2章 22話 6節
エネルギーゲージが溜まったスノーバロンは
マシンガンを構えると一気に前方へと一斉射撃した。
空間を覆っていた文字のブロックが瞬く間に弾け飛ぶ。
文字ブロックの脅威と言えば、肉体に直接ぶつかってきても
精神には来るが、外傷的には致命傷にならない程度であり、
鋼鉄で囲まれたFGスノーバロンにダメージを
与える可能性はないと思われたが、ここは精神世界である。
万が一の事を考え、タクは一気に
文字ブロックの粉砕を選択する。
これは視界を広げる意味もあった。
タクと会話する声。
その主を見つけるためでもある。
ドガガガガガガガガガッ!
120mmマシンガンの一斉射撃で
次々にブロックが粉砕されては、霧のように消えていく。
それに呼応するかのように、ハルカの顔色も次第に
良くなっていった。
モニターを見る余裕も出てくる。
「あの文字の塊!
頭痛を引き起こす嫌なヤツ!」
元気を取り戻したかのように言い放つハルカを見て、
タクも一安心する。
ハルカの不調の原因は予想通り、空間に浮かぶ文字だったのだ。
「ハルカ!
君を攻撃していた奴がいる!
これも魔法なのか!?
何か感じるかい?
同じクールン人が君を攻撃する可能性は?」
「魔法の力は感じないよ。
力は何も感じない。
これ、何者かの攻撃なの!?」
「そうか、でも敵はいる!
じゃあ、あいつは一体何なんだ!?」
魔法を感知したのであれば、敵の居場所が判ると
思っていた予想が外れたため、
タクは全方位に向けマシンガンをぶっ放した。
通常であれば、銃の弾数を気にして
ここまで派手な攻撃は出来なかったが、
ここは精神世界であり、スノーバロンを呼べたのであれば、
マシンガンの残弾数だって増やせるはずである。
タクの狙い通り、残弾数が切れる事はなかった。
瞬く間に周囲の文字を一掃したスノーバロンは
攻撃の手を止める。
ブロックの破片が飛び散っては、欠片が次々に消えていく。
視界がクリアになってきた。
そして、現れる人影。
5歳ぐらいの子どもだろうか?
男の子か女の子かは判断がつかなかったが、
見知らぬ顔の子どもが、白い空間内に現れたのである。
タクが聞いた声は、確かに声色が高く、
子どもの声のような気がしていたタクは
さほど驚かず、マシンガンの照準を謎の人物に向けた。
「子どもの姿をしているが、子どもじゃないんだろう?
さっきの話し方。明らかに大人びていた!」
タクは今いる場所をハルカの精神世界だと思っている。
精神世界なら、見えているのは幻影である。
実際、ハルカはカサンドウラ上陸の際に変装をして
正体を隠していたが、隣にいるハルカは
いつものハルカに戻っていた。
だから、目に見えているモノが本体であるとは限らないと感じていたのである。
少年か少女かわからない人物は、
髪型はショートカットで、顔立ちも中整っていたが性別の区別は出来ず、
服装も男の子が着ていても、女の子が着ていてもおかしくない
ズボンとシャツである。
まさに、中性というイメージであった。
その子はニヤリと笑う。
「子ども?
ああ、私は生まれて未だ120年だからな。
偶像を作るなら、このような姿になるのか?
私はまだ子どものような存在だが、
そう、お前たち人間たちよりも生きているよ。
お前たちからすれば、敬うべき存在だ。」
この言葉でわかるのは、この謎の人物が
自らを人類と切り離しているという事である。
それはつまり、人間ではないという事であり、
また、クールン人でもないという事であった。
彼は、ハルカも人間というカテゴリーというニュアンスを放ったからである。
タクは操縦桿の引き金に指をかける。
「何者なんだ!?
何故、クールン人を狙う?」
「私は世界を調律する者。
調停者だよ。
異物を発見した時には、抗体にもなる。
ここに私が現れた意味が判るな?少年。」
「ハルカが異物だって言うのか?」
謎の子どもはクククッと笑った。
「ターゲットはワルクワに居るほうだけどね。
異物になるかどうかを確認しに来たってわけさ。
お陰で面白いものが見えたよ。
確かにその女自体には、脅威は感じない。
だけど、周囲を汚染する力があるらしい。」
「汚染とか言うなぁぁぁぁ!!!!」
ガガガガガガガガッ!
120mmマシンガンが火を噴いた。
分速200発の高威力マシンガンである。
しかし文字のブロックとは違い、弾は謎の人物をすり抜ける。
子どもは再び笑う。
「くくっ。
ほぉら見なよ。
曲がりなりにも少女の姿を模した私に
躊躇なく引き金を引く。
暴力を肯定し、使用する事にためらいがない。
その行為が、汚染と言わないで何と言うのさ。」
少女だったのか。とタクは一瞬考えたが、
それは今はどうでもいい。
1分間丸々マシンガンをぶっ放したが、少女の立体像は
弾け飛びもしなければ、消えもしなかった。
銃身冷却のためのセーフガード機能が働き、
マシンガンは一度、連射を止めた。
タクの息遣いが荒い。
「はぁはぁはぁ。」
「君は大変、興味深い。
クールン人はただのイレギュラーだが、
君は何だ?
精神世界に介入してくる人間。
私の調律する世界には存在しないものだ。
君の存在次第では、クールン人に対しての認識を
改めなくてはいけないかもしれない。」
銃弾の雨を気にする事もなく少女は言った。
もはやハルカには何の興味もないようである。
タクは内心ほくそ笑んだ。
ハルカがターゲットでないのならば、それは彼の望むところである。
ターゲットが自分に移ったのであれば、
それはタクの思惑通りという事でもある。
もちろん、その事は謎の少女は気にしていないようではあった。
「しかし参ったな。
クールン人対策はしてきたけど、君のような存在に
対応する準備をしていない。
今は準備不足と言うわけだ。
ここは引かさせてもらうよ。
また、会おうか。」
「な!!
待て!!!」
タクは叫ぶが、謎の少女はフワッと揺らぐと消えた。
辺りは、スノーバロンの他には何もない真っ白な空間に戻る。
ドサッ!
タクはコックピットの座席に深く座る。
そしてハルカを見た。
顔色は・・・・・・もう大丈夫そうだ。
「良かった。」
タクはボソッと言うと身体の力を抜くのであった。
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