1章 3話 1節 雪結晶の彗星
「化け物」というワードに、少女は反応する。
「化け物じゃないもんっ!
クールン人はね!人の革新の姿なんだからっ!
それに、あんた!?
どうして、こんなにも私とクリーンに会話できるのさ?
普通はノイズとか交るって言うのに。
もしかして、あなた?
クールン人と関りがあるの!?」
少女の声はマリーにも聞こえている。
「確かに!」とマリーは思った。
彼女の脳に響く声は、時折、雑音と呼んでいいレベルのノイズが入る。
タクと謎の少女の間の会話にノイズはないと言う事なのであろうか?
否、そもそもマリーやモルレフの声は、少女に届いていないように思える。
カレンディーナは?
カレンディーナはどうだっただろうか?
彼女の声は、脳に響いていたか?
通信機越しだったような気もする。
マリーの記憶は定かではなかった。
しかし、言われてみれば、タクの声は
少女の声のように脳内に響いて聞こえていた。
その事実にマリーは困惑するが、
動けないタクは、口で応戦するしか出来ない。
「なんだよ?クールン人って。
それが化け物の正体かよ!
一緒にするなっ!」
「どうかしらね?
あなたと私の親和性は高いように思えるけど?
例えば・・・・・・。」
彼女はそう言うと、タクの脳にビビッと電気が走ったような感覚が襲う。
そしてタクは驚愕した。
電気系統が喪失し、真っ暗なはずのコックピット内に
映像が見えたのだ。
映る映像には、見覚えのあるモノが映っている。
「ポロン!?」
それはFGポロンだった。
周りは宇宙で、光を一切発していないポロンは、
宇宙空間で動力を停止しているかのようである。
「これは!?俺!?」
タクは絶句した。
タクのリアクションに少女は満足そうである。
「ふふふ。
見えるんだ?
見えるんでしょ?
モミジお姉ちゃんとでしか、出来た事なかったのに!
見えるんだ。やっぱり、あなた相性いいわ。
あなた、私と来なさいよ。
もし、拒否するなら・・・・・・。
わかるわね?
何にも見えない状態で死ぬのは嫌でしょうから、
映像は写したままにしておいてあげる。
自分自身の最後の瞬間を目撃したくないなら、
私の言う通りにしなさい。」
その言葉に、モルレフが口を挟む。
「敵とじゃれ合うな!タクッ!」
だがモルレフの言葉はここでは意味がない言葉だった。
少女は突き放つ!
「黙りなさいよ!こいつの命は私が握っているのよ!
余計な邪魔はしないで!」
だが、明らかに違和感がある。
モルレフの声は通信機越しに聞こえるが、
少女の声は、脳に響く。
マリーがモルレフだけに通信を繋いだ。
「曹長。タクのポロンの再起動には5分はかかります。
相手を刺激しないほうが得策です。」
先ほどのモルレフの言葉は通信機の電波に乗っていた。
そして同じく通信機に乗せたマリーの言葉に、
少女の反応はない。
マリーの発言は、少女には聞こえていないのだ。
マリーはそう断定する。
ガイアントレイブの少女は、タクとは通信機なしで会話出来ている。
彼女が言うように、それは特別な事なのだろう。
そうであるならば、少女が簡単にタクを殺すとは思えなかった。
チャンスはあると思ったのである。
だがマリーの思いとは裏腹に、タクは冷静ではなかった。
目の前に、自分が搭乗しているFGが見える。
正直、気にならない人間であれば、さほど気にならないであろう。
例えば、カメラに写った自分の映像を見ながら仕事をする芸能人や、
日々化粧をする人物であれば、鏡に映った自分を見るのは慣れている。
ただ残念ながらタクは、鏡は見た事はもちろんあったが、
鏡の前に立つだけで、自分自身を客観的に見ていたわけではない。
今彼は、自分の視界の中にある自分自身を
客観的に見ていたのである。
それは違和感であり、不思議な感覚だった。
鏡を見る場合、鏡を見ているのは紛れもなく自分自身であったが、
今は、他人の視界で自分を見ている。
同じモノが見えているはずなのに、些細な違和感がタクを襲う。
「気持ち悪いもの見せやがって!
俺はお前の思い通りにはならない。
殺すなら殺せよ!」
「そう・・・・・・。
残念ね。
仲良くなれると思ったのに・・・・・・。
あなたのFGの周りに、機雷があるのは見える?
70個ぐらいかしら。
全部ぶつければ、あなた吹き飛ぶわよ?
いいの?
跡形もなく消し飛ぶのよ?いいの?」
少女の言うように、無数の機雷がポロンの周りを周回していた。
ゴクッ!とタクは生唾を飲み込む。
「やってみろよ!」
その瞬間、ポロンの左右で光の線が走った。
光はポロンの背後から、まるでサーチライトの明かりが
照らすかのように2線、走った。
遅れて、ポロンの周囲を周回していたG-2機雷が、
連鎖的に爆発する。
その爆発は、ポロンの周囲にある70個の機雷を殲滅する勢いだった。
少女は驚く。
「何!?何が起ってるの!?」
複数の火球がポロンの周りで立て続けに発生していく。
たった2本の光が、機雷郡を破壊していった。
少女の視界で、状況を見ているタクの脳裡に
一つの可能性が導かれる。
「この光は、ビーム砲の?
ブレイズからの射撃じゃない。
ブレイズの距離から、こんなに正確に
機雷を打ち抜けるとは思えない。
それに、これはFG用のビームライフルの射線。」
FG用のビームライフル。
高性能のジェネレーターを必要とし、生産コストもかかる事から
実用化に成功したスノートールでも、
配備しているFGは今のところ2機しかいない。
1機はカレンディーナ少将のルックであったが、
先ほどの爆発で、機体もろとも霧散したはずである。
つまり、残るは1機しかいないという事になる。
その1機であるならば、ポロンの周囲を周回する機雷を、
ポロンに当てないで、正確に撃ち抜く事が出来てもおかしくない。
先の内戦で、敵にはホワイトデビルと恐れられ、
味方には、雪結晶の彗星と崇められた
この時代屈指のエースパイロット。
生きる伝説と言われる男。
ティープ大佐であるならば、可能だと言われても納得できる。
「父さん!!!」
タクは呟いた。
カレンディーナの婚約者でもあるティープは、
タクの父親代わりでもある。
タクはティープ大佐を父さんと呼んでいた。
そして3本目のビーム光線が、宇宙を貫く。
ピカッ!と光は、眩い輝きでタクの視界を覆った。
考える暇もなく、視界全体が白い光で覆われた。
それはつまり、光線の光に包まれたということである。
「えっ?!」
少女の呟きと共に、ただただ白い世界が視界全体に広がる。
タクは悟った。
撃ち抜かれたのだ。
ビーム光線に、視界の主は打ち抜かれたのだ。
視界を共有していたタクは、一瞬、自分自身が撃ち抜かれた
感覚に襲われ、一面の光の世界に驚愕した。
「うわぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁああああ!!!」
タクの絶叫が、宇宙に木霊する。




