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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~決断~

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2章 23話 6節

ふと、ハルカはタクが操作するPCの画面を見た。

そこには、レルム・オブ・エイジレスの記事を

検索した結果が載っている。

彼女はタクに視線を落とす。


「レルム・オブ・エイジレスの事、まだ調べてたんだ?

・・・・・・。

まさか、レルム・オブ・エイジレスにクールン人を連れて

亡命するって考えてるんじゃないでしょうね?

いやだよ!

ハルカさんは、グルメに目覚めちゃったんだから、

不老者は食事も必要ないってモーネットさん言ってたじゃん。

ご飯を食べない生活なんて考えられないよ。

それに、話を聞いてると、

恋愛も出来ないみたいだしぃ~。」


最後はほうが小声になったのは、恥ずかしさであろうか。

ハルカの言葉にタクは思わず振り返って彼女を見た。

レルム・オブ・エイジレスへの亡命?

その考えはなかったからだ。

だが、人間社会と隔離しているレルム・オブ・エイジレスへの亡命は

クールン人の可能性としては考えられると思った。

もちろん、かの世界の実情が判れば。の話である。

タクは一旦その案を保留する。

まずは情報を仕入れる事が大事だと再認識した。

上目使いにハルカのほうを見ると、少女と目が合う。


「亡命とかじゃないさ。

昼間襲ってきた敵。

年齢を120歳だって言ってたんだ。

レルム・オブ・エイジレスが誕生してから120年。

偶然だとは思わなくてね。」


視界を画面に戻す。

ハルカの服を掴む力が増した。


「あいつ、敵なんだ?

敵だよね?

虐めてきたもんね。

心がズキズキした。

あいつ嫌い。

冷たい目をしてた。」


「ああ、俺も嫌いだ。

また来るって言ってた。

対策を考えないとな。」


タクの言葉にハルカは口を尖らせたが、

掴んでいたタクの背中から手を離す。

そして安心したように部屋の奥にあるベッドへと歩き出すと、

目の前でベッドの上に飛び込んだ。

そこまでふわふわのクッションのあるベッドではなかったが、

ぼふっという音と共にハルカを迎え入れる。

一瞬、音のほうを振り返ったタクだったが、

直ぐに画面に視線を切り替えた。

新たな敵が現れた事で、ハルカの精神状態が不安を感じていたが、

ちょっとしおらしくなったような素振りはあれど、

見てる感じいつものハルカである。

タクにとっては有難い事である。

敵の事だけを考えるだけで済む。

そんなタクをハルカは布団に潜りながら、布団の影から眺めた。

真剣なまなざしでモニターを見つめるタクに

少し安堵感を覚える。

彼女たちクールン人は、大なり小なり人に対して不信感がある。

特に綺麗事を言ってくる人間は、ハルカから見て

要注意人物だった。

打算のない人間など居ないと思っていた。

何の実績もないのに、出しゃばってくるタクを信じ切れなかった。

だが、本気なのは彼女に伝わった。

この4つ年上の少年は、本気でクールン人を護ろうとしていると

感じられるにようになったのだ。

ハルカは布団の中から、タクに話しかける。


「でもさー。

あの空間、私の頭の中だって言ったよね?

私の頭の中に入ってくるなんて出来るのかな?

タクはたぶん私が呼んだんだと思うけど、

知らない人が勝手に入ってきたりなんて。

そのなんだっけ?ゴッドマザーゴッド?

偉そうな名前の奴!」


「ゴッドマザーマリアな。

そのAIは120年前に、時間を止め不老になった人間を

時間を止めたまま動かす事に成功したっていうんだ。

イメージしにくいけど、不老者ってのは

写真に写った人なんだと思う。

写真の中の人は動かないけど、歳は取らないだろ?

だけどそのAIは、写真の中の人を動画として

動かしたんだ。

歳を取らないままね。

その技術は今でも方法はわかってない。

120年前にそんな事が出来たAIだよ。

奴らの持つ技術は更に進化しててもおかしくない。」


「動いたって言うの、本当かな?

例え写真の中の人を動かしたとしてもさ、

その動画は、その人本人じゃないわけじゃん。

写真の中の人を動画にしてみせたみたいに、

ただ動かしてるだけなんじゃないの?

その技術なら大昔からあるし、

それを現実社会に投影しているだけとか?」


「それなら、ペテンだね。

でも、それでも人を騙すほどの技術力があるって事さ。

120年経った今なら、

人の精神世界に進出するぐらいの技術はあるかも知れない。

いや、そんな技術をもっているのは

ゴッドマザーマリア、

レルム・オブ・エイジレスしか考えられないと思うんだ。

そんな技術を人類が持っているなら、

きっと今、人々は戦争をやっていない。」


タクはそう言い切った。

むしろ、精神世界への介入が出来るのであれば、

戦場は恐らく、精神世界になるであろう。

タクとハルカが昼間に遭遇したように、

人の精神世界に侵入し攻撃すれば、侵入された側はそれを迎撃する。

精神世界での戦争であれば、人類の土地や技術というリソースは

傷付かないし、目標だけを殺す事が出来る。

征服者にとって望ましい結果だけを得る事が出来る。

だから、この技術を人類社会である

ガイアントレイブやワルクワ王国が所持しているとは思えない。

持っているなら、とっくの昔に使っているはずだからだ。

実際、精神世界で戦ったタクはそう感じていた。

ハルカはタクの言葉を聞いて、

ふわぁ!とあくびをする。


「なんかさ、

私たちクールン人は特別でさ、

人類とは違うから、隔離されたり、排除されても

仕方ないって思ってたんだけどさ、

私たちって、実はそこまで特別じゃないんじゃないかって、

世の中には、もっと社会に影響を与えるものがあるんじゃないかって、

・・・・・・。

んー。ごめん。

眠いや。

今日は、ありがとう。

おやすみなさーい。」


と言いながら、ハルカは布団の中に潜っていった。

タクは椅子を回転させベッドのほうを向くと


「お疲れ様。おやすみ。」


と言って再びPCのモニターに視線を戻した。

ハルカの最後の言葉が気にかかる。


「確かに、ハルカが一人この世界に居たって、

別に多くの人の人生に影響を与えるもんじゃない。

きちんと監視すれば、無害だってあり得る。

そんな意味で言うなら、ガイアントレイブやワルクワの王、

ウルス陛下のほうが人に与える影響は大きいよな。

ルカゼは止めなきゃいけないのは確かだけど、

ハルカが命を狙われる世界なんて、おかしいんだ。

そんなの絶対に間違っている。

クールン人って理由だけで、社会から排斥されるなんて、

絶対に間違っているって断言できる!」


タクは一人呟いた。

そして自分の行動に正当性を与えるかのように、

自身に言い聞かせるように、3度ほど呟くのだった。

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