表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
FarceMythos ー屠竜王大征ー  作者: 奏似
4章 終末の女王、開闢の王

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/26

4-6

闇の中で、ヴァスガルトは浅い悪夢のような感覚――暗闇の中で足場を失い、奈落へと落ちて行くようなそれ――を覚えていた。

それが夢でないと分かるのは、側でティレイが喧しく喚き立てているからだ。

「ヴァスガルト、どこ? いるんでしょ、返事なさい!」

側で、といったところでこの無明の闇の中では、見通しなど利くはずもない。とりあえず聞こえてくる声を頼りに、そちらの方に手を伸ばしてみる。と、手は意外なほど簡単に人肌の柔らかい感触を探り出していた。

が。

「ちょっと、どこ触ってんのよ!」

何やら穏やかでない場所を触ってしまったらしく、ティレイは力いっぱい彼の手をつねってきた。何も見えない以上は不可抗力だと思うのだが、それを言ったところで聞き入れてはくれないだろう。

「痛ー……お前なんか触ったって嬉かねーっての。――で、これはどういう状況なんだ?」

「多分、メルクドネアに向かっているのね。何もなければ、その内に視界も開けると思うけど」

つねられた辺りを擦りながら彼が尋ねると、ティレイは幾分不安げにそう応えた。多分? と聞き咎めたヴァスガルトが問いを繰り返す。

「今までにあたしがメルクドネアに連れていかれた時と同じだから。でも、状況は随分違うわよね。あたしもあんたも、今はメリーシャヤにとっては敵以外の何者でもないんだから。それですんなり拝謁を許してもらえると思う?」

「ん? あぁ、それは大丈夫だろ」

「……は?」

自らの懸念を軽く受け流されて、ティレイは間の抜けた表情で彼の顔を覗き込んだ。この闇の中でお互いの表情は窺い知れなかったが、今回ばかりはその方が彼女の為であっただろう。

「ラズモーヴがまだ残ってるからな。メリーシャヤにとっちゃ、あいつが俺用の駒なんだろうよ。生半な手が通じないってのも分かってるだろうし、何より、あの女はまだどっかで俺を屈服させることを企んでやがる」

およそ人生の全てをメリーシャヤの支配下で過ごしてきたティレイに向けて、ヴァスガルトは更に彼女の想像もしないことを言った。

この男は先の戦闘と合わせて二度ほどメリーシャヤと言葉を交わしたことがあるばかりのはずだ。だというのに、すでにかの魔女の本性を見抜いているというのか。長年、飼い殺しにされていただけの自分より、敵として対峙した彼の方がよく魔女を理解しているというのか。

その想像は、何故かティレイに嫉妬に似た感情を覚えさせていた。

「おお!」

しかし、情緒の欠片もない彼がそれに気付く訳もない。唐突に視界が開けたかと思うと、そこには壮麗な地下都市の景観が広がっていた。巨大な地下空間の天井をすり抜けたらしい2人は、変わらぬ速度でゆっくりと空中を降りてゆく。

眺めればそこは、白亜の聖都レイゼルクや廃墟となる以前の華の大都ヴァドステンと比べても全く遜色のない大都市であった。各々の区画は整然と整理され、放射状に幾筋も走った大路は眼下で真っ直ぐ伸びて一点に集結している。

一万の民衆さえ収まりそうな大広場。そしてその向こうには、それらの壮麗さの集約とも思える巨城がそびえていた。

しかし、近づくにつれ、都市は違和感を露にする。

「……無人?」

ここには、動くものの気配、生活の温かみというものが全く感じられないのである。よく手間のかけられた箱庭のような、うそ寒い景観……そう感じるのは、そこを照らす冷淡な魔光のせいばかりではあるまい。

「全く、って訳じゃないけどね。でもまあ外れじゃないわ。普通、生きた人間でメルクドネアに入ることを許されるのは、メリーシャヤが魔術士としての素養を見出した者だけらしいから。後は身の回りの世話をする骸骨がいるくらいだし」

「……そっか」

話が途切れる頃には、二人は大路の一つに降ろされていた。石畳を踏む感触に、奇妙な安堵を覚える。そこは場所としては城までどれほどの距離もない辺りのようだった。

迷いようのない一本道だというのに、道案内のつもりか、ラズモーヴが道の先からこちらを見返してきている。ふとヴァスガルトがそちらに一歩踏み出すと、死人はくるりと向こうを向いて、すたすたと歩いていってしまう。

「付いて来い、ってか」

にやり、と笑ってヴァスガルトもそれに続く。ラズモーヴや彼の歩調に合わせようとすると、小柄なティレイばかりは小走りにならねばならなかった。

それには構わず、歩きながらもヴァスガルトは住居と思われる左右の建物を覗き込むようにした。しかし、それらはまるで箱を彫り抜いたように戸枠窓枠が開いているだけで、実際には戸も窓も何も嵌められてはおらず、また中を覗いても人の姿どころか調度品の類さえ見ることは出来ない。

「からっぽ……だな」

「死者の都とかっていうのが一時期流行ったんだそうよ――災厄より前の時代にね。お偉いさんが死後の魂の拠り所として築いたものらしいんだけど、そんな道楽の為にここまでやるってのは、とっても正気の沙汰とは思えないわよね」

「んだな、死んだ後なんて興味もねーや。――って待て、災厄より前だと?」

災厄以前――正しくいうなら、災厄直後のこともそうだが――の歴史というのは、とうに失伝されたものだといわれている。というのにティレイはこともなげにその一端を覗かせたのである。ヴァスガルトが驚くのも無理からぬことではあろう。

「メルクドネアが出来たのは、て言っただけ。メリーシャヤがそうだとは言ってないわよ? ま、あれも普通よりはよっぽど長生きしてるんだろうけどね」

考えが筒抜けになっているかのように、ティレイは先んじて答えてしまう。悔しそうな表情を浮かべると、ふいとヴァスガルトはそっぽを向いてしまった。

会話が途絶えてしまえば、三人の足音の他には何の音もなく、耳鳴りが喧しく感じられるほどであった。会話を再開するのもばつが悪いというのか、彼は鼻歌を歌ったりわざと歩調を乱してみたりと一人でやっていたが、そのうちに彼らは大広場まで辿り着いていた。

「ようこそ、ヴァスガルト=ジュナ。直にお目にかかるのはこれが初めてのことになりますね」

大広間の奥、城門の前のところにその女は佇んでいた。メリーシャヤ=バレル。その柔らかな物腰からはとても想像のしようもないが、しかし彼女は間違いなく最強最悪の魔女であるはずだった。

ヴァスガルトとティレイは大広間の中ほどのところで足を止めたが、メリーシャヤに使役されるかつての覇者ラズモーヴは、そのまま進んで魔女の側に控えた。

「目の前にいるのが、本当に生身だってんならな。まあいいさ、後でたっぷり確かめてやる」

「まあ、それは楽しみだこと。けれど、それは勝者への褒美と致しましょう。かつての我が夫、ラズモーヴとの勝敗が決した後でじっくり、ということで」

どのような意味にとったものか、メリーシャヤは嫣然と口元に手を当てて笑った。

「へっ、褒美とはな。そーゆーのは犬にでもくれてやってくれや。俺はお前から施しを受けるつもりは毛ほどもないんでな」

鼻で笑って、ヴァスガルトも挑発で返す。魔女は表情を変えなかったが――しかし、代わりに前に出たラズモーヴのその行動は、如実に彼女の意思を示していた。

「魔女って割に、意外と短気だよな」

ぼそり、と振り返ってティレイに囁く。だが彼女が何か言い返すより先に、ヴァスガルトはもう前に進み出てしまっていた。

「さすがに余裕ですこと。竜の血の恩恵、ということかしら? けれど、それでは不公平ですからね……」

不可思議な言葉での詠唱、それは耳障りな響きであるが、しかし奇妙に韻を踏んだものでもあった。魔術――ヴァスガルトは身を固くするが、しかし何かを仕掛けられたという感触はない。

すらり、とラズモーヴが鞘から剣を抜き放つ。ただの鉄剣であったはずのそれは、今は不気味な青黒い光を刀身に宿していた。

「!――ヴァスガルト」

「――ああ、分かってる」

ティレイの警告を先んじて封じ、応じて彼も剣を抜き放つ。剣は冷めていて光を放つことはしなかったが、しかし、彼の体は先程のように再びほの白い燐光を放ち始めていた。

「そうそう、先に誤解を解いておこうと思うのですが」

と、新旧の王が間合いぎりぎりで対峙したところで、メルエーヴェが口を挟む。

「我が夫ラズモーヴは死んだ訳ではありませぬ。正しい儀式と仮初めの死によって人という種の限界か

ら解放された超越者……妾が命じればその通りの働きを見せますが、しかし活死体のように魂なき木偶と思われるのは些か心外ですのでね。

まあ、どうというほどのことでもないのですけれど――だから、あなたが息子を殺した、ということもしっかりと理解しているのですよ」

正に魔女の如く笑みを浮かべるメリーシャヤ。フォルティスのことを持ち出されて、怒気と動揺とを露にヴァスガルトが睨む――視線が僅かに逸れた一瞬、その機を逃さず、ラズモーヴは一息で間合いを詰めてきた。

下段からの斬り上げ――剣で受けていては間に合わない。咄嗟ながら、ヴァスガルトは石畳を蹴って後方に飛び退いていた。切っ先が浅く彼の腕を掠める。

「!」

鉄の硬度をもはるかに凌ぐ燐光の鎧を裂いて、切っ先は軌道を腕に赤く残していた。深い傷ではない。ただ、傷を負う、ということは彼には随分と久しい出来事であった。

血の滲み出る一筋の傷痕を、指でなぞる。しかし、ヴァスガルトの感情を占めたのは動揺ではなかった。歓喜。対等に戦える相手に、ようやく彼は巡り合ったのだ。

「さすがに、フォルティスの親父ってだけのことはあるな。面白え!」

感情と共に燐光をさらに昂ぶらせて、今度はヴァスガルトから攻める。一合、二合――初撃から渾身の力を篭めた剣勢を、しかしラズモーヴは危なげなく受け止めてしまう。

半端な膂力では逆に振り回されてしまうほどの重量の鉄剣を、ヴァスガルトは枯れ枝のように軽々と振り回している。常人が受ければ持ち手を砕かれかねないそれを受け止めているのだから、ラズモーヴの膂力とて尋常ではないのだろう。

双方、合を重ねる度に手傷の数も増していったが、しかしどちらも致命傷というほどのものはない。決定打に欠ける、というのが正直なところか。

仕組まれた剣舞の如く、剣戟は繰り返されてゆく。まず状況を変えてきたのは、ラズモーヴの方だった。

「フォルティスの仇――」

口の端から漏れたかすかな呟き。しかし研ぎ澄まされたヴァスガルトの感覚であればこそ、そのようなものでも容易に感じ取ってしまっていた。

振るわれる剣に、僅かな乱れが生じる。ラズモーヴはその一瞬を見逃さず、新王の剣の軌道を外へと弾き出していた。

虚を突かれて硬直するヴァスガルトの正に心臓をめがけて、切っ先が突き込まれようとしている。剣を手放したとて間に合いはしないだろう。青黒い光は確かに燐光の鎧を無力化している。勝敗は決したかのようだった。

否。

剣が燐光を裂いて彼の胸の上に乗ろうかという瞬間、切っ先から光が消失する。切っ先だけではない、次には刀身全てから光は消失してしまっていた。そうなってしまえば、竜鱗の硬度を得たヴァスガルトの肉体を前に、単なる鉄剣などにはもう意味は与えられない。

燐光に阻まれた突き込みなど構わず、次の瞬間には、大上段から振り下ろされたヴァスガルトの剣がラズモーヴを袈裟懸けに斬り伏せていた。両断とまではいかずとも、鳩尾の辺りまで深深と斬り裂かれては、致命傷であることは間違いなさそうであった。そう、彼が人間であったならば。

「――ティレイ!?」

だが、ヴァスガルトはラズモーヴの命数を測るより先に、振り返り彼女に呼びかけていた。

「全く、世話の焼ける男……驚いた? 杖がなくても魔術は使えるのよ」

少女は笑って言ったが、しかし余裕綽々とはいかなかった。顔は血の気が引いて蒼白となり、笑顔も取り繕いようもなく引きつっている。先までの様子とはうって変わって、死の影が覗けるかというほどにティレイは憔悴してしまっていた。

ヴァスガルトとて、ラズモーヴの剣にかけられた術を破ったのがティレイだというのは容易に想像がついた。がしかし、メリーシャヤの加護も魔術の媒介たる杖も失った彼女が正しい手順を踏めるはずもない、ということもまた想像できるのである。

その不安は的中していた。

「外法で妾の術を破るとはなかなかのもの。ティレイ、見直しましたわよ。――但し、利口とは言い難いけれども、ね」

メリーシャヤが、遠くから少女に憐憫の視線を送る。憔悴の故だろう、その言葉を聞く余裕さえなく、とうとうティレイはその場に膝をついてしまった。背中を激しく上下させて、苦しげに吐咳を繰り返す。

少女が口にしたとおり、魔女が常に杖を携えているからといって、それがなければ術を使えないという訳ではない。が、杖のあるなしが術士の負担を大きく左右する、というのもまた事実であり、今や敵対者となったメリーシャヤが憐れみを向ける程度には、ティレイの行為は正気の沙汰ではない。

第一に杖は魔力に干渉する為の媒介である。そして第二には、支配した魔力を増幅する役割も負う。だが、ティレイの憔悴はそればかりのことではない。

水盆から水を掬ったとて水面に穴が空かぬように、魔力もまた何処かに空隙が出来れば、自然とそれを埋めようとする働きが生じる。大掛かりな魔術を用いれば当然空隙もまた大きくなる。第三に、杖はこの逆凪から術士を守る働きを持つ。となれば、杖がなければ逆凪は直接術士に襲い掛かるのである。

今まさに、その苦痛がティレイを責め立てていた。

ラズモーヴの体から剣を引き抜き、慌てて駆け寄ろうとする。が。

「来ないで! まだ――」

「まだ終わってはいない。その子の言葉は正しいですわ」

ティレイの叫びを遮り、メリーシャヤの言葉が涼やかに響く。その時には、ヴァスガルトの無防備な背後から、ラズモーヴが彼を羽交い絞めにしてきていた。

肉骨を断ち、ヴァスガルトの剣は肩口から腰まで届いていたはずだった。背骨を断たれたとは思えない力に、新王は動きを封じられてしまっていた。

「人ではない、と先に申しましたでしょう? 甘く見るのは勝手ですが、手間をかけた甲斐もないというのでは拍子抜けもいいところ。……まぁ、所詮はこの程度、ということなのでしょうけれど」

背後を向けてしまって、魔女の姿は見えるはずもないが、しかし声は明らかに彼に近づいてきていた。ラズモーヴの拘束はさらに強まっていき、次第に呼吸すら覚束なくなる。燐光の鎧が効力を失うようなことがあれば、骨も肉も堪らず締め潰されるだろう。

「では、もう終わりに致しましょう。人に馴れぬ獣は縊られるが世の定め。……これだけの器を失うのは残念でなりませんけれども、それも仕方のないこと」

声が、すぐ耳元の辺りから聞こえてくる。吐息のかかる距離から、魔女がこちらに手を伸ばしてきているのが気配からでも分かる。ラズモーヴの拘束さえなければ、手の届く距離。ほっそりと冷たい指先が、両のこめかみに当てられる。

好機。恐らくは最初で最後の。

ずっと理性で抑え続けてきた声――禍々しい暴竜の衝動に、ヴァスガルトは今こそ身を委ねた。

燐光の鎧が、見る間にその色を変える。理性を象徴する凛然たる白から、暴虐の衝動を象徴する禍々しい赤に。

もはや、そこにヴァスガルトという個はなかった。在るのは、竜の巨躯から人の身へとその器を変えた、人竜とも呼ぶべき存在。

まずその暴力に晒されたのは、彼を羽交い絞めにするラズモーヴであった。鋭敏な感覚は確かに気配の変化を感じ取っていた。だが、しかしそれが行動に反映されるより先、人竜は羽交い絞めにされた下から死人の腕を掴んでいた。そのまま、抵抗する間も与えずにこれを毟り取る。

両腕を肩口から引き千切られて、反動でラズモーヴが背中からどうと倒れ込む。取り上げた腕を放り捨てると、もはやそれを顧みることはせず、振り返りざま空いた手を背後のメリーシャヤに向けて伸ばした。

「小癪な……!」

人竜の伸ばした手は、狙いを違えることなくメリーシャヤの頸部を捕らえていたが、しかしそれでも彼女はそう呟くことが出来ていた。何がしかの魔術で防いでいるのだろう、ラズモーヴの膂力を易々と上回ったその暴力に抗っている。

それでも、それを支えるのは所詮魔女の細身である。人竜の逞しい手指は、万力を締めるようにじわじわと魔女の首に喰い込んでいく。

「己を捨ててでも妾の首を獲ろうというのか。下らぬ。そのような企み、魂ごと打ち砕いてくれるわ!」

人竜は確かに魔女に圧迫を加え始めていたが、しかしまだ余裕は魔女の方にこそあるようだった。自らの首にかけられた野太い指には構わず、ヴァスガルトのこめかみに当てられた細い指に意識を向ける。

掠れた声で、詠唱が始まった。響きだけでも聞く者に不安を与える、禍々しい旋律。

危機に臨み、人竜が手に篭めた力を更に引き絞る。だが、ヴァスガルトという枷から解き放たれた際限ない暴力を以ってしても、魔女の不可視の盾を打ち破ることは容易ではなかった。

更に、更に内奥の力を引き出そうとする竜人のこめかみから、どろりとしたおぞましい感触が流れ込む。それは正に魂を蝕まれるような感触であった。

憤怒の渦のような激情の中に、やにわに虚無感が染み出してゆく。一瞬、指先から抜け出そうとした力を、人竜は歯も砕けんばかりに食いしばり、押し留める。

微動だにしない二人の間で、人為の及ばぬ超常の鬩ぎ合いが静かに交錯する。

どれほどの時間が流れたであろうか。もはや魔女の術も完成して、二人は彫像のように動かずにいる。

揺らいだのは、赤黒い燐光の鎧であった。人竜の口から放たれた悲鳴のような咆哮が、無人の地下都市に木霊する。

揺らぐと共に、光は衰え、掻き消えようとする。横たわるティレイの疲れと痛みで霞む瞳に、どうしてかメリーシャヤの喜悦に歪む口の端が確かに映った。だが。

ぼきり。

魂の底から搾り出したような――いや、実際そうだったのだろう――地下都市の隅まで届こうかという竜人の咆哮の中で、その鈍い音は重く低く響いて聞こえてきた。

人竜はそれでもなお力を篭めることを止めず、もはや抵抗をなくした魔女の細い首を、ついには力任せに締め千切ってしまった。

メリーシャヤの首が、打ち捨てられたラズモーヴの腕や胴と同じ高さに落ちて転がる。その静けさが戦いの終わりであると、一部始終を見守っていたティレイでさえ、その現実を受け入れるまでには長い時間を要した。

頭部を失った体は、落ちた頭に引きずられるようにくずおれていった。呆然と眺めるティレイの視界は再び朦朧とし、燐光の赤に染まっていった。

緊張が解けたか、意識が失われていくのが分かる。

暗くなってゆく視界の中で、燐光は再び色を変えつつあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ