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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~決断~

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143/157

2章 24話 5節

星暦1003年 7月7日


惑星マークサス宙域にベイノ艦隊と

それに同伴する巡洋艦ブレイズが到着した。

ブレイズにベイノから通信が届く。

艦長のオットー大佐が応対した。

ベイノ少将はモニターに映ると敬礼をしてオットーに挨拶する。


「マークサス攻略艦隊600隻を率いますベイノ少将であります。

これより周辺空域に展開された宇宙灯台の除去作業を行いますが、

マークサスは、既に敵軍は撤退し、

一部在留の駐留軍が惑星上に点在しておりますが、

抵抗の意思はなく、我が軍の統制下に入るとの

報告を受けております。

宇宙灯台除去と並行し、上陸部隊を3000人先行派遣致しますが、

同伴希望でございましたな?」


ベイノの報告にオットーも敬礼を返した。


「ご苦労様でございます。

ブレイズ艦長オットー大佐であります。

上陸部隊に、我が艦より30名ほど参加させていただきたく。

お聞きの事だとは思いますが、マークサスにはVIPがおり、

彼らの保護が我々の任務となっております。」


「承知した。

先遣隊500名の後の第2陣にて降下をお願いしたい。

では、後ほど連絡いたしますゆえ、今暫く待機をお願いする。」


「ハッ!承知いたしました。」


通信が切れる。

二人のやり取りを少し離れた座席で見ていたゲイリは、

攻略部隊司令官のベイノの名前に聞き覚えがあった。

少し考えたが、腕に付けられた通信機兼簡易コンピュータで

ベイノを照合する。


「パラドラム攻略時の指揮官か。

アトロ王の当てつけとかではないのだろうが、

皮肉な縁だな。」


パラドラム攻略戦。

内戦時に起きた戦いで、ゲイリは士官学校時代の同級生である

ミネルを失っていた。

言ってしまえば、ベイノ少将はミネルの仇となる相手であった。

もちろん、ベイノは軍の命令に従って

忠実に作戦を実行しただけで、恨みなどはない。

ただ、因縁を感じるのだった。

それよりも、オットーが凄い形相で

ゲイリの前までやってくると、デスクの前に手を置いほうが問題である。


「中佐。

今回はマークサスに上陸するなど言い出さないでしょうな!

戦闘が起こる可能性は低いとは言え、

今回は自重してもらいますよ!」


有無を言わせぬ勢いだった。

流石のゲイリも一瞬身を引く。

元々上陸するつもりはなかったが、ここはオットーの顔を立てる事にした。


「わかりました。

大佐の御命令通りに従います。」


「うむ。

よろしくお願いしますよ。

皇族を警備するほうの身にもなってください。」


オットーはゲイリを皇族としてみていたが、

ゲイリ自身にその自覚はない。

確かに妻のセリアは皇帝の妹であるが、

皇位継承権などは辞退していた。

現在の皇位継承権は、1位がカエデ、2位がセリアとなっている。

まだ帝国が発足し、制度などが整っていない状態であったが、

落ち着けばスノートール王国のアトロも皇位継承権を持つに至るだろう。

ゲイリ自身は裏方で良かったのだ。

オットーは自分の言う事を了承したゲイリに満足気である。


「では、上陸要員は第二六〇陸戦隊と

ティープ大佐、マリー軍曹、タク二等兵、そしてハルカ嬢。

でよろしいですな?」


オットーが軍属ではないハルカの名を挙げたのは、クールン人の居場所を

特定するためである。

ブレイズから通信を取る事も可能であったが、

クールン人関係の事案は予想外の事が起こる。

上陸部隊と共に行動していた方が良いだろうとの判断であった。

また、スノートールへの保護も現地のクールン人に

拒否される可能性があり、

ハルカが共に行動していた方が、説得にも応じやすいのではないか?

と考えられていた。

戦闘が起きる想定ではなかったが、

誰しもが油断はしていない。

ロアーソン星の崩壊という大事件を目の前で目撃したばっかりである。

気の抜きようがなかったのである。

ゲイリは頷くと、オットーに視線を返す。


「すまないな。艦長。

今回クールン人の保護が成功したとして、

この船にクールン人が30人以上も乗り込む事になります。

艦長はクールン人を怖くはないのですか?」


「ははは。

確かに、不気味でないと言ったら嘘になりますが、

我々は戦争をしているのです。

判断一つで明日死ぬかもしれない戦場にいるのです。

その事に比べれば、ハルカさんなどかわいいものですよ。

それに、今この船には

皇帝の妹と、その旦那が乗船している。

どちらかと言うと、そちらのほうが恐ろしい。

早く下船していただけないものかと、思っていますよ。」


オットーの言葉にゲイリの目が丸く見開いた。

そして笑う。


「ぷっ。

そうですね。

皇帝の親族に何かあったら、艦長の責任問題は大きい。」


「まったくです。」


オットーは悪びれずに言い切る。

ゲイリは真面目に考えた。


「セリア姫に関しては本人の希望もあったが、

ハルカ君が女の子という事もあり、

扱いに困っていた所を助けてもらった部分もあります。

現に、ハルカ君は姫に懐いている。

マークサスのクールン人を保護したのちは、

改めて今後をどうするか考えねばなりませんね。」


ゲイリはそう言うが、頭の痛い問題である。

ハルカやマークサスのクールン人だけの話であれば、

何処かで保護するだけの話であったが、

ワルクワにいるルカゼの事を考えると

一気に問題は簡単ではなくなる。

彼女をどうにかしなくてはならないのだ。

出来る事なら、ワルクワから引き離して、

ハルカたちと共に保護したい。

だが、果たして軍だけでそれは可能なのであろうか?

双子の姉妹だというハルカの協力があってこそという気持ちもあるし、

ルカゼの事をないがしろにしないというのは

スノートールにハルカが協力するための暗黙の条件なのだ。

もし仮に、ルカゼとスノートールが戦う事になれば、

ハルカらクールン人からの信頼を失ってしまう事にもなりかねない。

オットーは考え込むゲイリを見て、心境を察する。


「地道にワルクワと話し合うしか方法はないのでしょうな。

帝国の外交手腕に期待していますよ。」


オットーの言葉にゲイリは返事を返せなかった。

外交で片付けるにしても、ワルクワと折り合いをつけられるような

ビジョンが見えないからだ。


「とにかく、今出来る事を精一杯。」


そう呟くのみであった。

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