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6/12

 ダンジョンから出た頃はちょうどマジックアワーで、空は茜色のグラデーションで彩られていた。


 突然目の前に広がった光景に心奪われていると、いつの間にか二階堂はいなくなっている。


 やはりそのあたりはゾンビ。スタスタと自分の店に戻ってしまったのだろう。


 俺は『おでんの村田』で夕食──またオーク大根──を食べ、寝床を探すことにした。街灯は煌々としていて、上野駅周辺は夜中でも灯りの心配はなさそうだったけれど、やはり屋根のあるところで寝たい。



 ぐるぐると街を歩き回り、俺が寝床と定めたのはネットカフェだった。


 フロントには唸るだけのゾンビが立っていて、ほとんど動かない。他の店員ゾンビは店内をぐるぐる回っているだけで、それ以外は何もしない。


 俺はそんなネットカフェの一室に陣取って住居とすることにした。うろつくゾンビが少々気になるが、漫画にシャワー完備の環境は捨てられない。個室は鍵が掛かるし、問題ないだろう。


 フラットタイプの個室に寝転がり、今日の出来事を思い出す。


「色々あったなぁ……」


 コールドスリープから目覚めたのが随分と昔に感じてしまう。それほどまでに濃厚な一日だった。


「で、この本は何だろ?」


 路面店から拝借したリュックから、例の本を取り出す。


 仰向けになりながら本を読もうと試みるが、どうにも開かない。


「まぁ、色々と試すのは明日だな」


 俺はダンジョンで手に入れた本を枕代わりにし、ゆっくりと瞼を閉じた。



#



 ……ガチャ。ガチャ。


 個室のドアレバーの音で目が覚めた。どうやら外でゾンビが触っているらしい。


「入ってますよー」


 ドアの近くまで顔を寄せてそう言うと、ゾンビが遠ざかっていく気配があった。


 今、何時だろう?


 PCは壊れて起動しないし、テレビをつけても砂嵐だ。正確な時間は分からない。ただ、しっかり眠れたようでとても体調がよい。もしかするとレベルアップの恩恵もあるのかもしれない。


 そんなことを考えていると、グウウゥゥゥと地の底から響くような音がする。俺から。


「……腹減ったぁ」


 さて、朝食はパン派なのだがこの街でパンは食べられそうにない。


「……結局、おでんしかないかなぁ」


 俺は諦めて立ち上がり、鍵を開けて個室の外に出た。



#



 早朝にもかかわらず『おでんの村田』は営業していた。村田は働き者である。


「おはよう。村田」


「……お、おはらっしゃい」


「おはようと、いらっしゃいが混ざってるぞ」


 村田は灰色の肌を少しだけ赤く染め、スキンヘッドの頭をポリポリとかく。そしてもう一度挑戦する。


「お、おはよ。しゃい」


「うーん。合格!」


 そういうと村田は嬉しそうにしてから鍋を弄る。


「……ご、ごちゅ。もんは?」


「お任せで」


 下手に注文するとダンジョンまで食材を採りに行きかねない。ここは村田チョイスに任せよう。


「……だ、大根。……たまご。……ウィンナー」


 昨日と全く同じメニューだ。しかし、文句は言うまい。食べられるだけで幸せなのだ。このゾンビだらけの世界で。


 カウンター越しに差し出された皿と箸を受け取り、立ったまま朝食──おでん──を食す。空腹は最高のスパイス。


「うっま」


「……へへ」


 頭をポリポリ掻きながら、村田は俺の首元をじっと見ている。


「ネックレスが気になるのか?」


 時計屋から拝借した金のネックレスのことだ。


「……」


 村田は物欲しそうな視線をやめない。


「ほら、やるよ」


 ネックレスを外してカウンターに置くと、村田は恐る恐るそれを手に取る。


『クエスト【ゾンビに贈り物をする】をクリアしました!! 報酬として経験値4000獲得!!』


 ……クエストをクリアしてしまった。村田の心を利用したような気がしてなんだか申し訳ない。しかし、ステータスは気になる。レベルは上がったか?


「ステータスオープン!」


---------------------------

 名前 :三間健一

 レベル:3

 スキル:無属性魔法

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 ……スキルが生えていた。

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