攻撃
厚さと硬さを意識して顕在化させた魔力板「盾」は30分程で消えてしまった。その間にオークとの戦闘は二回。砕けることなく、盾としての役割を全うした。
二階堂も「盾」の存在をちゃんと意識出来ているようで、防御よりも攻撃に重点を置いた立ち回りになっている。
そして三度目の戦闘を前に俺はある実験を行おうとしていた。
魔力板はイメージ次第で分厚くすることが出来た。ならば──薄く鋭くすることも出来るのではないか……!?
俺はステータスウィンドウを開き、「魔力板:3回」の表示を睨みつける。残り回数は少ない。集中して魔力板「刃」を顕在化するんだ。
薄く薄く。鋭く鋭く。
俺は透明なカミソリをイメージしながら、「魔力板:3回」の文字をグッとタップした。
「よしっ!」
現れた魔力板は髪の毛一本分もないような薄さだ。エッジの部分を指の爪で触れると、なんの抵抗もなく簡単に切れてしまった。これは想像以上の鋭さだ。
「……な?」
「触るな!」
無造作に「刃」に触れようとする二階堂を止める。何故か興味深々なようで宙に浮く「刃」に手を伸ばしている。
「駄目だよ。下手に触ると指が取れちゃうから。指が取れたら商品整理が出来なくなるぞ?」
「……わ、かた」
渋々といった様子で二階堂は了承する。
「次、オークが出て来たら俺がやってみる。二階堂は後ろで見ていてくれ」
「……うん」
初めて先頭に立ってダンジョンを歩く。急に心拍数が上がった。
慌てるな。落ち着け。まだ何も始まっていない。
慎重に、ゆっくりだ。
そう自分に言い聞かせながら、未だ一本道のダンジョンを進む。そして、十分が経過した頃だ。
ドスドスと地面を踏み締める音。それは近寄ってくる。
俺は「刃」を地面と水平にして構えた。
「ブモォォォ!」
オークが姿を現した。棍棒を振り上げ、こちらに向かって走り出す。
怖い! 敵意が全て俺に向けられている。身体が急に強張って上手く動かない……。しかし、俺には「刃」がある。
「いけぇぇぇ!!」
──斬ッ!
オークの体は止まらずこちらに向かってくる。しかし、首から上は置いてけぼりだ。魔力板「刃」は見事に首元に決まり、驚きの表情を浮かべたオークの生首がクルクルと宙を舞っている。
コントロールの効かなくなった体は足を絡ませて地面に転がった。そして生首も落ちてくる。
「やった……」
安堵の息を吐くと、オークの体は煙になって飴玉を残した。それを拾い上げて振り返ると、二階堂がすぐ側まで来ていた。
「どうだった?」
返事の代わりに、ポンと肩を叩かれた。
『クエスト【女ゾンビの前で格好をつける】をクリアしました!! 報酬として経験値4000を獲得!!』
ちょっと待ってくれ! 別に俺は格好をつけたわけじゃないぞ!!
「……あ、あめ」
脳内の声に突っ込みを入れていると、二階堂が俺の手にあるオーク飴を物欲しそうに見ていた。なんなら、少し手が伸びている。
「欲しいの?」
「……ほ!」
欲しいらしい。
「なら、あげるよ」
オーク飴を摘んで二階堂の前に差し出すと、パクリと俺の指ごと口に含んで嬉しそうにする。
『クエスト【女ゾンビに指を舐めさせる】をクリアしました!! 報酬として経験値4000を獲得!!』
いやいやいや! 舐めさせてない!! これは不可抗力だから!! いきなり口で迎えにくるなんて思わないでしょ!!
どんだけ俺が抗議したところで、クエストシステムは応えない。絶対にわざとやってるだろ、このクソシステムめ!!
すっかり脱力してステータスを確認すると、レベルが一つ上がって4になっていた。