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青春と部室  作者: 佐々木なの
1997年:吉川梨花
5/18

プロローグ

青春と部室(5)

 つまらない男だった。


 私が処女を捧げた男は──捧げるって言葉は好きじゃないし、そもそも処女なんてどうでもよかった。


 受験戦争を乗り越え進学したばかりの私の興味は、もっぱら女子高生らしいものに注がれていた。洋服のこと、化粧のこと、ブランドもののバッグ、なによりも男の子。そう、あの頃の私の頭の中は、セックスのことで一杯だったと思う。

 どれも手を伸せばいくらでも掴み取れると思っていたし、実際どれも簡単に手に入れられた。

 生まれてはじめて付き合った年上の男と、ナンパされて三日後のセックス。それなりにドキドキはしたし、あれが入った時はかなり痛かったけれど、終わってみれば「なんだこんなもんか」ってところ。彼はそれ以来会う度に私の身体を求め、その度に私は辟易させられた。

 つまらない男。つまらないセックス。最初から大して好きでもなかった相手が、ますます好きになれなくなった。それでも彼の求めるままに身を開いたのは、興味があったから。それだけなんだと思う。

 一通り味見して興味がなくなれば、あとに残るものはなにもない。私は迷わず別れを切り出し、男はためらわずそれに応じた。

 私は処女を『捨てた』のだ。味のなくなったガムかなにかと同じように。


 そのことを後悔したのは、先輩に抱かれた時だった。


 あの日、あの部室──はじめて山田先輩と一つになった時、今まで味わったことのないような満足感が私を充たした。と同時に、私は悲しくて泣いた。いや、悲しいって言葉は適切じゃない。捨てた処女が惜しくて泣いたのでもない。自分の馬鹿さ加減に心底呆れてしまったのだ。

 こんな風に私のことを優しく、大事に、そして本気で求めてくれる人がいたのに、なんであんなつまらないセックスをしたんだろう?

 つまらなかったのは相手でもセックスでもなく、自分自身だったのに。


 いきなり泣き出した私を、先輩は優しく受け止めてくれた。わけも聞かずに、黙って私の頭を撫でてくれた。私を慰めようと、必死におどけてみせまでした。もしかすると、私が処女喪失の痛みに泣いていると思ったのかもしれない。

 とても本当のことは言えなかった。先輩の優しさに、余計に自分が情けなくなっただなんて。

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