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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~決断~

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2章 19話 6節

星暦1003年3月30日

琥珀銀河全域に、神聖ワルクワ王国ドメトス6世の

声明が電波に乗って届けられる。

既に戦端は再び開かれていたが、

公式発表であるのは、誰の目にも明らかだった。

映像に映るドメトスの表情は険しい。


「琥珀銀河に住む全ての人民よ。

神聖ワルクワ王国、国王ドメトス6世である。


既に皆もわかっているように、

ワルクワ・スノートール連合国とガイアントレイブで

結ばれていた休戦協定は破棄され、

戦争は再開してしまった。

先に攻撃を仕掛けてきたのはガイアントレイブ王国であり、

我々は、護送艦1隻と人員421名。

更にFGを6機失った。

この件について、正式な発表が今まで遅れたのは、

この問題が、ただの戦争再開にとどまらないからである。


皆も知っての通り、この戦争は

ガイアントレイブがスノートールに宣戦布告し、

スノートールを2分する内戦を引き起こした責任を

ガイアントレイブの王であるクシャナダ女王にあるとして、

国際裁判所への出頭を求めたところから始まった。

琥珀銀河の平和と安寧を考えるのであれば、

動乱を引き起こしたクシャナダ女王の罪は

到底許されるものではなく、

即時退位を要求するところを、

国際裁判所への出頭という温情で済ませているのにも関わらず、

女王は、出頭要請に応じようともしない。


これが、この戦争の経緯であるが、

休戦状態になったのは、惑星ロアーソンの不可解な崩壊という

前代未聞の事件があったからである。

惑星ロアーソンに住む約3億人の人々が

惑星の崩壊によって宇宙空間に放り出された。

ワルクワとガイアントレイブは自発的に戦闘行為を止め、

すぐさま休戦交渉が行われたのである。


我がワルクワ軍は期間中、救出活動を続けたが、

残念ながら宇宙空間を彷徨う遺体を回収する事しかできなかった。

今は、犠牲者のご冥福を祈るのみである。


我々はロアーソン空域に散らばった遺体や遺品を回収し、

ガイアントレイブへと引き渡しを行っていたが、

もちろん、惑星の崩壊に繋がった原因の調査も同時に行っていた。

そしてそこで我々は

ガイアントレイブが研究、開発していた新兵器の存在を知ったのである。

想像力逞しい皆さまなら、私が何を言いたいのか?おわかりであろう。


そう、その新兵器の暴走が、惑星ロアーソンの崩壊を招いたのだ。


その事実を突き止めた我々は、ガイアントレイブ王国に対し、

新兵器の研究をしていた責任者の出頭をも要求した。

責任問題を明確にするためである。

ガイアントレイブはその要求を飲んだように見せかけ、

なんと、引き渡し現場でその責任者を暗殺し口を封じたばかりか、

我が軍へ情報を提供してくれた研究の被験者をも殺害しようとしたのである。

それがコールドウェイ星系で4日前に起きた事件の真相である。

我々は情報提供の被験者こそ、救い出す事に成功したが、

重要参考人と護送艦1隻と500人余りの命を失った。

それほど、その新兵器とはこの世に存在してはいけなかったものだという事である。

非難されるべきは卑劣なガイアントレイブ王国であり、

私は今後、戦争の手を緩める事はないと国民に誓おう。」


ドメトスは、両手を高々と掲げ、天に決意を誓うような動作をした。

さらに掲げた両手をグッ!と握りしめる。


「しかもだ!

ガイアントレイブが開発していた新兵器。

それは人道的に非難されるような新兵器でもあったのである。

先ほど、情報提供者を被験者と言った事に気付いた者は多いと思う。

そう、ガイアントレイブが行っていたのは、

非人道的な人体実験であり、人間をモルモットと同じように扱い、

強制的な繁殖行為まで実施していたのである。」


ドメトスの視線が、右に流れるとカメラは視線の先の

一人の少女を映し出す。


「彼女は、ルカゼ。

10歳の少女であり、今回の情報の提供者、研究の被験者である。

さて、かの国は彼女をどう研究していたのか?

これを見ていただければ手っ取り早い。

ルカゼ。魔法を。」


ドメトスの言葉に、カメラに映し出された少女は一度目を閉じ、

何やら念じるような仕草をすると、

彼女の周りにあった小道具が次々に空中に浮きあがっていく。

無重力空間かとも受け取れるが、中心にいる少女自体は静止したままである。

浮かび上がった椅子やテーブル、マイクは

上へと浮かぶだけではなく、今度は下に、地面側に沈み込んだかと思えば、

また上へと浮かび上がる。

この動きは明らかにおかしい。

無重力空間であれば、上に上がる力が与えられたならば、

そのまま上へ上へと昇っていくはずである。

途中で下降する事はない。

更に浮かび上がった物体たちは、横移動まで行い、

最終的に少女を中心とした円を描くように回り始めた。

漫画やアニメやドラマなどで見る、異世界の力のようだ。

そこまで黙っていたドメトスがようやく口を開く。


「そう。

超能力である。

これを彼女らは、魔法。と呼んでいるが、

念力のような超能力の研究を、ガイアントレイブは行っていたのだ。

彼女は研究が始まってから数えて、第3世代にあたる。

ガイアントレイブ王国は、超能力者を

第3世代にも渡り研究し、兵器化しようとしていたのである。

彼女らは一般社会とは隔離され、幽閉状態で、

愛し合ってもいない異性と交配され、子を産まされていた。

これが、人権に対する冒涜であるのは間違いなく、

この狂った研究だけでも、ガイアントレイブの罪は重い。


そして、ロアーソンは、魔法の暴走によって崩壊した。

このような恐ろしい力を研究しようとしていたガイアントレイブは

もはや国家として存在していてはならないと感じるのは

琥珀銀河に生きる人間の総意ではないだろうか?

この行為に嫌悪感を感じるのは私だけであろうか?

憤りを感じるのは私だけではないと信じたい。

ルカゼよ。

虐げられた民よ。

そなたはどう思う。

何を感じている?」


カメラが少女の顔に寄る。

その瞳は薄く涙が滲んでいた。


「私は父を知らない。

父は私を産むためだけにあてがわれた軍人だった。

妊娠してから、母と父は引き離され、

母は、もう一度父と会いたくて、一緒に暮らしたくて

軍に協力して、そして魔法の暴走で死んだ。

ガイアントレイブは私から、父と母を奪った。

私も被験者として、社会から隔離され、研究室に幽閉された。

私はガイアントレイブが憎い!

どうして、どうして同じ人であるのに、

こんな仕打ちが出来るのか?

どうして・・・・・・・。


ドメトス陛下は、そんな私を救ってくれた。

私は、ガイアントレイブを糾弾する!

そして、この世界の非道に対して、立ち上がってくださった

ドメトス陛下を後押しします!

私たち、クールン人と呼ばれた3世代皆の被験者の思い、

私は、女王クシャナダを許さないっ!

絶対に!!!」


瞳から涙が零れ落ちる。

カメラは頬から地面へと吸い込まれていく水滴を追った。

その雫が地面に当たり、パッ!と広がった後、

ドメトス6世へとアングルは切り替わる。


「琥珀銀河の民よ!

禁断の力を欲しようとした、人ではない悪魔に

正義の鉄槌を降すときが来たのだ!

我々はこの戦争に勝利し、

人の世の理を世界に知らしめるために戦う。

悪が栄える事はなく、

正義によって、世は正されるであろう!

改めて余、ドメトス6世は、

ガイアントレイブに対し、宣戦を布告する!」


「おおおおおおおお!!!」


カメラに映らない場所からの、多くの雄たけびをマイクは拾った。

ドメトス6世はゆっくりと少女の隣まで歩くと、

少女の左肩にそっと右手を添える。

戦後、有名な画家となるアサウンも描いたこのワンシーンは

被害者である少女とそれを保護する保護者

被験者と解放者

そして、二人の復讐者を描いた絵として、

クールン声明の名と共に、歴史に名を残す事になる。

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