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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~決断~

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2章 22話 2節

タクらを乗せた送迎車一向は、市街地へと踏む込むが

そこで更なる想定外の事象が彼らを襲う。

ハルカの右手を握りしめ続けていたタクにもそれは判った。


「ん?車が止まった?

モーネット議員?」


彼は議員に視線を向けたが、通信機を口ごと両手で覆い隠し、

小声で会話をしているようである。

ほどなくしてモーネットは通信機を口から遠ざけた。


「申し訳ありません。

市民のデモが車道を塞いでおり、前に進めないという事です。」


モーネットの言葉に思わず窓の外を見る。

景色は既にビルが立ち並ぶ都会の街並みであったが、

歩道に沿ってずらっと、埋め尽くすほどの人々が立っていたのである。

歩道の人々はしきりに何かを叫びながら、横断幕やプラカードを掲げている。

車内は防音が効いており、外の喧騒は聞こえてこなかったが、

タクは横断幕やプラカードに書かれた文字を読んでしまった。


「戦争反対!軍備反対!殺人者は惑星を去れ!

カサンドウラを戦乱に巻き込むな!カサンドウラの市民に安寧を!????

なんですか?コレ?」


口に出した言葉は罵詈雑言のオンパレードだった。

タクの言葉にゲイリはしかめっ面で応える。


「だから言っただろう。

カサンドウラは反戦家、軍事拒絶派の根城だと。」


そういうゲイリにも、この状況は想定外である。

彼は、市民らが「軍への補給の要請に応えた」事実は知っていても、

ゲイリら軍人が直接カサンドウラに降り立つ情報までは

知られていないと想定していたからである。

もし情報が流れているのならば、このような状況になるのは目に見えていた。

カサンドウラの首脳部もそれは望んでいないはずであり、

軍人のカサンドウラ上陸はトップシークレットな情報だったはずなのである。

ゲイリはモーネットを詰問する。


「議員。

これはどういう事ですかな?

我々のカサンドウラ上陸は内密に行われるという話だったはず。

情報が洩れましたか?

どうして?」


「お、お待ちください、中佐。

市民の反対意見が多い事は我々も想定しており、

軍人のカサンドウラ上陸は、市民の感情を逆なですると

私たちも考えていたのは事実です。

我々が望んだ結果ではありません。」


モーネットはゲイリの眼光に怯むと、

今度は口元を隠さずに通信機に向け怒鳴り始める。


「何をやっている!

デモ隊とて、公共の道路を塞ぐなどと言う蛮行は

認められていない!

警察はどうした?

早く排除しろ!」


今回は逆にゲイリらに見えるように指示を出した。

やることはやっている。指示出しはしっかりしていると

アピールするためである。

ギリッ!とタクが唇を噛む。


「FGを持ってきていれば・・・・・・。」


だがこのタクの考えは浅はかである。

軍人の上陸にさえ目くじらを立てるカサンドウラ市民の前に、

兵器であるFGが姿を現せば、どうなるか知れたものではなかった。

それこそ、暴動さえも起きかねない。

カサンドウラ首脳部はおろか、ゲイリでさえも許可は出さなかったであろう。

しかし事態は更に悪化の一途を辿る。

タクらの乗る車に、ゴンッ!ゴンッ!という音が響いた。

音の気配は外からのようである。

良く見ると、詰めかけた市民たちの一部が、タクらの車にめがけて

何かを投げ込んでいるようである。

それは空き缶であったり、小石であったり近くの物を投げ込んでいるようである。

モーネットがフォローする。


「ご安心ください。

この車も前後のバスも、対戦車砲に耐えられる強度を持っております。

例えミサイルを撃ち込まれたところで、なんともありません。」


モーネットはそう言うが、ただでさえ車の進行を止められている中で

投石などの行為が気持ちのいいものであるはずがない。

珍しくゲイリが感情を露にする。


「この件は、皇帝陛下に報告する。

情報を漏らした首謀者の発見と、弁明を考えておく事だな。」


「お待ちください中佐。

ええい!警備隊はまだかっ?

急いで不埒者どもを片付けろ!」


モーネットは通信機に向かって叫んでいた。

その声さえもタクの神経を逆撫でする。

だがタクは一旦心を落ち着けると、ハルカの右手を強く握りしめた。

ゲイリの追及は止まらない。


「重力宇宙病は、生死に関わる事は少ないとはいえ、

長時間発症していると、後遺症が残る事がある。

主義主張、価値観の相違、デモをするのは自由ではあるが、

公道の封鎖などの行為で他者の時間を奪うなどもっての他だ。

自己都合でデモなどに時間を消費するのは自由だが、

それは他人に、社会に迷惑をかけない程度でなくてはならない!

その為の市民の窓口となるべき存在が、政府であろうが!

ましてや、その自由に人の生命・人生を脅かすほどの権利はない!

自由を履き違えているカサンドウラには、なんらかのペナルティが

必要でしょうな。」


ゲイリは民主王政という琥珀銀河でも民主的な国家の生まれであり、

専制政治よりも民主政治を信奉しているタイプではあったが、

デモやストライキといった、市民活動は毛嫌いしている。

自分たちの権利、主義主張が罷り通らなかった時代でなら

デモやストライキの存在価値はあったが、

スノートールでは、自分たちの権利や主義主張を通すための

しっかりとしたシステムとルールがあった。

少数意見であっても、それを拾い上げる工夫も実施されており、

そもそも、民主議会という正規の民意を吸い上げる機構が存在し、

言論弾圧もなく、主張を公に発表できる世の中にあって、

主義主張を述べる場は、政治の場であるはずである。

デモやストライキに「存在意義はない」というのが

ゲイリの価値観である。

むしろ、ルールをないがしろにして、暴力で自らの主張を

押し通そうとする無頼漢の所業であるとまで考えていた。

もっと言えば、主義主張を公に発表し、周囲の賛同を得るためには、

その者が「何者か」でなければならない。

人は、その人の思想にではなく、行動した結果に付いてくるものである。

社会に対して何も貢献せず、自堕落に生きてきた人間が、

数の暴力だけでデモやストライキを実行し、主義主張を叫ぶ姿に

醜ささえも感じていたのである。

半ばカサンドウラに対し、負い目を感じさせる魂胆で

わざと語気を荒げた部分もあったが、

感情を表に出さないゲイリが激高したのは、そのような観点もあった。

ゲイリの言葉にモーネットも感情が高ぶる。


「中佐のおっしゃりようはわかりますが、

デモはスノートール市民に与えられた、正規の権利でございます!

情報漏洩については我々に非はございますが、

デモの権利を否定されるなど、到底受け入れられる発言ではございませんぞ!」


二人のやり取りに、タクの堪忍袋の緒が切れる。


「うるさぃ!

今は、そんなことどうでもいい!

車を早くっ!!!」


タクはハルカの右手を握る両手に力を込めた。

願い事をするかのように、右手に縋るような趣である。

すると急にタクの視界が、真っ白な空間に変わる。

車の中にいたはずなのに、周囲には何もなく、

ただただ真っ白な空間のど真ん中に放り出された感じであった。

奥行がどこまであるのかさえも掴めない真っ白な空間。

3次元ではなく、2次元の白いキャンパスの中に

ポツンと一人、取り残されたように広がる景色。

周りには、誰も、何もなく

ただただ、純白の空間がタクを包み込んだのであった。

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