2章 20話 3節
スノーバロンがブレイズのカタパルトデッキに進む。
「タク二等兵、ハルカ。
スノーバロン、出ます。」
ゴオオオオオ!とスノーバロンのエンジンに火が灯り、
ブレイズから射出される。
宇宙空間に放出されたスノーバロンは、慣性を調和しながら
体制を整えた。
タクは、隣に座るハルカに声をかける。
「ハルカ、大丈夫?」
「う・・・・・うん。
この位なら・・・・・・。」
宇宙空間では平衡感覚が失われるため、
脳がバグる。
FGや戦闘機のパイロットは厳しい訓練を受け、
無重力空間の慣性に慣れる必要があったが、
ハルカも訓練を受けていた。
それでも、頭痛と眩暈と吐き気が搭乗者を襲う。
タクが気に掛けるのは当然だった。
「ヤバそうになったら、緊急システムのボタンを押して。
吐き気がきたら、そのボタンを押せば
吐いたものを吸い込んでくれる機能も働くから、
躊躇しなくていいからね。」
「大丈夫。」
言葉とは裏腹に、ハルカの声に張りがないが、
慣れてもらわなければならない。
操縦桿をゆっくり動かしながら、タクはスノーバロンの操縦よりも、
ハルカに負荷をかけないように集中しながら、
宇宙空間を飛行した。
暫くすると、スノーバロンに通信が届く。
女性の声だった。
「タク二等兵。ハルカ。
状況はどう?
問題ないなら、今日はフェーズAの訓練を実施するわ。」
声の主はマリーである。
マリーはこの短期間で伍長から軍曹に昇進していた。
タクは返事を返す。
「マリー軍曹。
こちら問題ありません。
フェーズA、承知しました。
いつでも大丈夫です。」
タクの返答と同時にブレイズから、1つのコンテナが発射されると
コンテナは宇宙空間を10秒ほど漂ったのちに、解体され
中から3機の無人ドローンが飛び出してくる。
散開したドローンは、スノーバロンを取り囲むように
3方向へと展開した。
しかし、この時代、ドローンは兵器としては
落第点を与えられている。
AIによって自動航行するドローンは、同じAIでの
最新防御システムを打ち破る事はできないでいた。
AIが最適な解を出せば出すほど、それは同じAIによって
行動を読まれる事になる。
例え、無駄な行動をとるようにプログラミングしても、
最終的には最適解に行きつくため、
結局AIに読まれてしまうのである。
それを防ぐには、有人による遠隔操作という方法があったが、
遠隔操作のために使われる電波を
拾われてしまう事で、防御側へもドローンへの指示が筒抜けになった。
もちろん、防御側を圧倒するほどの数・物量を投入する事が出来れば、
ドローンも価値はあったが、
費用対効果の面を考えれば、有人戦闘機のほうがコスパが良かったのである。
また、最終結論になるが、
戦闘行為を突き詰めた自動プログラムエンジンが導き出す結論は、
【戦闘行為を行わない】という結論にたどり着く。
AIが「この攻撃は防御側にダメージを与える事が出来ない。」と
判断してしまえば、ドローンは攻撃をしないという選択をしてしまうのであった。
最強の矛と最強の盾が戦えばどうなるのか?
AIの結論は、戦闘行為そのものの放棄であった。
戦わないと結論してしまうのである。
自己矛盾した人口知能は、そこでバグってしまう。
最強の矛と最強の盾がぶつかり合った末の結論は「無意味」という
回答になってしまうのであった。
用途としては、囮として使う事は出来たが、
囮としてプログラミングしたドローンは
囮としてしか行動ができないため、脅威にはならなかった。
囮とは、自己が生存する意思があるからこそ、脅威となるのである。
従って、戦闘という行為に関して、
人工知能は全くの無力と化した。
元々100%勝てる戦力差があるのであれば、
AIは一切の無駄がなく、その戦場を1から100まで
圧倒的に支配する形で完勝するため、
そういう使用法も存在はしていたが、
元々100%勝てる戦場というものは、もはや戦場とは言い切れない。
ただの、殲滅戦、消化試合である。
AIでなくとも、勝利は可能であり、経験のある司令官ならば、
AIと同等の思考は可能だった。
AIは無価値と言っても良かったのである。
従って、今回のスノーバロンにとって、
3機の自動操縦のドローンは一切脅威にならない。
訓練としても一番下の難易度の訓練である。
タクにも余裕があった。
「ドローンの解析完了。
無人AI型ドローンの行動パターン3に該当。
バッカー!
迎撃システムを起動してくれ!」
バッカーとはスーパーコンピュータ「バッカー」であり、
人工AIの名称である。
3方向に散ったドローンであったが、バッカーが計算する迎撃システムで
重要なポイントを押さえ、3機に囲まれない位置をキープしながら、
マシンガンの弾幕を張る。
ここまでは、無人のFGでも出来る事である。
AI同士の戦闘は決着がつかない。
だが、タクはタイミングを見計らって、手動での攻撃を織り交ぜた。
「計算されない攻撃」である。
この意図されない攻撃は、何も闇雲に撃っているのではなく、
バッカーで計算された「可能性」
ドローンが次にどう動くか?の可能性から導かれた感性である。
バッカーは、ドローンが次にどう動くか?予想を立てる。
A地点に行く可能性は50%、B地点は10%、
C地点は10%、D地点は10%、その他が20%
というように計算を出す。
タクはその一つに狙いを絞り、ミサイルを発射した。
バッカーの計算では10%の可能性しかない地点だった。
しかし、タクの予想は当たり、ミサイルは
ドローンの1機に命中すると、コンソールに撃墜のマークが表示される。
「やった!」
タクは思わずガッツポーズをした。
この場合、冷静に考えれば、たまたま予想が当たっただけである。
偶然と言ってもいい。
だが、この予想が「偶然的中する者ほど、戦場で活躍した」
理屈などではない。
もちろん、中には訓練で好成績でも、初陣で散らす命もある。
だが、明らかに訓練での成績と戦場での成績は比例していたのである。
1機が失われた事で、残りの2機のドローンは
スノーバロンへの攻撃を止め、後方に下がった。
AIの計算では、ここで勝算が0になったという事である。
タクが勝ち誇る。
「フェーズA、クリアっと。」
タクがそう言った瞬間、ブレイズから新たな機体が
カタパルトデッキから放出された。
白いFG。
白き彗星のような光の尾が、宇宙空間を一直線に切り裂く。
タクにとっては見慣れたFGである。
識別をかけていたバッカーも、タクの予想と同じ結果を返す。
「白の8。ホワイトデビル!!!
ルシュヴァン!!!
父さん!?」
タクは思わず操縦桿を後方に引き、距離を取った。
白の8、ホワイトデビル。
先の内戦で名を馳せたエースの二つ名である。




