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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~邂逅~
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1章 1話 1節 眩い光の中の悪夢

星暦1002年2月23日


琥珀銀河と呼ばれる銀河系は、3つの陣営に分かれていた。

スノートール帝国・・・皇帝ウルスが治める、

琥珀銀河の10分の3を占める勢力。


ガイアントレイブ王国・・・女王クシャナダが治める、

琥珀銀河の10分の3を占める勢力。


神聖ワルクワ王国・・・国王ドメトス6世が治める

琥珀銀河の10分の4を占める勢力。


三国鼎立。ほぼ同勢力だった3陣営だったが、

1001年まで行われていたスノートール王国の内戦をきっかけに

3国のパワーバランスは崩れようとしていた。

内戦の引き金を引いたのは、ガイアントレイブ王国だった。

そのため、内戦に勝利し

帝国として生まれ変わったスノートール帝国皇帝ウルスと、

その同盟者であった神聖ワルクワ王国のドメトス6世は、

女王クシャナダに対し戦争責任を追及、戦争裁判の開催を要求した。

しかし、クシャナダはそれを無視。

2国の呼びかけに応じなかったガイアントレイブ王国に対し、

スノートールとワルクワは、星暦1002年1月15日

共同でガイアントレイブに宣戦布告する。

こうして琥珀銀河は、全世界を巻き込む戦争状態に突入したのだった。


琥珀銀河の10分の7を占める連合軍は、瞬く間に

ガイアントレイブとの国境ラインを突破し、戦争は早期終結するかに見えた。

しかし、ガイアントレイブ王国ジャックスワン元帥は

広大な宇宙空間を利用したゲリラ戦法を展開。

補給線の伸びきった侵攻軍の後方を攪乱すると、

戦力を分散し、兵力集中による一大決戦を避け、

散兵戦術で連合軍の兵站をズタボロに切り裂く戦法に出る。

それを可能にしたのは、巨大人型兵器である

ファントムグリム(略:FG)の存在だった。

FGは前年まで行われていたスノートールの内戦で

一躍歴史の表舞台に出現した兵器である。

それまで宇宙空間での作業用ロボットとして存在していたFGは、

スーパーコンピュータ「バッカー」の出現によって

著しく性能が向上し、巨大宇宙戦艦が主役であった

宇宙戦の勢力図を塗り替えた。

少ない部隊で各地に散らばる散兵戦術との相性も良く、

巡洋艦1隻とFG6機という最小単位の部隊編成で、

補給部隊に大打撃を与える事が出来たのである。

ガイアントレイブの後方攪乱戦術によって、

当初快進撃を続けていた連合軍は、

開戦一ヶ月でその進行速度が止まる。

2月23日には、各戦線は膠着状態となっていた。


ガイアントレイブ王国領リリラアイス星域には

連合軍の一角であるスノートール帝国軍が進軍していたが、

他の戦場と同じく、膠着状態であった。

この星域には2つの有人惑星と6つの人工コロニーが存在していたが、

スノートール帝国は外縁部にあるフィッサコロニーを占拠したのみに留まり、

中心地域への進軍には時間を有していたのである。

星系内に無数に存在する小規模な人工要塞が、その行く手を阻んでいた。

この人口要塞は惑星上でいう灯台なようなものであり、

座標特定の道しるべとして、宇宙空間の航行に必要なものであったが、

ガイアントレイブはその宇宙灯台を簡易の要塞化し、

散兵戦術の要。補給基地として使った。

大艦隊で攻撃すれば、一瞬で破壊できる程度のものであったが、

宇宙航行に必要な宇宙灯台を破壊するわけにもいかず、

占拠したとしても、防衛の兵力を駐屯させなければ、

即座に取り返された。

それが宇宙空間に無数に点在し、

数が多すぎて全てを制圧する事は叶わなかったのである。

従って、攻め手側であるスノートール帝国軍も

散兵戦術を採用し、少ない兵力で

宇宙灯台を制圧する作戦を実施せざるを得なかった。


この日、巡洋艦プレイズはD745ポイントに存在する

宇宙灯台の制圧に向かっていた。

兵力は巡洋艦1隻とFG6機の基本編成である。

ただし、諸事情によりこの部隊には

FG部隊の総責任者カレンディーナ少将と

その僚機の計3機が随伴している。

目的は宇宙灯台守備部隊が存在してればその壊滅、

策敵レーダーなど簡易要塞化している箇所の破壊、

備蓄の食糧や弾薬などがあればその押収。

逆にスノートール王国用レーダーの設置などが任務である。

しかし、この作戦は欠点があった。


「コンガラッソ軍曹。

結局・・・・・・宇宙灯台を制圧しても、駐留部隊を置かなければ

また取り返されちゃうんでしょう?」


声の主はまだ若い少年兵だった。

この時代では少年兵の存在は珍しくない。

宇宙空間へと生活の活動圏を広げた人類は、

過酷な宇宙空間での生活を克服したとは言い難かった。

宇宙は無慈悲に人の命を奪う。

特に有人惑星などの快適な居住地に住むことができない

貧民層の人々は、劣悪な生活環境での生活を余儀なくされ、

事故などにより親を失った子どもたちが大量に生産されることになった。

彼も幼い頃に親を失った少年の一人である。

ただし、親と死別したのか?捨てられたのかはわからない。

彼にしてみれば、それはどうでもいい事だった。

現実として、彼は孤児として生き、生きるために軍を職業に選んだ。

スノートール帝国では、少年兵制度は福祉の一環として存在している。

もちろん、国家が孤児たちを保護することも出来るが、

自立を望む子どもたちは、自ら働く道を選ぶことが出来た。

この少年も、自ら軍で働く事を選んだ少年である。

彼の名前はタク、14歳。

孤児として育てられ、これまで学校に通う事も出来なかった彼は、

1年前まで読み書きさえも満足に出来ない少年であったが、

軍人となることを自ら選び、軍人として戦場に派遣されている。

とは言え、少年兵制度が福祉の一環である以上、

軍に所属し、お金を稼ぎながらも、勉強も受けさせてもらえている。

「読み」に関しては、同年代の子どもと大差ないところまで成長していた。

そんなタクに、勉学や世の中の事を教えるのは、

直属の上官の義務でもある。

コンガラッソ軍曹は、通信機越しに作業用FGポロンに搭乗するタクに応えた。


「ああ、そうだ。

だが、相手の索敵レーダは壊さなければ、こちらの兵站の動きがばれちまう。

やらなきゃいけない事なんだよ。

それにな。

人間ってもんは、取って、取り返されの繰り返しで生きている。

お前は稼いだ金を使うだろ?

使ったらまた稼ぐ。

稼いだら使う。それの繰り返しだ。

一見無駄に思えるような事でも、それが人生ってやつよ。」


コンガラッソ軍曹は、したり顔でそう答えた。

もちろん、タクがすぐに同意できる内容ではない。

タクは素直に「無駄は省くべきだ」と思う。


「なるほど、ですから軍曹は

結婚と離婚を何度も繰り返されているのですね。」


「なっ!!」


コンガラッソは絶句した。

彼はタクの前では、一丁前に先輩顔をひけらかすが、

頭の回転が早いほうではなかったため、言葉に詰まる。


「くそガキが。まったく、上官をなめてやがる。」


口調は悪いが、もちろん冗談であった。

いい返しが出来なかったコンガラッソは話題を変える。


「無駄口叩いてないで、さっさと終わらせるぞ。

今晩はカレンディーナ少将の送別会だ。

お前、部隊を代表して送別の言葉を贈るんだろ?

大丈夫か?」


「もちろん出ますよ!

母さんの送別会なんだ。

泣かせてみせますよ。母さんを。」


「ぎゃははは。

あの鬼教官と呼ばれた少将閣下を泣かせるってか。

そいつは楽しみだ。

帰ったら皆に自慢できるぞ。」


コンガラッソの下品な笑いがFGのコックピット内に響いた。

タクはカレンディーナ少将の事を「母さん」と呼んだが、

孤児であるタクの本当の母親ではない。

カレンディーナ少将は、戦地から脱出するタクら孤児たちを救出した人物で、

その縁で孤児たちの面倒をみるようになった。

タクが軍に加入したのも、カレンディーナ少将の影響が大きい。

そのカレンディーナが今回、軍を抜ける決意をしたのも、

孤児たちの本当の母親になるためである。

彼女が軍を抜けるなら、自分が代わりに!と

タクが少年兵制度に志願した経緯もあった。


今、カレンディーナ少将とタクは巡洋艦プレイズに乗船し任務にあたっているが、

同じ部隊に配属されているのは軍の人事部の配慮である。

本来ならば少将であるカレンディーナが配属されるような部隊ではない。

だがそれも今日までだった。

明日になれば、カレンディーナはプレイズを離れ帰国の途に就く。

先の内戦を勝利に導いたFG部隊のNo.2の勇退である。

作業用FGではあったがFGのパイロットであるタクも

短い間ではあったが教えを乞うたし、

戦闘用FGの正規兵であるコンガラッソからみれば、雲の上の存在である。

そんな彼女を、タクは泣かせると言う。

コンガラッソにしてみれば、いい土産話になりそうだった。


「それによぉ。伝説の英雄

ティープ大佐も来るらしいじゃねーか。

ホワイトデビル、白の死神。

生きる伝説だぜ?」


コンガラッソは興奮しているがタクは冷静である。

それもそのはずで、カレンディーナの婚約者がティープである。

そして、カレンディーナを母と呼ぶタクからしてみれば、

ティープは父であった。

現在はFGパイロットから足を洗い、

後方勤務である父が、カレンディーナの送別会のために

前線に向かってくるというのは、前もって知っていた。

もちろん、伝説の英雄である。

タクにとっても尊敬出来る人物であるのは間違いない。


「実は、父さんとはあまりゆっくり話した事がなくて。

内戦での活躍話とか聞きたいんですけど。」


「ああ・・・・・・タク、それは気持ちはわかるが、

野暮ってもんだぜ?

戦場ってのは綺麗事だけじゃねぇ。

戦場での手柄とか自慢話をするやつは、後ろでびびってた

臆病もんだって相場が決まってら。

本当の勇者のほとんどはおっちんじまってるし、

激戦を生き抜いた者ほど、戦場を語りたがらないものさ。

地獄だからな。戦場は・・・・・・。」


コンガラッソの言葉が急に暗くなった。

陽気でお調子者の軍曹ではあったが、

彼も先の内戦をFGパイロットとして戦い

決戦地となったデットロイ攻防戦を生き残った兵士である。

言葉には重みがあった。

コンガラッソは首を振る。


「まぁ、世の中が平和になりゃ、

いずれ話してくれるようになるさ。」


「そうでしょうか・・・・・・。」


「ああ、戦争の思い出話は

平和の時代にするものだからな。

だがその為には俺たちは生き残って

戦争を終らせるんだ。」


「はい!!」


タクは孤児として育ったのもあり、

大人が嫌いだった。

嫌いというよりも信用していなかった。

ミネル女史という政治家に孤児として拾われるも

戦争に巻き込まれ、カレンディーナに救出されるまで

大人を信用することができなかった。

その心境が変化したのは、ミネル女史が

彼ら孤児たちを、戦場から命がけで脱出させた事から始まる。

事実はそうではなかったが、

タクはそう信じている。

ミネル女史が軍の士官学校を卒業していると聞き、

軍人への偏見がなくなると、

彼を保護しようとしている軍医であるキャサリン女史、

カレンディーナに対して素直な心で接する事が出来るようになったのだ。

それは、軍への絶大な信頼にも繋がった。

軍人は信用できると思うようになった。

自ら傷つかないで、安全な後方で文句ばっかり言っている大人たちより、

自身の命をかけて行動する軍人は信頼できると思えたのである。

従って、タクはコンガラッソの事も尊敬していた。

師弟と言ってもいい二人が不運だったのは、

この会話は通信機越しに行われており、

更に2人はそれぞれ任務についている真っ最中だったことである。

2人の会話は巡洋艦プレイズにしっかり聞かれており、

彼らの上官であるカレンディーナ少将の耳にも届いていたのである。


「コンガラッソ軍曹。タク二等兵。

おしゃべりをするな!とは言わないが、

手は動いているんだろうね?」


「はっ!!策敵レーダに反応なしであります!」


「母さん、大丈夫!

プレイズの前方にデブリはないよ。」


コンガラッソの任務は周辺の策敵であり、

タクの任務は、巡洋艦プレイズの航行の邪魔になる

宇宙デブリの除去である。

2人は慌ててカレンディーナの叱責に応える。

だが、タクの返答は更なる叱咤を産む。


「タク二等兵。

少なくとも任務についているときは、階級で呼びな。

公私混同だよ。

それに、仕事にはメリハリをつけるんだ。

じゃないと、死ぬよ。」


厳しいカレンディーナの声に、タクは「しまった!」と眉をしかめるが

コンガラッソが助け舟を出した。


「少将。タク二等兵が、少将を母と呼べるのも

一旦は今日まで。

暫くは呼ぶことも出来なくなります。

今日ぐらいは大目に見てあげてもよろしいのではないでしょうか?」


「軍曹・・・・・・。

甘やかされては困る。」


カレンディーナは母親の声でコンガラッソに答えた。

そこには優しさがあり、親としての厳しさがある。

カレンディーナは33歳になるが、これまで結婚の経験はなく、

母親になった事もなかったが、FG部隊のまとめ役として

隊員たちには「おっかさん」の愛称で親しまれていた女性だった。

だからという訳ではないが、孤児の子どもたちも彼女には直ぐに懐いた。

母性の滲み出る女性だったのである。

ここは戦場であったが、穏やかな空気が流れる。

しかし、ここが戦場である事を再認識させる出来事は直後に起きた。


ピカッ!


一点の光の玉が宇宙空間に輝く。

何もないところで急に光を発する事など、この宇宙空間では起こりえなかった。

しかもその光源の場所が問題であった。

そこは、今まさにコンガラッソのFGが偵察していた場所だったからである。

慌ててカレンディーナが通信機のマイクを掴んだ。


「コンガラッソ軍曹!

どうした!?何があった?

報告しろ!軍曹!!!

聞こえるか?応答しろ!軍曹!!!」


しかし、通信機からの応答はなかった。

代わりに声を発したのはタクだった。


「えっ!?」


「FG隊!緊急発進!

偵察中のコンガラッソ軍曹の身に何か起きた!

出撃準備完了次第、待機中のマーク隊は

ポイント469へ。

ヒルン・モルレフ隊はプレイズの防衛に回れ!

私も出る!

タク二等兵はそのまま船外で目視索敵!

何かあったらすぐに教えるんだ。」


カレンディーナの指示が飛んだ。

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