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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~決断~

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2章 18話 2節

違和感に気付いたのはコントレヴァを操るソーイもである。


「なんだこれ?

レーダーに複数の光点。

レーダーの故障?

いや、目視でもFGのバーニアの光が大量に!!」


ルカゼの魔法。

光の進む速度を変えたというのは、実際恐ろしい事である。

人は目に光を取り込んで、物体を視認する。

だが、100光年離れた恒星の光は100年前の光であり、

100光年離れた惑星に光が届いた瞬間に、

元の場所に未だ恒星が存在しているとは限らない。

この時代の人間は、それを実感している。

何故なら、宇宙河という宇宙を流れる川のような流れの空間があり、

そこでは空間自体が移動しているため、速度の概念が当てはまらない。

光速を超える場所があるのである。

この宇宙河を使った宇宙航行が、この琥珀銀河の惑星間移動の基本であったが、

100光年離れた場所にも、宇宙河を使えば3ヵ月で到着できたりするのだ。

恒星Aの超新星爆発を観測した人間が、

宇宙河を使い3ヵ月で100光年離れた場所に移動すれば、

その地点からみた恒星Aはまだ存在しているように見える。

99年と9か月後に、恒星Aは超新星爆発を起こすと

予言する事が出来たのである。

見えるからと、そこに物体があるとは限らない。

また、身近で例えれば、音もそうである。

床に石を投げて、カンッ!という石が床に当たった音が響いたとする。

しかし、音を聞き取った瞬間に、その床の場所に石があるわけではない。

床に当たって跳ね返り、どこか別の場所に移動しているものだ。

音が聞こえるというのは、その場所にモノが存在すると確定する事項ではなかった。


という認識は、この時代の人間は誰でもが認識していた。

しかし、100光年など離れた場所の出来事は理解できても、

目の前に見える光景として受け入れるのは、尋常ではない。

見えているのに、そこに物体は存在しないのだ。

逆に言えば、そこにいる物体が見えていないのだ。

更に言えば、レーダーに複数の光点が映るということ、

実際の目視に複数の光が見えるという事は、

もう一つの要素がある。

ルカゼは光の速度を単純に2分の1にしたなどという事ではなく、

光の速度をバラバラにしたのだ。

もし仮に2分の1などと均一にしたのであれば、

光が瞳に取り込まれる時間が遅くなるだけで、

その場所に物体は存在しないかもしれないが、光は一つしか見えないはずである。

100光年先の恒星の光は、人の目に届くのに100年かかるが、

見える光は一つである。

稀に一つの恒星が複数見える現象があったりするが、それは

途中でブラックホールなどの大質量のものが原因で

光が屈折されてしまうために複数見えてしまう現象であるが、

人は屈折されたのだと把握し、混乱まではしない。

だが、光の進むスピードをランダムに変えてしまうというのは、

信じがたい結果を引き起こしたのであった。

ガルは残像と言ったが、実際はそんな生易しいものではなかった。

当初はただの光の遅れだったのもを、

ルカゼは更に光の速度をランダムに変えた。

A地点にいるFGが、B地点に移動し、更にC地点に移動する。

この時、Aからの光が秒速1メートル、Bからの光が秒速約30万キロメートル、

C地点からの光が秒速約1000キロメートルの場合、

この時、ソーイにはB地点のFGが先に見え、次にC地点、

最後にC地点と同時に、A地点の姿が見えるのだ。

だが、実際のFBはC地点にしか存在しない。

まるで忍者が使う分身の術、残像攻撃のような光景が見えるのである。

流石のソーイも驚愕するしかなかった。


「ワルクワの新兵器?

こんなのめちゃくちゃだ!

!?

クールン人、ルカゼかっ?」


ソーイは無秩序とも言える現象をクールン人の魔法だと決めつけた。

何故なら、この現象はソーイらガイアントレイブの兵士だけではなく、

ワルクワ軍兵士にも混乱をまき散らしていたからである。

魔法の使用が行われると判っていたユライフでさえ、

現状に困惑していた。

5秒前の自分の姿が視線に入る。

更に10秒前にいた自分の姿が、5秒前より後に見える。

自身が分身の術を使っていると割り切れれば良かったが、

バッカーの計算処理でFGを操作しているユライフにとって、

バッカーの計算が狂うのは、FG操縦に致命的なダメージを与えていた。

そして、次第にどれが本物の自分であるのか?わからなくなる。

自身はA地点にいるのに、B地点にいるものであると

バッカーは計算し、その結果、ユライフ自身もB地点にいるものと錯覚する。

上下がない、大地という目印がない宇宙空間で

自身の座標を見失う事は、致命的だった。

ましてや、実際の目でみた光景すらバグるのである。

それは致命的だったのである。

それほど、人は視力に頼って生活している。

住み慣れた自宅であっても、暗闇の中で自由自在に動けるものではない。

暗闇の中では、水が満タンにはいったコップの水をこぼさずに、

5mも人は歩くことができないのだ。

部下の狼狽に気付いたガルは通信機越しに指示を出す。


「落ち着くんだ!

敵を攻撃する必要はない。

回避すればいいのだ。

この状況は、回避するのには好都合だと言える。」


だが、この通信も電波であり、電磁波の一種である。

光と同様に、進むスピードが変化された。


「きこうをてげきひよつるすいうはな・・・・・・!」


言語にならない言葉が通信機から流れた。

頭がパニックになる。


「チィッ!

だが、今の状況は悪くはない。

あとはパイロットとしての技量と運の問題だ。」


ガルはルカゼの魔法の使用を止めなかった。

敵のパイロットのほうが腕がいい以上、

まともに戦っては勝ち目がない。

例えこちらもパニックに襲われるとしても、

まだ現状のほうが生存への可能性が高いと踏んだのである。

幸い、ルカゼの魔法の力だという事は、皆が理解している。

要は慣れるだけの話だった。

しかし、このガルの考えは、若干甘さを含んでいる。

慣れるという観点で言えば、パイロットとして技量の高い者のほうが

慣れるのも早い。

案の定、ソーイはこの状況を楽しみ始めていた。


「敵が無数に見える。

だけどそれだけだ!

実際の数が増えているわけじゃないし、

無数に見えるなら、その全てを叩き潰せばいいだけの事!」


まるで脳筋のように言い放つと、腰よりロンアイソードを抜きさった。

虚像のFGが見えるのであれば、ビームライフルやミサイルの出番ではない。

単純に弾の無駄撃ちになるからだ。

だが、刀であれば無尽蔵に振るう事が出来る。

ソーイはアクセルを踏んだ。

全ての残像を切り払ってしまおうと割り切ったのである。

ましてや真和組は、格闘戦術に特化した部隊である。

彼らしい判断だと言えた。





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