2章 18話 5節
ルカゼの魔法の影響下に対応出来ていたパイロットは3人である。
ガルとトワとソーイ。
だからこそ、ほどなくしてガルの意図をソーイも理解した。
「敵は退却している!?
だけど、あの1機。
殿に残って!?」
同じくトワもガルのエクセルハーツが1機残るのを確認した。
「あのワンオフ機は、ルカゼを収容した機体だな。
それが残る。という事は、
我々から見れば解せないが・・・・・・。
母船の位置を悟られないように、
先に味方を逃すという事か。
つまりは、恐らく隊長機。
責任ある立派な行動だ。
だが、我々の目的は、貴様らを叩く事ではなく、
ルカゼの命!その一点にある。
で、あるならば、ルカゼを収容した機体が
殿に残るのは、得策ではないぞ?」
もちろん、トワの言葉はガルには届かない。
だがトワの言ってる事など、ガルも百も承知であった。
「この2機を止めるには、
ルカゼさまの魔法の力をお借りしなければならない。
危険は承知。
だが、残念ながらそれほどの相手だという事だ。」
まずは、距離の近かったソーイのコントレヴァが
ガル機に襲い掛かる。
姿は見えてないため、先ほどと同じように幻影を切り裂きながら
ガル機に迫っていった。
この時点で予想はしていたが、
最短距離で近付いてくるソーイの技量をガルも認めざるを得ない。
「敵はもはや、ルカゼさまの魔法の影響下でも
ほぼ自由に動くことが出来ている!
敵の位置を把握する術も!
適応能力の高さか?」
思わず舌を巻く。
だが、ガルとて負けてはいなかった。
ソーイ機の幻影が現れては消えるタイミングを見計らって
ロンアイソードを抜くと、彼は何もない空間に向け剣を振るった。
ガシンッ!
と、ロンアイソードに鉄の塊がぶつかった衝撃が響く。
食後、目の前にコントレヴァが現れた。
エクセルハーツの剣と、コントレヴァの刀の刀身が
お互いにぶつかり合っていた。
そのまま2機はつばぜり合いのように対峙する。
流石のソーイも驚きを隠せない。
「刀を受け止めた!?
こいつには、見えているのか?
この状況で、我々の正確な位置を!?
こいつだけは、魔法の影響を受けていないのか?」
魔法の力は未知数である。
確かに、ルカゼが同乗しているエクセルハーツだけは
魔法の影響を受けていない可能性は否定できなかった。
そうであれば、先ほどのビームライフルの正確な射撃も
理解できるというものである。
もしガルが敵味方の位置を把握できているとすると、
一気にソーイは不利になるというもの。
だが、そうではないと言い切れる部分もある。
もし、ガルが魔法の影響を受けていないのであれば、狙撃できるのである。
この場面で刀を受け止める必要などない。
「同条件!
俺たちと同条件で、剣撃を受け止めたって事か。」
つまり、FGパイロットとしての技量は
ソーイらと互角という事だった。
ソーイの顔に笑みがこぼれた。
「イイネ!
真和組に欲しい人材だ。
どこまでの腕か、見定めてやるっ!」
2機は至近距離で対峙していたが、ルカゼの魔法で
先ほどよりももっと遅くなった光のスピードは
お互いの剣が届く位置でも、タイムラグを発生させる。
この場合、攻撃は最大の防御であった。
ソーイのコントレヴァが鍔迫り合いから、相手の力を受け流し、
2撃目を放つ。
ガルは気持ち早いタイミングで、剣を合わせた。
ガシンッ!!!
再び刀身同士がぶつかり合う音が響くが、
ソーイは3撃目、4撃目と連続攻撃を繰り出すが、
ガルはそれを受け止めていた。
しかし、なんとか隙を見つけて反撃しようというガルであったが、
防戦するのが手一杯であった。
至近距離での格闘戦は、ソーイのほうが上である。
ガルはワンテンポ早目に動く事でなんとか対処しており、
それだけでも驚くべき技量であったが、
格闘戦ではエキスパートの真和組に敵うはずもない。
流石に弱音も出てくる。
「やはり、この戦闘力!
真和組かっ!」
ガルはスノートールの内戦時、トワと一騎打ちをしたことがあった。
その時の感覚が蘇る。
そして、ガルとソーイの戦いを距離を置いてみていたトワも
同時にその事を思い出していた。
「あの悪趣味な真っ赤な機体・・・・・・。
あの時の小物か。
名は確か、ガルとか言ったな。
ソーイの攻撃を耐えるとは、腕を上げたようだ。」
クックックッ。
とトワも笑った。
好敵手の出現は、彼にとってもご褒美である。
エクセルハーツは、全身を真っ赤に染め上げた機体であった。
漆黒の宇宙空間で、白や赤などのカラーリングは
敵に感知されやすく不利である。
白い機体と言えば、ホワイトデビルの異名をもつティープの代名詞であったが、
ワルクワ王国では客将の身分であるガルも
軍の正規兵とは違うカラーリングで自己を主張していた。
だが、トワから見れば、無駄な自己主張はただの承認欲求の塊で
小物感しか感じなかった。
現に、ガルはホワイトデビルなどの二つ名を持つほどの実績を挙げてはいない。
しかし、トワとの一騎打ちで引き分け、今もソーイと互角の戦いを演じている。
好敵手の部類なのは間違いなかった。
「そちらは、魔法という未知の力を使っているのだ。
2対1だろうと、卑怯などとは言わないだろうな?」
トワはアクセルを踏み込み、ソーイとガルの戦いの場に参戦した。
ソーイの剣戟を防いでいるガルに焦りが見える。
「くっ!
隙を見て逃げようと思ったが、隙がない!」
こうなるともはや打つ手は一つ。
光の速度が落ちているとはいえ、近距離でビームライフルを
ぶっ放して、威嚇するしか方法はない。
ガルはレバーを操作すると、
左手の剣でソーイの斬撃を防ぎつつ、右手のビームライフルの照準を
トワに合わせた。
「当たらないでも、隙を作れたら!」
「ふん!
器用だな。
だが、当たらんよ!」
「ルカゼさま、魔法を!!!」
「切るよ!!!」
ブンッ!またしても、空間がぼやけると、それまで散らばっていたら
残像が一つに重なり始める。
急に視覚が戻った事で、ソーイの斬撃が空を切った。
流石のソーイとは言え、一瞬で切り替えが出来るわけでもない。
その瞬間を狙って、ガルのビームライフルの照準が
微調整を行い、トワを捉え直す。
自分の指示したタイミングで魔法のオンオフを切り替え出来るとは言え、
ガルの動きは素早かった。
「墜ちろっ!」
エクセルハーツのビームライフルが光の束を発光し、
一本の線が宇宙空間を切り裂いた。




