2章 22話 4節
タクは次々に現れる文字のブロックを睨みつけた。
『軍人は去れ!』『人殺し!』『辺境惑星では飢えで苦しんでいる子どもがいるのに!!』『戦争反対!』『カサドウラに兵器は必要なし!』『平和をください!』『殺戮王ウルスは退陣をせよ』『軍人なんて知的さもない野蛮人がなる職業!』『馬鹿には和平という言葉が通じない』『血に染まったその手で、何を得ようと言うのですか?』『話し合いもできない会話も通じない蛮族!』『子どもたちの未来を守るのは兵器ではない!』『軍に供給する物資なんて存在しない』『社会のゴミが軍人』『暴力反対!』『世界を救うのは暴力ではなく愛だ』『隣人を愛せよ。それが出来ないのならば、この世から消えて!』『人殺しで食ってる産業は粛清せよ!』『恥を知れ!その手は汚れている』『脳が筋肉でできてるなら、言葉も通じませんよねぇ』『殺戮の連鎖を止めるのは知的生命体の宿願だ!』『軍はクズ人間の巣窟』『未亡人と孤児をこれ以上作り出すな!』『知的生活を脅かすものはいらない!』『暴力反対!!!』『何十世紀も繰り返す蛮行に終止符を!』『我々は愛のみを信じる』『世界に祝福を!』『物価高騰反対!物資の流通を復活させろ』『庶民を争いに巻き込むな!』『何人も殺したその手で愛に触ろうと言うのか?汚らわしい。』『お前らが食っている肉は人肉だ!』『狂人どもは勝手に殺し合ってくれ!』『別世界でやってくれ!』『憎しみが伴う痛みはいらない!』『話し合いもできない言語障害どもめ!』『死ね!』『蛮族は見えないとこで生きてくれ』『いや、死んでくれ!』『学歴もない底辺が軍人の正体』『身体を売ってる売女と同等』『目障りです』『消えておしまい』『1発のミサイルを作る金で、何人の子どもが飢えから解放されるのか!?』『父はこんな世界を守るために戦っていたのではない!』『人類の歴史を顧みよ!』『反省もできない人類は獄に繋ぐべし!』『汚物!』『ウルス政権は暴力集団!』『軍靴を脱いで裸足で地面を踏もう』『我々に暴力はいらない』『軍備もいらない』『軍人も必要ない』『人殺しに人権があると思っているのですか』『被害者の人権はどこに!?』『何様?』『人類のカス』『神経が繋がっている人の仕業ではない』『むしろ人ではない』『悪魔め!』『悪魔教徒め!』『神はあなたたちを許さない!』『悪魔の子』『悲しいなぁ。目玉を抉る事でしか対話が出来ない軍人は』『人殺しのために、私は小麦を生産しているのではない』『趣味と娯楽が殺人だって?それはどこの帝国軍だい?』『宇宙機雷での民間船の被害は年に30件以上。後始末ができない子どもに戦争をする資格はない!』『戦うなら貴族だけでやってくれ。皇帝が剣を取り、敵の宮殿に乗り込めばいいじゃないかっ』『私の息子は心優しい男だったのに内乱で死んだ。何故?何のために?誰のために?母のためでないことは事実よ。母は息子に生きていて欲しかった。』『皇帝ウルスの此度の戦争は、議会の承認を得ていないばかりか、皇位について未だ市民議会を開催さえもしていない。戦争より先にやることがあるだろう!』『市民の命を切り売りする。売国奴とはどこのどいつの事か!?』『皇帝ウルスには退陣を要求する』『子どもたちを返してください。』『恩給なんていらない。夫を返して!』『あなたたちは、子どもであっても相手が銃を持っていたら撃て人たちなのでしょう?私には撃てません。撃てるわけがありません!』『人の心がないのかっ!?』『震えて夜も眠れなくなるのは戦時下だけ』『あえて言おう!武器を捨てよ!と』『兵器なんて作らなければ、使う事はないのです。武器製造禁止令を出しましょう』『対話とは、対になっていてこそできるもの。野蛮人とは会話は成立しない』『我々は武器なく戦う。ペンで!言論で!言葉で!声で!』『圧制者には屈しない』『軍人はカサンドウラの地を踏むな!土が汚れる!』『奴隷は軍人よりも美しい。何故なら他人を害する事がないからだ!』『平和を唱えるのは、市民として、人として当然の権利である。』『一方で人を殺す権利は、何人にもない!』『底辺に社会の豊かさはわからない。破壊してはいけないものを理解しないからだ!』『為政者は守ってやると言うが、皇帝を守っているのは名もなき市民なのだ!』『暴力の果てに何が残るのか?赤い荒野を故郷と呼べと言うのか?』『皇帝ウルスへ。退陣し議会を復活させよ!』
『死ね!』
文字だけではなく、次第に音が、人の声となって
文章を読み上げてくる。
無数の声が耳から雑音として侵入してくる。
タクとハルカはたまらず耳を塞いだ。
だが、掌を貫通して声は耳の鼓膜を揺さぶっていく。
「シネ!死ね!シネ!」
まるでコーラスのように死ねの大合唱がさらに脳神経を刺激する。
タクはハルカにしゃべりかけたが、雑音がひどすぎて自分の声さえも
自らの鼓膜に伝わらなかった。
「くそっ!
言葉は人を殺す事もあるんだぞ!
銃や剣を武器というなら、言葉は病魔だ!
悪意のある言葉は人の心を蝕む。
感染して広がり、いずれ人を死に至らしめる!
れっきとした暴力じゃないか!
しかも、ハルカは軍人じゃない!!!」
「軍人じゃなくても、軍と一緒にいるじゃないか?」
その言葉だけタクの耳に鮮明に届いた。
タクは立ち上がると周りを見渡す。
もちろん文字だけしか見えない。
だが、謎の言葉は更にタクの脳波に響く。
「それに、クールン人は兵器だよ。
生命にとってのバッドウイルスだ。
排除しなくてはならない。」
タクはブルッ!と震えた。
ハルカがクールン人であるのはトップシークレットである。
スノートール帝国でも巡洋艦ブレイズの乗組員と
軍の首脳部の一部しか知らない。
ましてや、カサンドウラの住人が知るはずがなかった。
それを、声の主は知っていた。
明らかにハルカに向けられる悪意をタクは感じ取ったのである。
そしてただの反戦デモと思われたカサンドウラのデモは
ハルカをターゲットして仕組まれたのだとタクは直感した。
本能で直感した!
タクの考えに呼応するように声の主は言葉を続ける。
「もう少しで、クールン人の精神を破壊できたのにさ。
あんた、イレギュラー。
何者?」
「お前こそ誰だよ!!!」
戦士としての本能が、ここが戦場である事を告げていた。




