇した可能性もある。

注意を払ってくれ。」


モルレフは言う。

今回の戦闘は不可解な事が多い。

まずは、Gー2機雷が推進力もなしに宇宙空間を自由に飛び回っていた事。

二つ目に、脳に直接響いてくる少女の声。

三つ目が、その声に応えたタクの声も、直接脳に響いてきたこと。

二つ目と三つ目は関連があるように思えるが、何もわからない現状では

この二つは個別に考えるべきであろう。

それに、タクが見たという映像。

映像はモルレフやマリーには見えていなかったので、

何が見えていたのかはわからない。

だが脳に直接、声を届けてきた相手である。

否、声なのか?思念なのか?はわからなかったが、

通常ではありえない事が起きた後である。

何かしらの不可思議な現象がタクに起きていただろう

という事は予想が出来る。

そうでなくとも、タクは一般のFGパイロット以上の動きで

機雷群をすり抜けた。

精神的にすり減っていただろうというのは想像に難しくなく、

カレンディーナの件もある。

14歳の少年が体験するような事ではなかった。

モルレフはタクを収容するマリーのルックの周囲を警戒しながら、

作業の進捗を見守った。

後方にいた巡洋艦ブレイズと、護衛についていたヒルン隊も

こちらに向かっているという報告も受けている。

行方不明者5名。

撃墜した敵機は4機。

数の上では互角に思えるかもしれないが、行方不明となっている

カレンディーナ少将は将官であり、

退役予定だったとは言え、スノートール帝国の

FG部隊の総責任者である。

もちろん、敵は未知の兵器を運用してきた。

FG部隊の全滅どころか、母船であるブレイズさえも轟沈されていたかもしれない

強力な兵器と対峙し、これだけの犠牲で生き残れたのは上出来なのかも知れない。

だが、数字上では言い表せないものもある。

カレンディーナはタクの母親であったし、タクは目の前で母親を殺されたのである。

その婚約者であるティープ大佐も現場に急行しているが、

歴戦のティープ大佐と言えど、婚約者を失った事実、

そして自分の到着がほんの数分遅れた事を後悔するであろうし、

タクはどうのような表情で、ティープ大佐に会えばいいのであろうか?

モルレフは残された二人の事を考えずにはいられなかった。


「マリー伍長。

君はカレンディーナ少将の随伴として、この部隊に合流している。

次の正式な配属が決まるまで、タクの側に居てやってくれないか?

フォローが必要だろう。」


「ハッ!」


マリーは即答した。

彼女の性格からして、モルレフの指示は受け入れ難いものだった。

何故なら、彼女は男性社会の軍隊において、

女性であることを意識される事が好きではなかったからである。

タクは少年兵であり、この場合は子守りを命じられたようなものであり、

それを女性だからと安易に頼まれたと捉えられなくもない。

だが、タクはマリーに近しい存在であったのも確かである。

無難な人選であるとの判断も充分に出来る。

彼女はそう思いこむ事にしたのだった。

それに彼女は、ガイアントレイブの謎の少女との

念話のような会話をまとめる必要もあった。

ブレイズ隊に多大な損害を与えた機雷誘導の謎は解かれてはいない。

少女との会話に、何か重大なヒントがあるかも知れなかった。

直属の上官であるカレンディーナ少将の仇討ちもある。

些細な情報も見逃すつもりはない。

そんなマリーにモルレフは言葉をかける。


「伍長は強いな。

これほどの被害だ。

私は気が動転しているよ。」


「私だって、悲しくはあります。

ですが、カレンディーナ少将の下につけられて

まだ日も浅いですから。

悲しむべき人たちが他にいるのに、

私まで悲しがっているわけにはいかないと思います。」


「うむ。

そうだな。そうであるべきだ。」


モルレフは力なく、そう答えたのだった。

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