3章 25話 3節
ベイノ艦隊に第1陣からの報告が届く。
「第1陣より報告!
首都ロドンギッフェの制圧は問題なく完了。
第2次降下作戦実施可能です!」
「よし、第2陣降下開始。」
各艦艇より強襲揚陸艦ザメンテが切り離された。
タクらは、トエフォローエンへ降下予定のザメンテ3号機に
FGで取り付く。
今回もティープのルシュヴァン、マリーのルック、
タクのスノウバロンの3機がザメンテの防衛についた。
ティープの指示が各FGパイロットに飛ぶ。
「マリー軍曹、タク、ハルカ。
マークサスは他の惑星よりも重力がキツイ。
反重力装置のスイッチをいれ、耐Gに備えてくれ。
一気に来るぞ。
身体は丸めておくんだ。」
ティープの通信に従って、タクらはコックピットの座席で
耐Gショックのために身体を丸めた。
ガンッ!
まるで鉛に押しつぶされたかのような衝撃が一瞬身体を襲う。
叫びたくもなるが、舌を噛む可能性があるため
4人はそれぞれ歯を食いしばった。
グググッという感覚が次第に収まってくると
身体がマークサスの重力に慣れ始めると同時に
反重力装置が組み込まれているスーツが
身体を補正する。
15秒ほどすれば、身体が軽くなった。
タクは助手席に座るハルカに声をかける。
「ハルカ、大丈夫?」
「うん。なんとか。
凄いね。重力って。
身体が潰されるかと思ったよ。」
「実際、一般人が何もなしで大地に立ったら
瞬時に潰されるらしいよ。
身体を鍛えるために利用している人もいるって聞くけど。」
二人の会話に通信機越しにティープが混じる。
「身体を鍛える目的では推奨しないな。
確かにパワーはつくが、身長が約7cm縮まるって研究成果もある。
あと、身体のバランスが悪くなるんだ。
この地で競い合うスポーツでなら有利だろうが、
基本は1G付近の環境で試合などは行われる事になるから、
バランスが悪くなるのは致命的なんだよ。
スポーツ選手なら選手生命も短くなる。」
「へぇ。」
ハルカが関心したように言った。
そこで素朴な疑問が出てくる。
「なんでこんな星に定住しているの?
常に反重力装置のお世話になるってめんどくさいじゃない。」
「この手の星は、移住区の地面に反重力装置を埋め込んであるから
暮らすのには不自由はしないのさ。
こういう重力の強い惑星には、強い圧縮率がかかるから
貴重な鉱石が沢山取れる。
その儲けたお金で、インフラの土台を築いてるんだ。
街の郊外、反重力エリアじゃないところで暮らす事は出来ないが、
街中であったなら不自由はしない。
都市と都市と繋ぐ交通網にも、反重力装置が配備されている。
生活するのに問題はないんだ。
そして、この手の惑星にはもう一つメリットがあって、
刑務所などが作られる。
刑務所に力場の低い反重力装置を付ければ、
そこの住人は満足に動く事も出来ないし、刑務所の周りを
重力場で囲めば、脱走する事も出来ない。
犯罪者を隔離するのに、うってつけってわけだ。」
ティープの説明にタクが反応する。
「つまり、クールン人の隔離にも都合がいいって事!?」
「ああ、俺もゲイリもそう睨んでいる。
マークサスにクールン人が捕らわれていると聞いて、
違和感がなかった理由だ。
恐らくクールン人は、街の外れの街道が1本道しかない
離れ小島のような場所に隔離されている可能性が高い。
そしてそれがあるのが、トエフォローエン基地だ。」
ティープの言葉にハルカも続く。
「皆がいる感覚も、進んでる方向から感じる。
多分、合ってるよ!」
感じる感覚というのは、使用が禁止されている魔法の類であったが、
禁止と言われて禁止出来るものではない。
目を見開いて、赤いボールが赤く見えるのは仕方ない事である。
それを、色を識別しないようにしろ。と言っても不可能である。
日常で自然に感じる感覚を、禁止と言われても
どうすればいいのかハルカにはわからないし、
タクたち普通の人間も、こうしたらいいとアドバイスも出来ない。
ハルカの感覚の鋭さは、ブレイズではもはや周知の事実として
受け入れられていた。
話している内に、ザメンテと警護についているFG3機は
地上に一気に降下していく。
途中、敵からの妨害もなくザメンテはトエフォローエンの
滑走路に無事着陸した。
続けて3機のFGも地面に足を付ける。
基地の敷地内は反重力装置によって、1G付近の重力場に調整されており、
着陸自体はバッカーの計算処理能力もあって、難なく着陸できた。
ホッとしたティープは改めて周りを見渡す。
「なるほど・・・・・・。
惑星内に航空機が飛んでいないのは、戦時下だからだと思っていたが、
この重力場では、航空機はコストに見合わないな。
空気が重い。」
大気圏から突入してくる分には、落下という事もあって
そこまで問題はなかったが、都市と都市間を航空機で移動するとなると
この重力場は魅力的ではなかった。
マークサスは強い重力がある割に大気密度は他の惑星と
そこまで変わらない。
重力が強いのに、大気密度が高くないという事は
大気の総量が少ないという事である。
地表に沿って大気が薄く引き伸ばしたように広がっているため、
大気がある高さが低いという事を意味していた。
つまり航空機の観点から見れば、一般的な巡航高度が低いという事だ。
航空機の飛ぶ高度が低いというのは、デメリットでしかない。
ティープは軍人の視点でこの星の異常さを悟ったのだった。
「不便がないように見えて、何気に結構不便だな。
逆に、需要人物を拘束したい場合などは
更にメリットがあるという事か。」
重力の強さによって、地上から逃げる事も出来なければ、
航空機を使った脱出も困難である。
別にハルカの言う事を信用していなかったわけではなかったが、
俄然ここに残りのクールン人が捕らわれているという
真実味を帯びてきたことにティープは手ごたえを感じていた。




