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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~転承~

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3章 25話 2節

ベイノ艦隊に用意された強襲揚陸艦ザメンテに

ブレイズの面々も乗り込んでいく。

目的地は軍事基地のあるトエフォローエン。

陸海空の戦力の整った軍事基地である。

一向はまず、携帯用反重力装置を受け取った。

惑星マークサスは他の惑星よりも重力が強く、

人体に適した他の惑星よりも身体が重く感じる。

他の星系から来た旅行客がこの地に何の準備もせずに

上陸したら、身体の重さで一歩も動けないであろう。

反重力装置はそれを和らげる効果があり、

使用する事で平均1Gの重力を受ける事が可能な装置だった。

ちなみにハルカがカサンドウラで発症したと思われている

重力宇宙病の治療には使えない。

艦船などに設置されている反重力装置は重力場そのものを

歪める代物であるが、この携帯版は

重力そのものを変化させるのではなく、

人類の肉体の動きをフォローする機能を持った

パイロットスーツのようなものであった。


ブレイズの面々が携帯用反重力装置を身につけていると

ベイノ少将が挨拶にザメンテまでやってきた。

ブレイズ上陸隊の責任者に任命されていたティープは予め話を聞いていたので

ベイノ少将を見かけると敬礼し挨拶をした。


「ベイノ少将閣下。

ブレイズ上陸隊を率いるティープ大佐であります。」


ティープの敬礼にベイノは緩やかな動作で敬礼を返す。


「今日はよろしく頼む。

実質的な上陸部隊の隊長はグレゲーセン中佐だ。

階級は貴官よりも低いが、指示に従って欲しい。」


「承知しております。

先ほどご挨拶に伺いました。」


「うむ。結構。

彼は頭の柔らかい人物だ。

融通が利く。

何かあったら、相談するといい。」


ベイノはブレイズ上陸部隊の面々を見渡した。

総員36名。

中には、マークサスにいる要人と知り合いであるという

一般の少女も加わっていると聞いていた彼は、

まずその少女を探した。

軍属ではない一般人である。

彼女を危険に晒すわけにはいかない要警護対象だからだ。

対象は直ぐに見つかった。

ティープの側にいたからである。

ベイノはハルカを見つけると、少女の近くに歩み寄る。


「君がハルカちゃんかな?

怖いだろうが、戦場に行くわけではない。

それに君の事は我々も最重要人物として認知している。

何かあったら、我々にも気軽に相談して欲しい。」


ベイノに話しかけられたハルカは、総司令官を見た。

第一印象は悪くない。

嫌な感じはしなかった。

同時にベイノのほうも、ハルカに何か特別なものは感じなかった。

それよりも気になったのは、この幼い少女の横にいる若い軍人である。

ベイノは彼に視線を移す。


「少年兵?

50年前は沢山いたらしいが、今日日珍しいな。

陛下の宇宙軍に所属しているという事は・・・・・・。」


ベイノの言葉は語弊がある。

少年兵自体は昔よりも数は減っていたが、珍しいのは

宇宙軍に所属する少年兵だった。

少年兵は基本、在地の地上勤務である。

話しかけられたのはもちろんタクであった。

彼はベイノに敬礼で返す。


「タク二等兵です。

パラドラムから少年兵法により、宇宙軍に配属されました。」


内戦で惑星パラドラムは戦場になったわけだが、戦闘に先立って

惑星を脱出した者たちがいる。

その中で、孤児院に居た2000名の孤児の事を

「パラドラムの子どもたち」と呼んでいる。

パラドラムの動乱の首謀者ミネルが設立した孤児院の子どもたちであったので、

彼女に恩義を感じていたり、心酔する子どもたちも少なくなく、

他のパラドラム離脱者と分けてこう呼ばれていた。

社会では一般に、ミネルは国家転覆を謀った罪人として認知されている。

その息のかかった子どもたちをどう処遇するかは

内戦後のスノートール帝国に大きな課題として残った。

一般のパラドラム離脱者と扱いを同じにするわけにはいかなかったからである。

結果、帝国建国の元勲であるティープ、カレンディーナ夫妻が

彼らの保護者になる事で、強制的に軍の管轄下に置かれる事になったのだが、

その流れで軍属を志願したタクは、少年兵の身でありながら

ティープやカレンディーナと同じく宇宙軍に配属されたという経緯である。

そして、この例外は宇宙軍の中では特例として将兵たちの間では有名であったし、

何よりパラドラムの動乱に直接関わっているベイノが知らないはずはなかったのである。

タクの言葉を聞いてベイノは頭が痛くなったが、

そこは歴戦の将官である。

無表情でタクの言葉に返した。


「マークサス攻略艦隊を率いるベイノ少将だ。

例え少年と言えども、軍属であるからには

貴官を一人前の軍人として扱う。

精進するように。」


「ハッ!ありがとうございます!」


ベイノの心境は複雑である。

前述したようにパラドラムの子どもたちは、

首謀者ミネルを信望している子どもたちが多い。

そして、そのミネルを屠ったのは他でもないベイノなのである。

言わば、仇のような存在と言えた。

この事実をアトロが知って、任務を命じたのではないだろう。

アトロ王はパラドラムの件で心を痛めるベイノに配慮してくれていた。

いくら命令に従ったとはいえ、民間人を含め35万人もの死者を出した

戦場を指揮した将官である。

最悪の場合、メイザー公爵が失脚した時点で

戦争責任を問われても不思議ではない立場であり、

裁判は免れたとしても煙たがられても不思議ではなかったところを

アトロ王はベイノを快く迎え入れ、居場所を確保してくれた。

そんな心優しい王が、このような皮肉の効いた人事をするとは思えなかったし、

そもそも降下作戦に同席すると言い出したのはベイノ自身である。

ベイノは挨拶も手短に、タクの元を離れた。

背中を冷や汗がしたたるのを感じている。


「歴史の皮肉と言うべきか?

それとも、パラドラムの悪夢を

ここで清算しろと言うのか・・・・・・?

運命とは、いたずらが好きと見える。」


軽く首を振った。

エンガイアの魔女の異名を持つミネルの顔が

脳裏に浮かんだからだ。

今もかの魔女の呪縛から逃れられていない自分に

嫌気がさしたからだったのである。




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