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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~転承~

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3章 25話 1節 マークサス攻略作戦

星暦1003年 7月9日


スノートール帝国、アトロ艦隊によるマークサス攻略作戦が

本格的に開始された。

既に周辺空域の宇宙灯台の制圧はほぼ完了しており、

制宙権を治めた上での惑星マークサス降下作戦の実施という

段階である。

第1次上陸部隊500名が、強襲揚陸艦によって

首都ロドンギッフェへと降下し主要機関を制圧すると

第2陣で残り2500名が、惑星上に点在する各拠点へと

それぞれ降下していく。

宇宙間戦争に於いて、惑星への直接上陸は必ずしも

必須な行動ではないが、各惑星を繋ぐ重要な通信拠点星、

星間航行にて中心となる航路上のハブ星などには

地上に通信や航路を制定する重要な根幹システムが

配置されている事が多いため、そのような重要惑星には

陸上部隊を派遣し、システムそのものを手中に収める必要があった。

本来であれば、システムが存在する拠点のみを制圧するで事足りるが、

惑星上の拠点は、同じ惑星上の拠点からの攻撃に脆弱であるため、

他の軍事拠点も制圧しなければ、手中に収めたとは言えない。

マークサスで言えば、首都ロドンギッフェの制圧のみならず、

ロドンギッフェの防衛を考慮した場合、惑星上に点在する

各軍事拠点を制圧しておく必要があったのである。

第2陣2500名の任務は、その各地の軍事拠点の制圧であった。

もちろん、マークサス首脳部は既に帝国に対し、

降伏の意思を表明していたため、戦闘が起こる可能性は低い。

その事は作戦司令官であるベイノ少将を把握していたが、

彼は一抹の不安を感じていた。


「アルゴ大佐。

私も第2陣と共にマークサスへと降りる。

艦隊の全権を貴官に移譲する。

よろしく頼むぞ。」


ベイノの言葉を聞いたアルゴは寝耳に水といった風情である。


「お待ちください。

マークサスは既に降伏しており、閣下が上陸する必要性は皆無です。

何か問題でも?

あぁ、ウルス陛下の部隊の存在ですかな?」


アルゴはタクらが任務に就いている、K作戦の実態を知らない。

従って、要人の救出とは聞いているが、皇帝ウルス直属の巡洋艦ブレイブが

この地まで出向いてきて、マークサス攻略作戦に参加する事を

訝しんでいた。

そして、作戦司令官であるベイノもK作戦の全容は知らない。


「胸騒ぎがするのだよ。大佐。

私の胸騒ぎは、当たる。のだ。

パラドラムの時もそうであったように・・・・・・。」


「!!!!」


パラドラム。

ベイノのみならず、アルゴにとっても不吉を象徴するワードだった。

そして、パラドラムという単語は呪いでもあった。

その単語を出されたら、アルゴも引き下がるしか得ない。


「あのような地獄が、また待っていると言うのですか?」


「ふむ。

杞憂であれば良いがね。」


ベイノは軽く笑った。

対してアルゴは左右に首を振る。


「パラドラムの動乱。

あれは閣下が指揮していなければ、早々に軍は崩壊していたでしょう。

あれを勝利へと導けるのは、数いる帝国の将官の中でも

少将と後数名いるかどうか?

閣下自ら指揮する必要がある。という事ですか・・・・・・。」


アルゴは自分自身の評価を妥当に下している。

彼はパラドラムで中隊規模を指揮していたが、

中隊の指揮さえも崩壊し、部隊は散り散りに

最終的には各個人で戦闘を行う羽目になった。

生きて帰ってこれたのは、総司令官であるベイノが

粘り強く戦場を指揮し、最低限ではあるが

指揮系統の崩壊を免れていたからだ。

アルゴ自身だけでは、パラドラムの戦場を乗り越えられなかった。

自身の命さえも助かっていたかどうか不透明である。

彼にとって、ベイノは尊敬できる優秀な指揮官なのである。

対して、ベイノは笑顔を崩さない。


「そう心配するな。

マークサスは既に降伏している。

パラドラムの時とは違うよ。」


ベイノはそう言うが、気休めにもならない事は

ベイノ自身にもわかっていた。

何故ならパラドラムの時も、開戦前は一方的な、

軍の完全なる勝利で決着すると楽観視されていたからである。

パラドラムの市民軍は、抵抗の意思はあったが、

最新兵器で挑み、尚且つ宇宙艦隊さえ存在している軍に

市民軍は何の抵抗も出来ないと高をくくっていたのである。

その結果、敵味方合わせ35万人という未曽有の死者を出した戦闘となった。

その時の総司令官がベイノであり、

中隊長としてアルゴが参加していたのである。

彼らの脳裏に当時の地獄のような光景が思い浮かばれる。

2度と起きてはならない悲劇であるという認識は二人にある。

アルゴは握手を求めるように右手をベイノに差し出した。


「承知しました。

艦隊の事はお任せください。」


「持つべきは頼れる部下だな。

よろしく頼む。」


ベイノも右手を差し出し、アルゴの右手を強く握った。

通常であれば、ここは敬礼で応対すべきであったが、

二人は自然と握手を交わしたのである。

死地を潜り抜けてきた者同士が感じる何かだったのかもしれない。


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