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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~決断~

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2章 24話 4節

タクらブレイズの一向が去った後、

アトロは部屋の中で少し酒を嗜んでいた。

ブレイダーもアトロに付き合う。


「しかし、何ですな。

内戦の後は、銀河大戦。

そしてクールン人ですか。

この時代の人間は呪われているのかも知れませんね。

次々と問題が沸き起こる。」


ブレイダーの言葉に、アトロはグラスを傾けて応える。

カラン!と氷がガラスコップに当たり、

乾いた音が部屋に響いた。


「いつの時代にも、それなりの問題があったのだろうが、

判断に悩む難問が続けて出てくる意識はある。

私の身では、乗り越える事が難しいよ。」


アトロは自信がなさそうに言った。

ブレイダーは軽く笑う。


「ご成長なさられていますよ。

要は、間違えなければいいのです。

何も率先して難問に向かう事が正解だとは思いません。

陛下はガイアントレイブとの戦争も、クールン人問題も

自身の思いではなく、他者の思惑に乗っかった形ではいますが、

ここは折れてはダメだという場所で折れなければいいのです。

難問を解決するのは、それに立ち向かおうという

気概がある者に任せておけばいいのですよ。」


「それは少し狡くないか?」


「陛下は、もう少し狡さを身に付けたほうがよろしいかと。」


ブレイダーの言葉に二人は笑った。

叔父の軍と戦う事になり、父を失った。

アトロから見れば、世界を呪いたくもなる。

彼は好青年であり、平和な世の中であれば、

政治家としても有能で、庶民に人気の公爵として

世に名を馳せただろう。

だが今は、反逆者の父を持つ男として歴史に名を刻み、

父に従い領地を失った敗残の貴族を引き取り、

スノートール王国という名を残すために尽力している。

一体何がしたいのか?自分でもわからなくなる時がある。

いっそ全てを捨てて、一人のただの男として

生きていきたい気持ちもある。

ブレイダーはそんなアトロを支えていた。


「そう言えば、話は変わりますが、

ウルス陛下は、民主議会の復活に二の足を踏んでいるそうです。

確かにガイアントレイブとの戦争は継続しており、

戦時下の今、民主議会を復活させる事は

マイナスな要素になり得るのは理解できるのですが、

議会の復活を待ち望む民主派はやきもちしている様子。

ウルス陛下はもしかして、政治の枠組みを

一新しようとしているのかも知れませんな。

いかがでしょう?

いっそ、我が国が先に議会を復活させてみては?

スノートール王国の国是たる民主王政を引き継ぐのは

我が国であると宣言し、

帝国首脳部には、帝国独自の政治体制を模索してもらうほうが

ウルス陛下もやりやすいのではないでしょうか?」


「そこは私も気になっていた。

そう言えば、ラージン司祭とトルイ司祭の二人を

エーデン教から引き抜いて、新しい政治体制を構築しようという

気運があるとも聞いている。

エーデン教から破門されていた二人であるから、

宗教色が強くなるという事はないんだろうが、

どういう政治体制を考えているのやら?

確かに、民主王政を引き継ぐのは

我々であってもいいかも知れないな。」


「その両司祭を引きぬいて、

執行部に招き入れたのは、セリア姫だという話です。

恐れながらあの姫は、陛下の器に収まりきらなかったのかも知れません。」


ブレイダーが笑う。

アトロは苦虫をすり潰したような表情になった。

少し納得のいかない顔である。


「こう見えても私は

小さいころから神童と言われ、

付いてきてくれる信頼できる仲間もおり、

命を賭けてくれる部下もいるのだぞ?

器不足と言われるのは心外だな。」


これは冗談ではある。

アトロはスノートールの内戦の経験によって、

自分の力量不足を痛感し、

自身への評価が低い。

だがそれと、セリア姫が人生の伴侶としてアトロではなく、

ゲイリ中佐を選んだという事は話が違うのだ。

少なくとも、アトロからしてみれば、

全然ベクトルが違う話なのだ。

自身の能力不足は感じつつも、男としては

負けていないというプライドがある。

また、このプライドは決して誇張ではなく、

女性が100人いたら、85人はゲイリではなく

アトロを選ぶであろう。

実際調査したわけではないが、これは一般的な評価である。

だから、男として負けていると言われるのは

流石のアトロも受け入れ難かったのである。


「陛下は人としては素晴らしゅうございますよ。

ただ、セリア姫です。

軍人でもないのに、姫の立場で

戦場の最前線に兵の士気を高めるために立つなど、

正気の沙汰とは思えませぬ。

あれは鬼子でありましょうな。

陛下は、姫の本性をご承知で惚れられていたのですか?」


大変失礼な言い回しであったが、

アトロとブレイダーの信頼関係を物語っている。

内戦が起こる前は、どこか他人行儀な部分があった二人であったが、

内戦という苦難を得て、お互いに心を許した感が強い。

もちろん以前はメイザー公爵と言う巨大なカリスマが居て、

そのプレッシャーが強かったのはある。

アトロはブレイダーを父の部下だと思っていたし、

ブレイダーはブレイダーで、メイザー公爵の期待に応えるべく

アトロを補佐しようとしていた。

だが、アトロもブレイダーも内戦の過程で

お互いを信用できる相手と思い始めていたし、

メイザー公爵が亡くなる事で、何かに気兼ねする事がなくなったのである。

アトロは腹心の意地悪な質問にはにかんで答えた。


「今にして思えば、理解していたのかも知れない。

私にない心に秘めた力強い意思を感じ

惹かれていたのではないかと思える。

そう考えると、ゲイリ中佐は大変だな。

嫁のほうが実家が強く、性格も勝気。

尻に敷かれているのではないかな?

ふふ。」


アトロは笑った。

少し想像がついたからである。

ブレイダーも先ほど会ったばかりの二人の

新婚生活を想像し苦笑する。


「陛下もお人が悪い。

では、中佐の気苦労を軽くさしあげてあげるために、

惑星マークサス攻略部隊には

優秀な指揮官を差し向けてあげませんと

いけませんなぁ。」


「誰か適任者に心当たりが?」


「はい。ベイノ少将を派遣してはいかがでしょう?」


「ベイノ少将か。

彼も内戦の傷を引きずっていると聞いている。

少しは罪滅ぼしになればいいが。」


アトロは自分と同じく歴史に翻弄された

将官に想いを寄せた。

敗軍の身である彼らには、心に引っかかるものを

未だに抱えている将兵は多い。

その者たちの心のケアも、アトロの仕事だったのである。



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