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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~決断~

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2章 20話 2節

短い雑談ののち、セリアは食堂を後にした。

一人残されたタクも椅子から立ち上がると、出入口に向かう。

ふと、廊下に面した壁に人影が見える。

出て行ったはずのハルカだった。

タクが歩いてくるのに気付くと、

一瞬、視線を逸らす。


「この後、FGの訓練。

マリーさんが、一緒に来いって言ってたよね?」


タクは忘れていたわけではない。

今まさに、格納庫へと向かう所だったし、

ハルカは先に格納庫に行っているものとばっかり思っていた。

タクには馴染みの職場だが、FGパイロットでもないハルカは

一人で格納庫に行くのには抵抗があるみたいだった。


「ああ、ハルカもFGに乗って欲しいって言ってたね。

そのために訓練もやってるんだろ?

行こう。」


先ほどの件を引きずっていないようにタクは冷静に振る舞う。

ぎこちなさが消えない二人であったが、

格納庫までの廊下を並んで歩く。

道中は無言だった。

二人とも会話がしたくないわけではなかったが、

何か口にしてしまうと、余計な一言を言いそうになるような気がして

口は重くなってしまったのである。

沈黙のまま、格納庫についた。

タクの乗機であるスノーバロンへと向かう。

メカニックマンの一人がタクを見つけた。

ジョイ伍長である。


「おうタク、来たか。

スノーバロンの改修は終わったぜ。

こいつは試作機とあって、拡張用に使われていなスペースが

結構あってな。

作業は楽だったが、お嬢ちゃんに気に入ってもらえたら良いが。」


ジョイはタクの隣の10歳の少女に視線を投げる。

彼は大柄な男で、無精髭を生やしている事もあり、

本人は、子どもを怖がらせる人相をしていると思っていたので、

少しでも愛想よく視線を投げたつもりだったが、

ハルカはあまり気にしていない感じだった。

余談ではあるが、彼女は同世代の子どもとよりも

研究室で、大人と接した機会のほうが多い。

従って、大人に対する抵抗は高いほうである。

ジョイの言葉にタクは、笑顔で応えた。


「ありがとうございます。

コックピットを二人乗りに改修してくださったんですよね?

見ていいですか?」


「おう!」


ジョイの承諾を得ると、タクはハルカに目配せして、

昇降タラップに乗り込んだ。

二人を乗せたタラップは、スノウバロンの胸元の位置まで来ると

開きっぱなしになったコックピットハッチから中を覗き込む。

ハルカもタクと同時に身を乗り出した。


「えー。広ーい。」


スノウバロンは元々一人乗りのFGであったが、

コックピットの空間は前よりも2倍近く拡張され、

左右に椅子が少し距離をとって、横に並べて配置してあった。

もちろん操縦系統は、向かって右手の席にだけしかついていないが、

左の席にも、モニターなどが備え付けられている。

タクも感嘆の声をあげた。


「凄い。

ハルカも乗れるように、って言ってたから、

単純に後ろにでも椅子を取り付けるだけって思ってたけど、

まるで副操縦士の席みたいだ。」


「操縦できるのかな?」


ハルカの言葉にタクは少しムッとした。

彼にとって、FGは玩具ではなく、仕事の道具である。

それにFGは兵器、人殺しの道具であって、

興味本位で触れるものではない。

だが、タクは感情を殺して、返事をした。


「操縦桿はついていないみたいだね。」


何気ない言葉であったが、操縦桿が付いててたまるか!という

気持ちも含んでいた。

もちろんハルカはそれに気付かなかった。

サブの昇降タラップでジョイもタクらの高さに上がってくる。


「どうだ?広くていいだろう?

コックピットは基本的にスペースを取らないように

狭く設計するもんだが、攻撃を受けた際に

壁に圧迫される事がある。

広ければ、逃げ場もあるって事だ。

ま、攻撃を受けなきゃいいんだがな。」


タクはジョイを見た。


「伍長、操縦者の右に座席を置いたのは何故ですか?

FGの中心線ともずれるし、何より

右手の視界の邪魔になる。

右が死角になりますよね?」


タクは未成年であったが、立派な軍人であり

FGパイロットである。

パイロットらしい視点でジョイに質問をした。

ジョイはタクからの質問を待ってましたとばかりに

笑みを見せながら右手の人差し指を顔の高さで天を指さす。


「全天向ホログラムモニターだ。

ま、実際体験してみるのが早い。

乗ってみな。」


ジョイが言葉を言い終える前に、タクはハッチの壁を

飛び越え座席にスパッと飛び乗った。

それを見て、ハルカもハッチを超えようと身体を乗り出す。

身体を出来るだけFGに密着させ、滑らないように

たどたどしく乗り込む姿が初初しい。

少し時間がかかりそうだったので、

ジョイはタクに指示を出す。


「全天向ホログラムモニターは、今まで全天のモニターに

映し出していたものを、空中にホログラム映像で

映し出す技術だ。

ま、技術自体は普通のホログラム技術なんだが、

それを全天向モニターに組み込んだ感じだな。

広いコックピットのスノーバロンには

合った技術になる。

そこの緑のボタンだ。」


ジョイに言われるがままに、タクは

見慣れない位置にある緑のボタンを押す。

するとボワッとした靄みたいなものが

座席を包んだ。

次第に情報が解析され、周囲に映像が現れはじめる。

そして、タクの周りに格納庫の景色が広がった。

まるで、FGのコックピットの壁が透けて、

周りの景色を透過しているように感じるが、

映し出されているのは、スノーバロンの頭部から見た景色である。

コックピットは胸の位置にあるため、

若干高さが現実とは違う。

ただ、FGを操作するのに、距離感を計るには

頭部カメラからの景色が見えるほうが都合が良かった。


「へぇ。凄いや。

映像に包まれてて、コックピットの外壁は見えない。

あ、ここの窓に同乗者の座席が見えるんですね?」


タクは全天向ホログラムモニターに映る小さな窓に

今は誰も座っていない座席の映像を見つける。

遅れてその映像にハルカの背中が映った。

ようやく座席にたどり着いたらしい。

クルンと横に一回転して座席に座り直す。

ハルカからは、薄いホログラム越しにタクの姿は直接見えていたし、

隣なので声も聞こえている。

ジョイが自慢げに表情を緩めた。


「全天向ホログラムモニターの映像は、

タクの位置からは、FGの視界、つまり格納庫が見えて

周りが見えないが、

ハルカ君の座席からは、タクの姿が見えるだろう?

方向性のホログラム映像なんだ。

前からしか映像は見えない。

その代わり、隣の座席の映像は

カメラが写したウインドウで操縦者は確認できるってわけだ。

これで、隣に座席があっても、

視界は良好。

全天向ホログラムモニターを切れば、普通の全天向モニターに切り替わる。」


「へぇ。タクからは私が見えないんだ!」


そう言うとハルカは座席から身を乗り出して、

タクの座席のほうへと上半身を突っ込んだ。

すると急に視界が切り替わり、

ハルカの視界にも格納庫の光景が見えるようになる。

ハルカはホログラムの球体の中に顔を突っ込んだというわけである。

ビックリしたのはタクだった。

急に、ハルカの顔が格納庫の空間から飛び出てきたのである。


「うわぁぁぁ!!!

ハルカ!!

ビックリさせないでよ!!」


何もないところから、顔がニュツキ!と出てきたわけだから

タクの驚きは当然である。

タクのアクションにハルカは笑った。


「あはははははー。

タクってビビりなんだ!!」


「そうじゃないって、普通にびっくりするって!!!」


慌てて言い訳をするタクだったが、ハルカは笑ったままである。

タクは口を尖らせながら、ジョイに話を振った。


「外、出てみてもいいですか?」


「おう、そのために来てもらったんだ。

試運転してこい。」


ジョイは右手でグーの仕草をしながら応えた。

タクはスノーバロンの主電源を入れ、ハッチが自動的に締まる。

多少の違和感はあったが、操縦に支障が出るようには思えなかった。

乗り慣れたスノーバロンであったが、タクは

ワクワクしていたのである。

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