前編
本話は第三話になります。
人生とはままならないものと、人は言う。
それはどんな人間にも当てはまることだ。
優秀とか無能とかは一切関係ない。運がいいか悪いかそれだけ。何かのはずみで、未来予測なんてものは簡単に覆るんだ。
僕は今、正にそれをありありと実感している。
「ここが隊長のオフィスになります」
僕より年下の従卒君に案内されて、新しい仕事部屋へとたどり着く。
随分と立派な部屋だ。
少なくとも僕の部屋よりもご立派。
大きなデスクに、専用の端末。壁には巨大なディスプレーが備え付けられ、部屋の片隅には僕の背丈ほどの観葉植物がデデンと鎮座している。
こいつがここの主なんじゃないか?
僕はしがない間借り人か。片隅で大人しくしておこう。
そんなことを考えながら、天然革の肘掛椅子に腰を下ろす。
「御用があれば、いつでもお呼びください」
従卒君は敬礼をして部屋のドアを閉めた。
それを見計らったかのように、大きなため息が僕から逃げたしていく。
「どうしてこんなことに・・・」
僕は、磨き上げられた巨大なデスクに頭を預けた。
僕は半年ほど前に中立国に赴いて、敵であるはずの帝国軍と合同で、麻薬捜査にかかわる会議に参加した。
そこで僕は、ゲームにも登場する優秀な帝国軍人に情報を流した。それがきっかけとなり会議は成功。どちらにとっても有意義な結果となった。
なったはずだ。
うん。自信がある。
課長には褒められたし、同僚たちも肩を叩いて称賛してくれた。ついでのように階級も上がった。
こっちは余計だったけどね。
だから言いたい。
僕は共和国に、少なくとも情報部には貢献していたはずなんだ。
結果を出したはずなんだ。
どう見ても役に立っただろうがよ。
それなのにそれなのにだ。
二畳一間の住み慣れた情報部のブースを追い出され、憲兵隊なんかに配属されてしまった。
遠回しに、婉曲に、角が立たないように、何度も「嫌だ」と上申したけど結果は覆らず。哀れ、憲兵隊へと送られてしまった。
今、思い出しても腹立たしい。
いや、落ち着け僕。短気は損気だよって、おばあちゃんも言っていた。
怒りに身を任せると、いつもの発作が起きてしまう。
それから三か月ほどの間、憲兵隊の訓練やらなんやらを受けされられた。
刑法とか、組織図とか、逮捕術とか、前任者との引継ぎとか色々だ。
憲兵隊とは軍隊の中の警察官のこと。いわばお巡りさんだ。
これだけ聞けば、悪くはない立場に思える。
だけど、実際に軍に入ったら分かるけど、奴らはそんな可愛いもんじゃない。
最前線だろうか後方地帯だろうか関係なく、僕たち兵隊の行動に目を光らせるのが憲兵隊。
同じ仲間の軍人を取り締まるのが奴らのお仕事なんだ。
いや、今では僕のお仕事か。
とにかく憲兵隊ってのは、軍人なら例外なく煙たい存在だよ。
品行方正を地で行く僕だってそうなんだから。
士官学校時代は、飲酒やら乱闘騒ぎやらで何度かとっつかまったものさ。
レスラーのような憲兵に腕をひねり上げられ、顔を床に押し付けられたときは、呼吸が出来ずマジで死ぬかと思ったよ。
その節は大変お世話になりました。
そんな憲兵隊に配属され、僕は意気消沈だ。
意気消沈の理由は、それだけじゃない。
当初、僕は配置換えの理由を、麻薬捜査がらみだとにらんでいた。
なぜなら、帝国内の麻薬の流通に関して、情報収集していたのは僕だからね。
その知識や経験を、今度は共和国内での麻薬取り締まりに生かせとのご用命だと勝手に思い込んでいた。
だから憲兵隊に配属だけなら、ギリギリ我慢できたかもしれない。
ギリギリお役に立てるかもしれないからね。
しかしだ。配属されたのは警備部。
あれれ。おっかしいぞ。
警備部ってのは、偉いさんの警護をしたり、集団で暴れる不良軍人たちを力ずくで取り締まったりする部署だ。
なんてこったい。麻薬、何の関係もないじゃん。
これ、僕である必要あるのか。
自慢じゃないけど、腕っぷしに関しては全然お役に立てないよ。
しかも聞いて驚け、部下の憲兵の総数は千人。
あり得ないでしょ。
僕は情報部で、一番の下っ端だったんだぞ。
部下なんて一人もいなかった僕に、いきなり千人の部下って。ほんと、どうすればいいんだ。訳わかんないよ。
不適材不適所のいい見本さ。共和国軍ってのは、本当は馬鹿なのかもしれない。
このままだと帝国軍に負けちゃうよ。
混乱し憤る僕は、前任者の少佐殿が教えてくれた憲兵隊の隊長の流儀を思い返す。
「スープン少佐。貴官は特別な事は何もしなくてもいい。上がってきた報告に目を通し、書類にサインをする。週に一度の会議に出席して、人の意見にもっともらしく頷く。現場の事は部下に任せておけ。彼らに逆らわなければ、隊長なんてものはそれほど難しいものではない」と。
本当かよとは思ったけど、前任者の経験談だ。
それに、右も左も分からないド素人が、偉そうに口出ししたら、誰も幸せにならない事だけは確実だよね。
僕は余計なことは何もしないと、ピカピカのデスクに誓った。
こうして憲兵隊でのお仕事が始まった。
始まったはいいけど、隊長に赴任して二か月。
大きな試練に直面していた。
この試練は中々に手強い。
「暇だなぁ~」
僕は部屋の主である、観葉植物に向かって語り掛ける。
警備部の隊長ってのは本当に暇な役職だった。
一日一回上がってくる報告書に目を通してサインをする。週一の会議に出席して、僕以外の意見で決められた事柄を、部下の皆さんに通達して終わり。
細々(こまごま)としたことは全て、僕よりはるかに優秀なスタッフがやってくれるんだ。
実働部隊の指揮だって、班長という名の実質的な部隊長がいるから、門外漢の僕に出る幕はない。
予想以上に本当のお飾り隊長職だった。
あまりに暇だから、刑法とか軍紀とか軍の組織図とかのテキストばかり読んで、長い一日を過ごしている。これを一年ほど続ければ、司法試験にも合格できるかもしれないよ。
「暇で困ったことは無い」とかいう奴もいるらしいけど、それはプライベートのお話だろう。
勤務時間の間は程よく忙しい方が、断然いいに決まっている。
うまい具合に一日が終わるからね。
こんなところで一日を無為に過ごすぐらいなら、情報部で終わらない砂金拾いをしている方が、よほどに有意義だったよ。
ああ、今日も無駄に一日が過ぎ去っていく。
やっぱり僕は僕が思っていたよりも、働き者なのかもしれない。
やがて暇を持て余した僕は、射撃訓練場に入り浸るようになった。
机とにらめっこをするよりも、体を動かしていたほうが、精神健康面でもよさそうだからね。
憲兵隊専用の施設もあるんだけど、なんとなく居場所が無くて、結局、情報部時代から使っているいつもの訓練所を使う。
ここの利用者は事務屋が主だから、いつ来てもガラガラで気に入っているんだ。
バシュ。
電磁ガンから飛び出した訓練弾は、狙い通りに着弾した。
僕は西部劇のガンマンのように、電磁ガンをクルクルとまわしてホルスターに収める。
ピタッと嵌るその感覚に、満足を覚えるんだ。
この電磁ガンは僕の私物。
私物の武器と言えば危険な香りがするかもしれないけど、これは珍しいことじゃない。
どういう訳か知らないが、共和国軍では士官より上の階級の軍人は、軍服やけん銃などの個人装備は、自腹で購入しなくてはならないんだ。
どうしてなんだよ。
僕にも官給品をくれよ。ちゃんと税金を納めてるんだぞ。
腹は立つけど、みんな同じだと文句も言えない。それに、少佐の給料は中々の額だ。個人装備ぐらいなら自腹で払える。
でも、これは僕が気楽な独身貴族だから言えること。
所帯持ちの少佐殿は大変だろうな。
とにかく、自腹購入という欠点はあるものの、士官の個人装備はアレンジが許されている。一度、滅茶苦茶オシャレな軍帽をかぶっている士官とすれ違ったことがある。
あんな帽子、どこで売っているんだ。
僕は自分の身に着けるものにこだわりの少ない男だが、この電磁ガンだけは別だった。士官御用達の銃砲店で特注品を発注したんだ。
僕の電磁ガンは見た目からして違う。いや、正しくは見た目だけが違う。中身は普通の電磁ガン。
見た目だけが、S&W M29 マグナム44を模している。
発注元への形状の説明には苦労したものさ。
この銃は、前世の僕が大好きだった古い映画の主人公が使っていた。
これを腰のホルスターから抜いて、肘を曲げたまま撃つとカッコいいんだ。
本物の44でやったら、強烈な反動で弾が明後日の方向に飛んでいくけど、こいつは電磁ガン。宇宙空間でも撃てるほど反動は少ないしろもので、映画のワンシーンも完全再現という訳さ。
僕はひとしきり射撃訓練に興じた。
士官学校時代から、いや、前世から僕は射撃に関してだけは得意と言えた。
実戦では物の役には立たないだろうけど。
何セット目の射撃か覚えていないけど、突然近くで歓声が上がる。
何事かと覗いてみると、4~5人のごつい男たちが、同数程度の女性士官に絡んでいるが目に映った。
ここは事務屋専用みたいなところがあるから女性士官は珍しくないのだけど、あんなごつい兄ちゃんたちは珍しい。
どう見ても実戦部隊の連中だ。もしかしたら陸戦隊所属なのかもしれない。
射撃訓練場でナンパなどと、うらやまけしからん連中だ。
まぁ、僕には関係ないけどね。
そう思って44を構えなおすと、聞き覚えのある声が耳に入る。
気になって、つい視線を送ると、声の正体はグリーンウッド中尉だった。
中尉は言い寄る兄ちゃんたちを追っ払おうとしているようだ。
美人というのも、あれでなかなか大変な生き方のようだ。
うーん。しかしながら困ったぞ。
僕は考える。
相手の都合も考えずに、一方的に女性士官に言い寄る行為は軍の規律で禁止されている。性犯罪につながりかねないから当然だよね。
それはいい。
では、誰が実際の軍紀違反を取り締まるのか。
はい。そうです。憲兵ですよね。
そして悲しいかな僕は憲兵。
目の前で軍紀違反をされると、立場上無視するわけにもいかない。
だからといって、迂闊に間に入るのも考え物だ。
中尉のあの態度は、プレイの可能性も否定できない。
嫌よ嫌よも好きの内。
可愛い女性にとっては、男に言い寄られることだって日常風景。
中尉がそういうプレイを兄ちゃんたちと楽しんでいるのなら、見なかったことにしてあげるのも優しさかもしれない。
出しゃばって、男女の楽しいじゃれ合いに水を差すのもいかがなものか。そのような野暮な真似は差し控えるべきだろう。
天敵とは言え一応は同窓生なんだし。
僕はしばらく考えて結論を出した。
よし。ここは、温かく見守ることにしよう。
パチン。
僕の決心と同時に、軽妙かつ乾いた音が訓練所に鳴り響く。
男の一人と言い合いにでもなったのか、中尉が男の横っ面をひっぱたいた音だった。
僕は思わず、口をあんぐり開けてしまった。
なんて喧嘩っ早い女なんだ。いきなりひっぱたく奴があるか。僕の思いやりを返せ。
しかもこれは完全にアウトだ。
僕はため息をつくしかなかった。
お仕事のお時間です。
「はい。はい。双方そこまででお願いします」
僕は仕方なしに、その集団に割って入る。
「スープン大尉・・・失礼しました少佐殿」
グーンウッド中尉が両目を大きく開いた。
「中尉。ひっぱたいちゃダメだよ。それともこれは、そういうプレイなのかい。それなら直ちに退散するけど」
「違います」
中尉の耳が一瞬で赤くなる。
ヤバい。怒らせちまったか。
「ここは、公共の場なので皆さんお静かに願います」
僕は中尉から目をそらし、女性士官や陸戦隊と思しき連中に一般論を宣う。
「憲兵」
男たちは僕の右腕に巻かれた憲兵の腕章を認め、実に嫌そうな声色を出した。
気持ちは分かる。
「そうだよ。憲兵だよ。頼むから騒ぎは起こさないでくれ。全員をしょっ引くなんて真似は、小官も望んでいないからね。男女のキャッキャウフフは、小官の見ていないところでお願いしたい」
「だから違います」
僕は中尉の抗議の声を聞き流す。
「なら良かった。はい。解散。お疲れさまでした」
パチンと手を叩くと、女性士官たちはそそくさとその場を後にする。
いや、何事もなく事が収まってよかった。
どうして僕が風紀委員みたいなことをしなくてはいけないのかについては、グリーンウッド中尉のせいということにしておこう。
僕がそう結論付けたのに、立ち去らないものがいる。
陸戦隊の連中と、グリーンウッド中尉。
解散と言ったでしょうが。
部署は違えど一応、上官なんだけどな。
仕方がないので、僕は何か言いたそうな顔を隠さない中尉の機先を制することにした。
「中尉。何を言われたのかは知らないけれど、暴力は駄目だよ。もし、彼らが訴えたら僕は君を取り調べなきゃならない」
グリーンウッド中尉を取り調べ・・・
個室で二人っきり。
何だか、Hな響きがするのは気のせいか。
「幸い、こちらのお兄さんたちも貴官を訴えたりはしないだろう。だからはい。ごめんなさい」
僕は陸戦隊の面々に向かって頭を下げた。
僕には彼らに対して頭を下げる理由はないけれど、こうでもしないと話が進まないだろう。
案の定、僕の様子を見た中尉は、同じように謝罪をする。
渋々といった態ではあったけどね。
「はい。これで万事解決。何もなかった。めでたしめでたし」
よし。一仕事終えた。帰って部屋の主にこの事を話そう。そうしよう。
「憲兵の少佐殿」
立ち去ろうとする僕を陸戦隊のリーダー格の男が呼び止めた。
ダッシュで逃げろと僕の第六感がささやくが、立場上そうもいかない。
「もしよろしければ、小官たちの訓練に付き合っていただきたい」
嫌々振り向いた僕に向かって、中尉の階級章を付けた男が凄んできた。
あっ、これは修正案件ですか。
軍隊特有の風習であるところの修正ですか。軍隊格闘技のマーシャルアーツでぶっ飛ばされるんですね。
これだから軍隊ってやつは。
僕は全力で拒否することにした。
「いや、遠慮しておくよ。小官はひ弱な事務屋だから貴官らの相手は務まらない。腕相撲ですら骨折事案だ」
「射撃訓練であれば体格は関係ありません。少佐殿も射撃の訓練にいらしたのでしょう。お時間は取らせません」
ぐぬぬ。
射撃訓練に来たと言われたら、その通りとしか言えない。
僕の射撃ブースには、多数の弾丸とマグナム44が転がっているんだから。
「・・・射撃訓練であれば」
「決まりです。おい」
中尉は部下に向かって顎をしゃくると、彼らは喜んで準備に取り掛かる。
まぁ、射撃訓練ぐらいならいいか。
的に向かって何発命中するかの勝負だろうし、僕がいくら射撃が得意だっと言っても、実戦経験がある猛者たちには敵う訳もない。
僕をコテンパンに出来たら、彼らも留飲を下げることができるだろう。
これぐらいで済むのなら、付き合ってもいいかなとか考えたのさ。
結果としてこれは大間違いであった。
彼らの言う射撃訓練とは、電磁ガンを訓練モードにしての撃ちあい。
屋内フィールドでの実戦形式で、お互いに向かって訓練弾を発射する代物であった。
低出力の訓練モード、かつ樹脂製の弾丸とは言えども当たると滅茶苦茶痛い。軍服の上からでも痣ができるほどの威力はある。
おいおい待ってくれ。
これって、完全にサバゲーだよね。
士官学校以来だよ。
ルールは陸戦隊の中尉との一対一、武器もハンドガン縛り。
僕対多数だったり、大型の突撃銃でも持ち出されたら文句のつけようもあるんだけど、ルールはフェアそのもの。
でもでも、実力差は雲泥ですよね。
ここまでお膳立てされては今更嫌だとも言い出せず、顔面などの急所だけを覆った簡易的なプロテクターを装着した。
僕を哀れに思ったのか、グリーンウッド中尉が陸戦隊の中尉に抗議したけど、結果は覆らず、いざ尋常に勝負と相成った
一体全体、どこで選択肢を間違えたのだろう。
暇つぶしに射撃訓練をしようと思ったことか、それとも憲兵隊が使っている訓練所を避けた報いか、はたまた気の短い同窓生に助け舟を出そうとしたことなのか。声を掛けられたときに、恥も外聞もなく走って逃げなかったためなのか。
うーん。すべての選択肢で失敗している気がしてならない。
訓練に負けるのは構わないのだけど、一方的に弾丸の雨を食らうことだけは避けたい。やられるにしても一矢報いたいものだ。
そんなことを考え44を握りしめながらフィールド内を走ると、出会い頭に相手と鉢合わせした。
向こうは遮蔽物を巧みに利用して被弾面積を最低限にしている。一方僕は呑気に壁に張り付いているだけ。勝敗は明らかだ。
それでも反射的に体が動いて弾丸を発射。
撃ったのとほぼ同時に僕の左腕に衝撃が走った。
流石は実戦経験者。あの一瞬での初弾を当ててくるか。
僕は痛みの走る左腕を抑えうずくまる。
相手には変化がなく、ダメージがない模様。
いい線行ったと思ったけど、僕の弾丸は外れたみたいだ。
これは僕の負けだな。
分かってはいたけど、少しだけ悔しい。
『勝者。スープン少佐』
機械音声が僕の勝利を告げた。
あれ。僕の勝ちなのか。
怪訝な思いで立ち上がると、相手の顔面のプロテクターには白い弾痕がくっきりと付いていた。
どうやら僕の弾は相手の眉間を貫いたようだ。
ラッキーショットってやつだね。
「参りました。少佐殿。大した腕前です」
プロテクターを脱ぎ捨てた中尉が、いい笑顔で褒めてくれた。
「運が良かっただけだよ。実戦ではこうはいかないだろう」
「ですな・・・お名前をうかがっても。自分はブルーリボン連隊のカール・ヴェルキス中尉であります」
「ブルーリボン連隊・・・道理で手強いわけだ。僕は憲兵隊警備部少佐。アンドレア・スープンだ」
僕は改めて中尉の階級章に注目する。
胸元には青い横線が三本。ブルーリボン連隊の記章に間違いなかった。
ブルーリボン連隊は共和国軍の中でも、特殊な連隊として知られている。
敵国である帝国からの亡命者が、共和国での市民権を得るために軍役につくことが多いのだが、その元帝国民だけを集めて結成された陸戦隊がブルーリボン連隊。
その勇猛果敢さから、レッドリボン連隊と双璧として語られる精鋭部隊だ。ゲームの中でも特殊スキルてんこ盛りの部隊だったなぁ。
僕が勝てたのは本当に運が良かっただけだな。
ヴェルキス中尉と室内フィールドから出てくると、驚くべきことにグリーンウッド中尉が僕を待っていた。
「少佐殿。大丈夫ですか。中尉から不当な扱いは受けませんでしたか」
「大丈夫だよ。腕に一発食らっただけだから」
「腕に。見せてください」
グリーンウッド中尉が無言でどちらの腕かを聞いてくる。
想像以上に心配されていたようで、何とも言えない気恥ずかしさが先だって、僕は強がるしかなかった。
「いや、本当に大丈夫。鎮痛スプレーも吹きかけたから痛みも薄まった」
「本当ですか」
尚も疑う中尉に向かって僕は左腕をまわして見せた。
なかなかの痛みが走ったが、そこは我慢するしかないだろう。
「ほら、大丈夫だろう」
「・・・いいでしょう。でっ」
「・・・でっ? とは」
「訓練の勝敗です」
中尉は何を馬鹿なことをと目を細めた。
「言わないとだめなのかい」
「当然です」
僕と彼女の当然の間には長い距離がありそうだ。
「スープン少佐殿の勝利だ。グリーンウッド中尉。小官は少佐殿の左腕を吹き飛ばしはしたが、代わりに眉間を撃ち抜かれた。これが実弾なら小官は即死だ」
笑いながらヴェルキス中尉が説明してくれた。
「では、小官はこれで。グリーンウッド中尉にも迷惑をかけたことを謝罪しよう」
そう言い残すと、ヴェルキス中尉は部下たちを引き連れて立ち去った。
なんだ。思ったよりいい人じゃないか。
あの調子なら僕が心配する必要もなかったな。悪いことをしたかな。
いや、グリーンウッド中尉が先に手を出したんだった。悪いのはこっちだったわ。彼女ってこんなキャラだっけ。もっとおしとやかなイメージが・・・
「スープン少佐。今、お時間よろしいでしょうか」
考え込んでいると、恐る恐るといった態で中尉が訊ねてきた。
今日は珍しいことのオンパレードだ。こんな様子の中尉は初めて見る。
「別に構わないけど、なにか」
「立ち話では少し・・・座れる場所へ行きましょう」
そう告げると、スタスタと歩きだす。
僕がついてくることを一切疑っていない歩調だった。
いや、まぁ、付いていくんですけどね。
何だか僕が連行されている気分になるんだが、これも被害妄想なのかな。
続く
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
本作は基本的に短編ですが、長くなったので二部構成とさせていただきました。
ネタが危険すぎるので年に一回程度の更新でやっとります。
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