無属性魔法
状況を整理しよう。ゾンビの村田に金のネックレスを贈ったら、スキルが生えた……? いや、違うな。クエストのクリア報酬は経験値だったし、レベルも上がっていない。となると──。
「本かぁ……」
「ほ、ほん……?」
村田が注文されたと勘違いして鍋をかき混ぜる始める。
「ごめんごめん。こっちの話だ。それにおでんの具に本はないだろ?」
「……」
「ないよな?」
「……いま、ない」
過去はあったのか……!? まぁいい。今はそれより無属性魔法だ。
中空に表示されたステータスの【無属性魔法】を指で触れる。そうすると新しいウィンドウが開いた。
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【無属性魔法】レベル1
魔力板:5回
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……地味だ。地味過ぎる。魔力板ってただの板が出るだけだろ? もしかして、外れスキルなのか! しかし、使い続けてレベルが上がればもしかすると、別の魔法を覚えるかもしれない。
「魔法ってどうやって使うか知ってるか?」
「ま、まほう?」
「そう。魔法だ。村田は使えるか?」
「……」
下を向いて黙り込んでしまった。なんだか申し訳ない気分だ。
「すまん。俺が悪かった」
「……う、うん」
悲しそうな顔をして鍋を混ぜている。気まずいな。
「じゃ、行くから」
俺はポケットから千円札を出してカウンターに置き、おでんの村田を後にした。
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「魔力板!」
……何も起きない。本域で声を出したのに……。
俺は御徒町駅近くの誰もいない広場で魔法の練習をしていた。何度も「魔力板」と唱えているが、一向に魔法が発動する様子はない。
これはやり方自体が間違っているのか? それとも俺の中に魔力がないから発動しないのか? しかし、ステータスの中には「魔力板:5回」と書かれてあった。
もし、魔力が足りないなら回数は「0」となるのでは? となるとやはり、やり方が間違っている? それとも、実は見えていないだけで魔法は成功していて、魔力板はこの辺に転がっているのか?
「……うーん。ステータスオープン」
何かヒントはないかとステータスを開く。
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【無属性魔法】レベル1
魔力板:5回
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魔力板の回数は5のままだ。やはり発動していない。一体、どうすれば魔法を使えるんだ? 焦りを感じながら、「魔力板:5回」の文字を指で強く擦る。
──シュ! と目の前に現れたのは透明な板だった。サイズはアイロン台ぐらい。光を反射しているので、かろうじて認識することができる。
「……まさか。コマンド選択肢だったとは……」
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【無属性魔法】レベル1
魔力板:4回
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しっかりと魔力板の回数は減っている。毎回ステータス画面から発動するのは少々面倒くさいが、呪文を唱えなくて済むのはありがたい。
一度発動した魔力板はなかなか消えない。そして意識すると自在に動かすことが出来る。使い方によっては盾にも矛にもなりそうだ。
「いけっ!」
魔力板は五メートル先まで飛んでいき、ピタリと止まった。最大リーチは半径五メートルか。十分だな。
「後は強度次第か」
現在の魔力板は厚さ二センチほどだ。この状態でどれくらいの強度があるのか。一発で壊れるようでは盾としては使えない。
「ダンジョンで試してみるか」
とはいえ、一人でダンジョンはまだ無理だ。俺はパーティーメンバーを得るため、二階堂スポーツを目指した。