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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~決断~

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2章 21話 3節

周囲にいたメカニックマンたちが次々にタクの肩を叩く。

良かったな。

頑張れよ!

という雰囲気だったが、一人ハルカだけはポツンとしていた。

彼女からしてみれば、今までと大して変わらないように思えたからである。

そっとマリーがハルカに近付く。

こういう時は、同性のほうが気持ちが判るものだったりした。


「男の子ってね。

他人に認められて、一人前になっていくのよ。

タクは、あなたを守る事が出来る存在と認められたわけ。」


マリーの言葉にも納得がいっていないハルカは怪訝な顔をする。


「それって、

承認要求みたいなもの?

認められたいって?」


「ちょっと違うわね。

コイツには任せても問題ない!って信頼感の類かしら。

私も学生の頃は、周りの男子に負けたくなくて、

レポート仕上げて世間に公表したり、ちょっと過激な事を言って

周りの注目を浴びたりするのに躍起になった時期があるんだけど、

軍に入って、カレンディーナ大将とコンビを組ませてもらって

違うのがわかったの。」


「???」


ハルカは首を傾げた。

マリーは優しく笑うと、言葉を続ける。


「どんなに人に認められてもね。

持て囃してくれる人は、そりゃ持ち上げてくれるけど、

でも、それだけなの。

その人の人生に全く関わらないところで

認められたとしても、意味はないのよね。

カレンディーナ大将は、【それが、何?】

って人だった。

それで、あなたは何が出来るの?ってね。

だから、大将が初めて私を信じて、背中を任せてくれた時、

はっきりわかったの。

例え100万人のグッドボタンより、

たった一人が背中を預けてくれる事のほうが

よっぱど大切なんだって。

認められる事と、信頼して任せてもらえる事じゃ、

全然違うわ。

タクは、今まであなたの側にいて、サポートする事は

認められていたけど、認められていただけなの。

それが今日初めて、あなたのサポートを

任せられたのよ。

立派な事だわ。」


マリーの説明を聞いても、10歳のハルカにはピンと来なかった。

言葉遊びをしているかのような感じを受けたのである。

ハルカにとっては、認められる事と任せられる事の違いが

感じられなかったのである。


「私は、男性の中で頑張ってる

マリーさんのほうが立派だと思う。」


ハルカの率直な感想である。


「ありがと。

でも私はまだまだよ。

大佐の僚機として、まだ背中は預けてもらえていない。」


急に険しい顔になるマリーに、ハルカも次の言葉が出なかった。

二人が無言になると、次はゲイリがハルカに近付いてくる。


「ハルカ君。

我々は、惑星カサンドウラで補給を受ける。

その際、数人がカサンドウラに上陸するつもりなのだが、

興味はあるかい?」


「私も上陸できるんですか?

船の上も飽きてきたし、一緒に行けるんなら

行きたーい。」


ハルカの軽弾んだ声が格納庫に響いた。

それに反応したのはティープである。


「ゲイリッ!

カサンドウラにハルカを連れて行くつもりか?

あの惑星がどんな惑星か判ってるだろう?」


「だからさ。

我々はクールン人であるハルカ君を

調査している。

思考実験などにも協力してもらっている。

我々だけがクールン人を知るのは不公平だとは思わないか?

ハルカ君も、人類を知る権利がある。

それにハルカ君が来るのであれば、

タク君も来るだろう?

彼も知っておいたほうがいい。」


二人の会話にハルカの眉が曲がった。

マリーに視線を泳がせる。


「え?何?

カサンドウラってヤバイとこなの?」


マリーも少し困った顔をした。


「そうね。

少なくとも私たち軍人には

良い場所じゃないわ。

でも、見ておくのもいいのかも知れない。

琥珀銀河は統一された銀河ではなく、

同じスノートール領国内でも

様々な文化、価値観があって

中には、色の濃い場所もある。」


マリーの言葉にハルカは少し考えた。

文化、価値観、地域色があるのは理解できるが、

同じスノートールで何がそんなに違うと言うのだろうか?

ゲイリが笑う。


「はは。

そんなに深く考える事はないさ。

ただ、軍事力を否定している地域ってだけだよ。

完全平和、武力の放棄。

私たち軍人に当たりが強いってだけさ。

それが、先の内戦から加熱していてね。

帝国としても頭を悩まさせている。

ただ、平和を願う気持ちってのは、

悪い事じゃないからね。

ちょっと、話し合いに伺おうってだけさ。

そこに付いてくるかい?ってだけ。

別にクールン人として付いてきて欲しいわけじゃない。」


「私が行く意味はなんですか?」


「連れていきたい意味はある。

色んな世界を知って欲しいんだ。

大人になって外の世界があるのを知るのと、

子どもの内に色んな世界があるのを知るのとでは、

大人になった時の価値観が変わってくる。

大人になって、違う価値観ってのは受け入れにくいんだ。

本当は、歴史の授業でそれを学ぶんだが、

ハルカ君もタク君も、

歴史の授業に熱心ではないからね。」


二人の歴史の授業の講師をしているゲイリは苦笑する。

彼は歴史のオタクと言っても良かったが、

歴史の観点に関しては、少し一般常識とはズレていた。

歴史とは、過去を学ぶなのではなく、

今を学ぶものとゲイリは考えている。

過去が積み重なったものが今である以上、

ゲイリの考え方は間違ってはいないが、

観点が一般的ではないのは事実だった。

タクやハルカからすれば、

星暦以前の、琥珀銀河にたどり着く前の人類など

異世界の出来事である。

だが、ゲイリは人がまだ地球という惑星上でしか

活動できなかった時代をも重視する。

銀河と地球という器の大きさが違うだけで、

人類の本質は、今も昔も変わらないと言うのだ。

今も5000年前も、人は

恋をし、喜び、悲しみ、悲壮に暮れ、そして怒った。

その感情の源泉は変わらない。

だから、人を学ぶのに時代は関係ないと感じている。

しかし人を学ぶのに、歴史にこだわる必要はない。

歴史から学ばないのであれば、今を見ていけばいい。


「外の世界を知る?」


このワードは研究所暮らしが長かったハルカの感情に響く。


「そう、子どもの内からね。」


ゲイリは笑顔で応えた。

まるで悪戯をする子どものようであったと

マリーはその日の日記に記載するのであった。

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