2章 21話 4節
巡洋艦ブレイズに配備されている小型連絡艇マイルバでは
ゲイリら上陸に向けての準備が進められていた。
ゲイリにティープが近づく。
ティープは今回、ブレイズにお留守番となっていた。
「やはり、俺も行ったほうがいいんじゃないか?」
ティープは忙しそうに動くクルーたちを見ながら
ゲイリに尋ねる。
ゲイリはめんどくさそうに首を振った。
「ハルカ君の守りはタク君に託したんだろう?
これでお前が付いてくるのだったら、
タク君を信頼していないって事になる。
親馬鹿か?お前は。」
「うーん。」
ティープは頭を掻きむしった。
自身の中でも葛藤があるようである。
「あー。
わかった、わかった。
今回はタクに任せる。
ゲイリ、フォローを頼むぞ。」
ティープの心配を他所にゲイリは軽く笑った。
「ハルカ君がクールン人で、
スノートールにもクールン人が存在しているって事は
一部の者しか知らない事だ。
変装さえしていれば、カサンドウラで何かあるという事はないだろう。
心配しすぎなんだよ。お前は。」
と、言われて少しふてされるティープである。
自分自身の事ならば、なんとでも出来るが、
他人の事はもどかしい。
話していても拉致があかないと思ったゲイリは
悩める親友を置いて、連絡艇に乗り込む事にした。
「じゃ、行ってくる。
ブレイズの守りは頼むぞ?
どちらかと言うと、そっちのほうが不安が大きい。」
ゲイリの言葉にティープはOKと親指を立てて応えた。
友人の見送りを受けてゲイリは連絡艇マイルバの中に入っていく。
先にタクとハルカが座席に座っていた。
ハルカは髪の色を染め、特殊メイクで別人になっている。
子ども、それも10歳の少女が軍艦に乗っているのは
珍しい事ではあるが、戦時中であるため、どこかの惑星で
避難民を保護した事にすれば問題ない。
広大な宇宙という世界では、たまにあることだった。
変装しているハルカを見て、ゲイリは軽く頷く。
「随分、おしとやかな感じになったじゃないか。」
この数か月でタクやハルカとゲイリは
歴史の授業の講師という関係もあり、だいぶ親密になった。
ハルカはムスッ!とする。
あまりこの変装が気に入ってはいないようだ。
「先生。
それセクハラ。
どうして先生みたいなデリカシーない男が、
セリアさまと結婚できたのか?
謎ねー。」
手厳しい一言にゲイリは苦笑で応えた。
隣のタクがフォローする。
「似合ってるよ。
いつもの感じもハルカらしいと思うけど、
たまにはイメージチェンジもいいんじゃないかな?」
普段のハルカはズボンを好み、軽快で動きやすいものを
選んで着ている。
研究所暮らしが長く、常に薄い水色の患者衣で過ごしていたため、
オシャレにはあまり興味がない。
ルカゼはガルの指示で、貴族社会に馴染むよう
衣類はお嬢様が着るようなお洒落なものを着用していたが
それとは対照的である。
今回は片田舎の少女が着るような質素な服装であったが、
丈が眺めのスカートである。
そもそも宇宙空間での生活では、スカート文化は珍しい。
重力が軽い場所に行くのに、スカートはただ邪魔なだけであり、
宇宙空間でスカートを履くのは、
体面を気にする貴族などに限られた。
従って、質素な服装でスカートというのは、
宇宙空間での生活を連想させず、惑星上に住む住人
のイメージが先行する。
今回のハルカは、道中で保護された避難民の少女という設定なので、
地上を連想させる服を着るのは、イメージ戦略にもなり、
伊達や酔狂でスカートを着用しているわけではなかった。
・・・・・・が、タクからしてみれば、
ハルカの新たな一面が見れた事で、ちょっとドギマギする感情がある。
褒めたいのに、ストレートに褒められないのは
タクの度胸のなさであった。
もちろんハルカは気にしない。
「まぁ、でも・・・・・・。
スカートって思ったより寒くないんだね。
こんなん、足がすーすーするって思ってたんだけど、
着てみたら気にならないんだねぇ。」
宇宙船の中は、気温は適度な温度に調整されており、
暑いとか寒いとかを感じる事はないが、
普段ズボンを履いている身からすれば、
スカートは心もとなく感じるものである。
丈が長い事もあってハルカは
膝上の部分の生地を掴み、パフパフ揺らしながら言った。
タクの視線が目のやり場に困る。
素足が見えているとか言うわけではないが、
妙に意識してしまっていた。
「気に入ったなら、これからも
たまには着ればいいと思うよ。」
「えー何?
タク、きもーーい。
男の子って、スカートの中を覗き込む趣味があるって
聞いたけど、タクもそうなんだ。
へんたーい!
きもーい!」
二人のやりとりに、ヤレヤレという感じでゲイリが口を挟む。
「男子ってのは、未知の領域への探求心ってものを
心の中に飼っているもんさ。
タクは正常、立派な男の子だよ。」
ゲイリの言葉に、年少の二人はビクッ!と身体を仰け反らせる。
ハルカの表情がこわばる。
「うわっ・・・・・・。
先生、キモイ!
ムッツリ!女性の敵!!!」
「ハルカ!
僕はそんな気持ちで、女性を見てないからっ!!!」
タクも慌てて、ゲイリの発言を否定したが、
ハルカの流し目は、冷たく、軽蔑した眼差しだった。
「だったら、どういう風に見てるって言うのよ!
憲兵隊のみなさーーん!いらっしゃいませんかー?
ここに人類の敵が居ますよーー!!
憲兵隊さーーーん!!」
ハルカの大声が船内に響き、同乗していた警護役の兵たちが
一瞬立ち上がろうとするが、腰を少し浮かせただけで
直ぐに冷静になって椅子に座りなおした。
今回の警護役の責任者であるダイモン少尉は頭を抱える。
「貧乏くじを引いたのかもしれない・・・・・・。」
道中の不安が頭をよぎったからであった。




