3章 25話 5節
タクら一行は、トエフォローエン基地の敷地内を出て
総勢65名、兵員輸送車を含む戦闘車両8台で
基地より一本道で繋がる立ち入り禁止区域へと進んでいた。
タクら他には、ベイノ少将、スゥドウ中佐も同行している。
ベイノはタクの隣に座っていた。
「タク二等兵。
君は立派だな。
私にも君と同じ位の歳の息子がいるのだが、
学業も疎かに、遊んでばっかりいるよ。
ま、私だって14歳の頃は
遊んでばっかりだったがね。」
ベイノは世間話をしだした。
いつものベイノを知っているわけではないので、
タクもティープも、違和感などは一切感じていない。
部下にもきさくに話しかける良い上官なのだろうとの
イメージである。
タクは一瞬戸惑ったが、ベイノの会話に合わせる事にした。
「別に早いうちから働くのが偉いとは思いません。
少将閣下がそうであるように、
勉強して社会に出てからのほうが、
大いに貢献できるのではないでしょうか?
自分のような人間は、小さい貢献しか出来ません。」
「いや。立派だよ。
若い時は遊びたいものだ。
君のように、若くして働かざるを得ない社会というのは
なくなればいいとも思うが、
個人でみるなら、君のような若者が増える事が望ましいのかも知れんな。」
二人の会話にティープも混ざる。
「閣下。
自分も15歳より士官学校高等部へと進学しました。
家族を宇宙海賊に殺されたためでございますが、
今の軍には、自分やタクのように
致し方なく軍人になった者が多い。
ご家族が健在であるなら、普通に生きるのが良いと思います。
それに、我々のような人間は普通の家庭の子どもとスタート地点が違い、
後方からのスタートですから。
他の人間に同じタイミングでスタートされたのでは、
追いつけるものも、追いつけません。」
「なるほど。
大佐はタク二等兵の保護者でございましたな。
タク二等兵の軍への入隊を許可された事は
不思議に思っていましたが、大佐もご苦労されている。」
「いえ、タクの入隊を許可したのは、
おっか・・・・・・婚約者のほうでして。
自分はミネルの忘れ形見な子どもたちには
平和な世界を生きて欲しいと思ってたんですが。」
ミネルというワードにベイノはピクッ!と反応した。
しかし勘の鋭いベイノである。
ティープの言葉から、色々と察した。
婚約者というのはカレンディーナ大将の事である。
彼女の戦死の報は、軍の関係者なら誰でもが知っている事である。
そして、ミネルというワードが出た事にも納得がいった。
今まで忘れてはいたが、パラドラム動乱の首謀者ミネルは
皇帝ウルスと士官学校の時に同期である。
そして、目の前のティープ大佐も
巡洋艦ブレイズに残っているゲイリ中佐も
皇帝ウルスとは同期なのは有名な話である。
つまり、このティープもミネルと学友であったと言う事になった。
点と点が繋がった事で、ベイノは運命の残酷さを感じていた。
「そう言えば、大佐はミネルさんとはご学友でしたな。
どんな人だったのです?」
ベイノの問いにティープは苦笑いで返す。
「学生時代のミネルからは想像できませんね。
リーダーシップもあり、友人も多く、
成績も良かった。
勝ち気で、ゲイリとケンカする事などはありましたが
引くところは引く事を知っている女性でした。
そんな彼女が、破滅の道を選ぶとは今でも思えないのですよ。
タクはミネルと面識あるよな?
どうだった?」
話を振られたタクも眉間に皺を寄せた。
「俺・・・・・・いえ、小官は
ミネル先生とはあまり面識がなかったんです。
それまで鉱山労働者として働いていて、
せっかく仕事を覚えてきたって時に保護され、
『今日から働かなくていい』
って言われたんで、何だこいつ?って感じで。
近寄らないようにしてました。
フレーゼとかは懐いてましたけど。」
少し困惑気味にタクは答えた。
この時、ゲイリはベイノがパラドラム攻略部隊の
司令官だったことを気付いてはいたが、
タクもティープも気付いていなかった。
ベイノもそれ以上の言及は避ける。
「そうですか。
何にせよ、誰も幸せにならない事件でしたな。」
三人の会話を聞き流しつつ、ハルカはタクを見た。
視線に気付いたタクがハルカを見返す。
ハルカ少し顎を引いた。
「タクも苦労してたんだ。
なんとなくはわかってたけどさ。
なんか、ごめん。」
ハルカの言葉にタクは笑顔で応えた。
「なんでハルカが謝るんだよ。
俺はいい経験だったと思ってるから。
お陰で母さんや父さんに出会えた。
ハルカにだって出会えた。
やりたいことも見つかった。
苦労してなくてもさ、
やりたいこと、実現したい事も見つからないで
惰性で生きていくより、俺は幸せだって思ってる。
別に惰性で生きていく事を否定するつもりはないけど、
俺は無理だな。
今は、やりたいこと、やらなきゃいけないことが
ハッキリ見えている。
それは嬉しい事だよ。」
ハルカには少し眩しい笑顔でタクは言う。
ハルカは何か自分が恥ずかしくなった。
ハルカにだって、やりたいこと、やらなきゃいけない事は
あるにはあるが、それは自分の事である。
自分の幸せしか考えていない。
だけどタクは、クールン人のために
何かを成し遂げようと思っている。
それは、ハルカからしてみれば、
偽善に感じるほど、あり得ない行動だった。
そんなものは、ハルカにはない。
正直、人類がどうなろうが知った事ではなかった。
その気持ちの差に、恥じたのだった。




