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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~決断~

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2章 20話 1節 テスト

ドメトス6世の放送を、タクとハルカは巡洋艦プレイズの食堂で

視聴していた。

テレビに映る双子の妹ルカゼを見て、ハルカの表情は変わらない。

タクが声をかけた。


「大丈夫?」


「ん?何が?」


タクの言葉に、ハルカはぶっきらぼうに応える。

ハルカとルカゼは一卵性の双子である。

他人から見れば、瓜二つの少女であり、

画面に映るルカゼと、隣にいるハルカを

タクは少し同一視してしまったのかも知れない。

だが、ルカゼはルカゼであり、ハルカはハルカである。

それに気付いたタクは、苦し紛れに会話を続ける。


「いや、ほら。

クールン人の事が世間に周知されたじゃないか。

嫌じゃない?」


タクの誤魔化しにハルカは気付かずに、

素直に言葉の意味を考えた。


「んー。

でも、実際のところ、人とクールン人は違うっていうのは

私でも理解できるしぃ。

仕方ないのかなぁ?」


ハルカの表情は特に変化がない。

タクは深入りしてしまう。


「でも、ルカゼは泣いてたじゃんか。

ルカゼのお父さん、お母さんって、ハルカの

お父さん、お母さんでもあるわけだし、

ハルカだって思うところあるでしょ?」


「あれは、演技だよ。

ルカゼが公衆の面前で泣くとかありえないし。

プライドだけは高いんだから。

ワルクワのお偉いさんにでも、泣けって言われたんじゃないのかな。」


「演技!?」


タクは思いがけない台詞に驚いた。

言葉を失った少年を、まるであざ笑うかのようにハルカは口元を曲げる。


「あんたさぁ。

私たちクールン人に関わってくれるのはいいんだけど、

ちょっと、うざいかなぁ。

私たちは確かに同情されてもおかしくない存在だけど、

だからって、同情されたいわけじゃないし、

保護されるのも嫌だし、守ってもらいたいわけじゃないんだよ?

ただ、普通の人間として生活したいってだけ。

ルカゼだって、ちょっと拗らせちゃってるけど、

普通の生活がしたい。そのためには、自分たちで

権利を勝ち取るしかないって思ってるだけでさ。

美談とか、苦労自慢にされるのは嫌いだし、

過剰な干渉は、迷惑なんだよねぇ。」


「で・・・・・・でも、その普通の生活する事が

難しいんじゃないか!?

皆の力を合わせて、取り組まないといけない問題じゃないか!

だから、僕はこうやって!!!」


ガタッ!

ハルカが耐えかねたように、椅子を立ち上がった。


「それが、有難迷惑って言うの。

そもそもあんた、いち兵士じゃん。」


ツカツカと出入口まで歩きだす。

タクはハルカを追いかける事はしなかった。

タクは14歳で、女性の扱いに慣れた男ではないし、

ハルカは10歳で、タクはハルカを子どもだと思っていた。

妹のような感覚である。

だから、追いかけて説得するような事はしなかった。

それは、優しさとかではなく、

子どもに何を言っても仕方ない。という諦めの感情に近い。

ただ、食堂を出て行った後に、

「なんだよ。」

と一言呟くのが精一杯だったのである。


そんなタクに近付く影がある。


「当事者だから、あえて見て見ぬふりをするって

気持ちはあるものよ。

直視できないような現実の時は、特にね。

自分自身を守るために必要な事かしら。」


セリアだった。

彼女は、ドメトスの放送でハルカの心境に何か変化が起きていないか

心配になって、食堂へと足を運んできたのだった。

タクは振り返り、セリアを見ると、ムッ!とした表情になる。


「本人が気にしていないってんなら、ほっとけって言うんですか!?

それが間違ってる事だとしても?」


「そうねぇ。

難しい話ですけど、私はあんまり好きじゃないわね。

正義感の押し付けは。

それに、正しいって思ったことが、必ずしも

当事者たちの幸せに繋がるとも限らないわ。

当事者本人が言うのであれば、

それは少数意見だったとしても、

たった一人の意見だったとしても、

私は価値のある意見になると思いますけど、

当事者不在の意見に価値があるとは思えません。

それは、物事の1面しか見ていない意見であって、

多角的な視点で見てない事がほとんどですもの。

当事者をないがしろにした意見は、

結局は、独りよがりの自己満足。

どこかに穴があって、人を不幸にする事が多いのよ。


ねぇ、タク。

私はあなたがこの問題について、完全な部外者だとは思ってはいません。

でも、この問題に全く関わってない

そうね、帝国の宰相みたいな人間がいきなりしゃしゃり出てきて、

クールン人はこうあるべきだ!とか押し付けてきたら

あなたはどう思う?」


「それは・・・・・・。気分は良くないけど・・・・・・。」


セリアは、椅子に座っている少年の頭を撫でた。


「クールン人のハルカにとって、クールン人の幸せは

クールン人の問題なのよ。

クールン人を迫害したのは、人類の問題だけど、

クールン人の未来はクールン人で考える事だと思ってるのじゃないかしら?

それが正しいか間違っているかは置いといて、

見守るのも、優しさね。

それに、かっこいい男の子ってのはね、

影で支えるものなのよ。」


クスクスと笑いながらセリアは応えた。

もちろんタクは納得できない表情で頭を撫でられていたが、

口にして言い返すほどではない。

不服そうな少年を前に、まだまだ美しい美貌を誇る

セリアが満面の笑みでタクを見下ろす。


「それに、正義は他人に押し付けるものではないわ。

自分自身で行動して、その行動で

他人に伝えるものよ。

考えてもみなさい。

どんなに正義感で強い信念を持っている人がいても、

その行動を、他人にやらせる人をどう思う?

自分は傷付かず、他の人を動かす大人がいたらどう思う?」


「それは、狡いと思う。」


「そう。

正義のヒーローは、自分自身で困難に立ち向かう姿がカッコいいの。

他人を諭して、自分の手を使わずに

他者を動かすのなんて、ダサいだけだし、

そんな正義は、もはや正義って呼べないわ。

タク、あなたはあなたが感じたまま、

あなたが思うように生きなさい。

他人に何か思われる事で曲がる信念なんて、

それだけの存在よ。

それにあなたには、

あなたが困ったときに助けてくれる大人が沢山いるんですもの。

ちょっとぐらい間違えたって、

大人たちがフォローしてくれるわ。

私たちを信じなさいな。」


照れくさそうに微笑むセリアを見て、

タクは美しい人だなぁ。と思った。

セリアは長年芸能活動をやっており、子どもの頃から

国を代表するトップアイドルだったわけだが、

アイドル時代のセリアを知らないタクに、

その実感はあまりなく、どちらかと言うと興味がなかったのだが、

それでも、綺麗な人だな。と思ったのである。








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