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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~邂逅~

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1章 2話 5節

作業用FGであるポロンは、宇宙を駆った。

だが、ポロンは兵器としてのFGルックに比べ機体性能にそこまで

差はないと言っても、多くの面においては劣っているのは間違いない。

特に顕著なのは、加速度とトップスピード下での活動時間である。

想定されていない運動性能を要求されたポロンは

次第に悲鳴を上げる。

コックピット内で警告音が鳴り響いた。


ビービービー!


だがタクは運動を止める事は出来ない。

止まった時点で、無数に襲ってくる機雷群の餌食になってしまうだろう。

機雷群を避けながら、出来るだけ最短距離で、

急ぎカレンディーナの元へと駆ける。


「母さん!反応してくれ!

母さん!応答してくれ!」


何度も何度も通信機に向かって呼びかけるタクの声が無情に

コックピットを満たしていく。

その声に応えるものは何もなかった。


「母さん!ダメだ!

母さん!母さんっ!」


そして、タクはカレンディーナが火球と化したポイントにたどり着いた。

爆発でFGの機体はバラバラに吹き飛んでおり、

その場所には何も存在していなかった。

タクはカメラのズーム機能で、周囲を拡大し残存物を探す。

機雷群は動きを止めたポロンに対し、

攻撃を止め、警戒するように周囲を周回した。


「母さん!!」


何も見つからない焦り。

もし爆風で飛ばされてしまったのなら、永遠に宇宙をさまよう事にになる。

タクは必死にコックピットのモニターを操作するが、

その指が震えていくのを感じていた。

戸惑いはやがて怒りに変わっていく。

悲しみの感情はわかなかった。

誰だだっただろう?

「悲しみとは状況を整理してから訪れるものだ。」

と言った人は。

タクはまだ悲しみを実感するまでの余裕がなかった。

感じるのは激しい怒り。

憎しみにも達していない純粋な怒りが、彼を支配しようとしていた。


「貴様!

何をやったのか!?わかっているのか!

おっ・・・・・・カレンディーナ少将は

お前を助けようとしたんだぞ!」


タクは通信機に向けてではなく、自分の頭の中に対して叫んだ。

声は直接、脳に響く。

声が聞こえる対象に向け、感情のままに叫んでいた。

その叫びに、声が応える。


「助けようと?

じゃあ、なんで向かってくるのさ?

見逃してくれれば、良かっただけなのにっ!」


「お前は危険だ!

そんな物騒な兵器、見逃せるはずがないだろう!」


「兵器?私は兵器じゃなぁーーーい!」


絶叫に似た声に思わずマリーは目を瞑った。

頭に響いたからである。

しかし、タクはたじろがなかった。


「5人も殺しておいて、言えた台詞かっ!」


「やりたくてやったんじゃないもんっ!

大体、あなた達がガイアントレイブに攻めて来るから。

原因はあなた達じゃない!

あなた達が来なければ、私たちだって戦場に狩り出される事はなかった!」


マリーはタクを援護しながら、必死にモニターを叩く。

頭に直接響く声は、通信機越しではなかったため、

記録に残らない。

だが、彼女は必死に頭に響く声をメモり、

巡洋艦ブレイズへと送り続けていた。

この会話は、貴重な資料になると判断しての行動だった。

今も声は見逃せない台詞を吐いた。

「私たち」と

少女の声は言う。

それは、この摩訶不思議な兵器を扱う人間が

複数いることを示唆している。

タクはその事に気付かなかったが、会話を続けた。


「この戦争を始めたのは、お前らガイアントレイブだろ!

勝手な事を言う!」


「知らないもん!

もう!あなたも消えてよっ!」


少女の声がそう宣言すると、それまで様子を伺っていた

機雷郡が一気にタクに襲い掛かった。

タクはマシンガンを乱射し、前方に道を作ると、

機雷郡の爆発が連鎖する場所へと突っ込んでいった。

FGは巨大ロボット兵器である。

貫通力のある指向性機雷のG-2機雷であっても

爆発した後の破片のバラマキ程度では装甲は貫通できない。

後は、爆発の中に突っ込んでいく勇気だけである。

タクにはそれがあった。

作業用FGポロンの装甲は、兵器であるルックの装甲と遜色ない。

むしろ、軽量化を計算されたルックよりも

頑丈である部位もある。

タクの判断は的確だった。

しかし。


「マシンガンの弾薬が保つまい。

エネルギーもだ。

ポロンは長時間の戦闘用に設計されてはいないのだ。」


マリー伍長と合流したモルレフ曹長は言った。

マリーはモルレフの乗るルックを見て驚愕する。


「曹長。ルックの腕が・・・・・・。」


モルレフのルックは右腕が全て吹き飛んでいた。

機雷に接触したのであろう。

だがモルレフは落ち着いている。


「生物とは凄いものだな。

FGが何故に人型なのか?納得したよ。

これが戦闘機であれば、1発の機雷を受ければ

致命的だっただろう。

戦闘機には、無駄な部位はないからな。

だが、FGはどうか?

腕一つ吹っ飛んだところで、操縦に支障はない。

あれば、それを利用して何かをする事が出来るが、

無ければ無いで問題ない。

生命の、生物の神秘と言ったところか。」


モルレフは妙に感心した素振りだった。

もちろん、そんな事を言っている場合ではないのだが、

言いたくなったのだ。

何故言いたくなったのか?

それは目の前の光景を見ているからだろう。

脳に直接響く声、そして推進力がなくとも自由に飛翔する機雷。

そのどちらも、機械的なモノではないと感じていたからだった。

機械的でないとするのであれば一体、何なのか?

ゴクリ。とマリーは生唾を飲みこむ。

マリーもモルレフと同じような事を考えていたからである。

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