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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~決断~

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2章 23話 1節 レルム・オブ・エイジレス

「タク君?タク?」


タクはボーっとする意識の中、名前を呼ばれている事に気付き

目を空ける。

目の前には心配そうにタクの顔を覗き込むゲイリの姿があった。

辺りを見渡す。

車の中だ。

タクは現実世界に戻ってきた事を理解した。


「ハルカは?」


「ああ、ハルカ君も汗が引いて、

大分顔色が良くなってきたよ。

もしかしたら、重力宇宙病ではなかったのかも知れない。」


「そう。」


タクは一先ず安心すると、身体を起こした。

ハルカのほうを見るが、カサンドウラに上陸した際に

変装した姿だった。

やはり現実世界である。

次に外の景色を見る。

外はのどかな田園風景が広がっていた。

ここはタクの予想と違っていた。


「あれ?病院は?」


「道を塞いでいたデモ隊を突破出来なくてね。

あのまま進んで病院に入ったとしても

安全面で不安があったし、

引き返してミューロドライバーのあるケロポに向かう所だよ。

マイルバもそこに向かっているので

マイルバの反重力装置使おうという訳だ。

時間はちょっとかかるが、その方が安全だと判断した。」


ゲイリの後に、モーネット委員も続く。


「お嬢さんに続いて、君まで意識を失ったものだから、

そっちのほうがいいと私も同意したんだよ。

調印式は延期になるが、人命には代えられないからな。」


人命と比べられるものなど無いはずであるが、

モーネットは余計な一言を言った。

しかし、安堵感のほうが勝っていたタクは気にする素振りはない。


「ハルカも、もう大丈夫だと思います。

ただ、マイルバに行くのは賛成です。

よろしくお願いします。」


少し大人になったような口ぶりに、ゲイリは違和感を感じた。


「何かあったのか?

タクが倒れたのも、何か関係があるのか?」


些細な違和感に気付くゲイリは、他人を良く見ていると言えよう。

タクは一瞬、言葉に詰まる。

さっきの出来事をゲイリに話していいものなのか悩んだ。

何故なら、ハルカがスノートールに受け入れられている条件は、

ハルカが魔法を使わない。事である。

無害であることである。

今までも、無意識で友人と魔法を使ったコンタクトを取っていたが、

無害であると認定されていたため、許されていた事である。

しかしタクは先ほどの件で、ハルカの魔法の力が

想像以上に巨大な事を知った。

精神世界の構築である。

物体を動かしたり、雷を起こしたりとは毛色が違うが、

むしろテレキネシスとかサイコキネシスの類よりも

想像がつかない分、恐ろしいと言えた。

そして、あの謎の敵。

あの敵は、ハルカやタクを狙っており、

スノートールという国家には敵意はなさそうだった。

ここで帝国を巻き込んでいいのか?と悩んだのである。


「カサンドウラの人々の悪意にあてられしまったようです。

ハルカが近くにいたから、自分も影響を受けたのかも知れません。」


「悪意か・・・・・・。」


完全な嘘ではなかったが、タクは微妙に真実を隠した。

普通であれば信じられない話も、ハルカとクールン人が関わると、

突然真実味を帯びてくる。

「そんな事もあるのか?」

と感じられてしまうのは、

タクらの周りの世界の常識が崩れ去ったからであろう。

ゲイリは鼻をかいた。


「タク君は前もクールン人の感情が流れ込んできた事が

あると言っていたな。

影響を受けやすい人が居るのかも知れない。」


ここだけ見ると、クールン人の危険性を認識する結果となるが、

元々、クールン人との共存が認められたとしても、

人間社会での自由は保障されていない。

クールンの因子が、女児しか生まないからだ。

そんな因子が社会に勝手に蔓延するのは困るのである。

つまり、ある程度クールン人を受け入れた感のある

スノートール王国に於いても、クールン人の完全な自由は保障されない。

一定の隔離は既成事実だった。

何かしら影響を受ける人類が居るという事実があったとしても、

隔離されるという事実は変わらない。

タクは子どもなりにそのあたりは計算していた。

とりあえず嘘を隠すため、タクは話を変える。


「そういえば、流れ込んできた感情に

120年前の真実というキーワードが流れ込んできたのですが、

カサンドウラで120年前に何かあったのですか?」


タクはここでも嘘をついた。

だが、謎の少女は自身を120歳と言っていたのが気になったのだ。

ゲイリは首を傾げる。


「120年前?」


ゲイリはタクらに歴史の授業を教える立場であり、

歴史には詳しかったが、120年というワードに思い当たる節はない。

だが、モーネット委員が話に参加してきた。


「120年前というと、不老者の社会が生まれた年ですな。

カサンドウラは皆さんもご存じのように

反戦気質が高い惑星です。

4年前にスノートール王国がガイアントレイブ王国と

戦争状態になり、更には敗北した事で

この地では、不老者の社会への亡命希望者が増えましてね。

続く内乱、今回の戦争で、その流れは今も続いており

頭の痛い問題となっているのですよ。」


ゲイリは聞き逃せないと言う風に話に食いついた。


「レルム・オブ・エイジレスに亡命希望が増えた?

初めて聞きましたね。

そんなに希望者が多いのですか?」


「ええ、実際に亡命しなくても、

不老者の世界、そうそう、レルム・オブ・エイジレスの

話題を聞かない日はないぐらい、市民の関心は高まっています。

戦争世界からユートピアに逃げようという感じですな。

今年は生誕120周年という事もあって、

かの社会への憧れが更に蔓延しているような状況なのです。」


モーネットは困ったような顔をしてゲイリに答えた。

反応を見るに、嘘を言ってるようには思えない。

ゲイリは眉をしかめる。


「戦争が嫌で、レルム・オブ・エイジレスに・・・・・・ね。

あそこはユートピアでもなんでもないんだが・・・・・・。」


ゲイリは視線を落とした。

あまりいいイメージはないのだと、その表情で理解できたのである。

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