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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~決断~

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2章 21話 5節

小型連絡艇マイルバの艦内アナウンスが響く。


「ゲイリ中佐。

惑星カサンドウラの許可が出ました。

惑星軌道に向け、出発します。」


ゲイリ向けのアナウンスではあったが、

出発の合図として乗組員全員がシートベルトを確認する。

大気圏突入の耐ショック技術は発達していたが、

宇宙旅行で一番危険なのは、大気圏突入と脱出のタイミングである。

そのため、軌道エレベータや軌道トンネルなどの技術が

導入されていたが、時間という観点で大きな問題があった。

やはり船で一気に大気圏に突入するのが手っ取り早く、

そして、要人が乗っている場合、

そのスピードが肝である。

時間をかければかけるほど、危険度は増した。

軌道エレベータはもちろん、軌道トンネルに関しても、

例えばテロリストに狙われた場合などは、

防衛に難しく、要人が逃げる場もない。

完全に軍が管轄し、一般人が利用できない

軌道エレベータであるならまだしも、

一般的には、脆弱性のある部分として社会では認知されている。

また、破壊された場合、設備を修復するコストも馬鹿にならない。

従って、貴族や軍人など一定の身分のある人物は

船での移動を重視した。

移動コストが安い軌道エレベータなどは庶民が好んで利用するものだったのである。

船であるなら、警備も楽であったし、仮に襲われても逃れる事が

容易だったからである。

また、船なら大気圏降下だけでなく、そのまま惑星上から

ミューロドライバーという技術を使う事で

簡単に宇宙に戻る事も出来た。

と、前置きが長くなったが、単純に惑星と宇宙への移動は

なんだかんだ言って、宇宙船が都合が良かったのである。

タクもシートベルトを確認し、ハルカを見る。


「半年ぶりの地上だね。

大丈夫?怖くない?」


タクの台詞は深い意味を持つ。

タクもであるが、彼らは惑星ロアーソンの崩壊を目にしている。

言ってしまえば、目の前で3億人という命が散った現場にいたのである。

しかもハルカからしてみれば、長年住んだ故郷のような星が崩壊したのだ。

地上、惑星というものにトラウマが生まれていてもおかしくはない。

だが、ハルカはそこまで考えていないようだった。


「宇宙の生活のほうが快適だったんだけどね。

たまには重力の重さを感じないと、健康上良くないらしいから。

しょうがないんだけど。」


宇宙空間での生活が長くなった人類にとって、

自然発生する重力を受けないという事は、健康に影響を与えるという

結果が出ている。

惑星上で暮らす人類が、「たまには日光を浴びないと」

というレベルの話であったが、内臓関係の働きが

重力を受けない生活が長いと低下するのである。

筋肉や骨密度などはトレーニングや開発された科学技術で補う事ができたが、

内臓の機能の低下は、個体差もあり、

症状を和らげることは出来たが、完全に克服したとは言い難かった。

定期的に自然重力の力を身体に与える事のほうが

一番効率が良かったのである。

ちなみに、人口重力では同じ負荷を身体にかけても、

自然重力のような効果を発揮する事はできない。

これは、重力の謎として現在でも科学者・医学者を悩ませる種の一つであった。

しかし、あくまで個体差があり、

一生を宇宙空間で過ごし、天寿を迎える人もいる。

この時代においても、重力の解明は完全ではなかったのである。

タクは民間でよく話題になる知識を披露する。


「体重の軽い子どもは、重力問題は軽微らしいけど、

期間を空けすぎると、地上に降りた時に

大人よりも宇宙酔いみたいな症状になりやすいって聞くよ。

中佐が僕らをカサンドウラに連れて行こうってのも、

一番の理由はソコみたいだし。

ま、数日の辛抱さ。」


「メンドクサイのね。

身体って。」


ハルカは椅子に深く沈みこんだ。

最近タクは、ハルカのこういう拗ねる仕草のあざとさに気付きつつある。

彼女の癖であり、またクールン人としては魔法の力が弱い自分の

処世術なんだろうとも感じていた。

この手の仕草が、無視できないぐらいかわいらしいのである。

天然ものの魅力だった。

彼はわざと視線を外す。


「この世界は、人間に優しい世界じゃないからね。

惑星上だけで暮らしていた時は、

全てが、人間という生命体を作りだすためだけに

存在しているかのような奇跡に近い感覚に陥ったらしいけど。

世界の大部分、宇宙は俺たちに優しくない。」


連絡艇の天井を見上げながら言う。

この辺り、歴史の講師をしているゲイリの影響を

強く受け始めているのかも知れない。

ハルカはまどろっこしそうな表情を崩さなかった。


「そして、更に私たちの存在・・・・・・か。」


人類は重力を克服し、宇宙に出た。

人としての基本性能自体は変化しなかったが、社会は大きく変わった。

適応するためである。

「進化」と言ってもいい。

そして今、クールン人という未知の生命体を社会に取り込もうとしている。

少数派であるクールン人も人類社会に適応しなければならないが、

人間も今までと全く同じだとは考えにくかった。

人類も適応しなければならなかったのである。

少なくとも、帝国のハルカを知る者たちはそう考えていた。

神妙な声色になるハルカに、タクはハツラツとした声で応える。


「クールン人は、宇宙よりは人類に優しいさ。

存在するだけで害があるってものでもないし。

皆がほんの少し、ちょっとずつ妥協するだけでいい。

俺はそう思う。

宇宙を克服した人類には朝飯前だよ。」


タクの言葉はハルカにとって、気休めにもならない。

だがタクは本気でそう考えていた。

それほど大きな障害じゃないと信じていた。

そしてそれは本心でもある。

タクにとって、魔法が使えると言ってもクールン人は同じ人類である。

言葉も通じるし、価値観の相違だって許容範囲だし、

生物学的にも人類との生殖行為で子孫を残こす事が出来る。

同じモノをみて、喜び、怒って、悲しんで、楽しむ事が出来る。

タクからみれば、帝国の伝説とまでなったエースパイロット

ティープ大佐と、魔法が使えるハルカに違いはない。

むしろ、人外だと思えるのはティープのほうである。

ハルカなんて、少し勉強が出来るとか、スポーツ万能とか

芸術のセンスが抜きんでているとか

その程度の差でしかないとタクは本気で思っていた。

だが、タクはカサンドウラで、クールン人の魔法というものを、

正しく認識していなかったと思い知る事になるのであった。

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