宝箱
十回目のオークとの戦闘を終えた後だった。
二階堂はオークの死体が煙になるのも待たずに小走りになり、脇道へと入っていく。まさか──トイレ? ゾンビも排泄をするのか? ちょっと気を遣うなぁ……。
流石に気が引けるので脇道には入らずにじっと待つ。
「……暇だ」
こんな時はステータスの確認に限る。自分の成長が数字になるのは気持ちがいい。
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名前 :三間健一
レベル:3
スキル:なし
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はい。レベルは3のままです。ゾンビ達を見ていると多分戦闘によっても経験値はたまるのだろうけれど、クエスト報酬に比べると効率が悪そうだ。
クエストの基準は分からないが、ちょっとしたことで簡単にクリア扱いになるし、報酬で経験値もドンと入る。早期のレベルアップを目指すならやはりクエストクリアを狙うのが正しい。
クエストの内容が不明なのが痛いところだが、これまでの経験でなんとなく流れが掴めている。
「……ゾンビと仲良くすれば、クエストクリアに繋がる」
今までの四回のクエストクリアは全て、ゾンビが関係している。それも、ゾンビとの親密度を高めるような内容ばかりだ。
どうやら、この世界のクエストシステムは俺とゾンビ達の仲を取り持ちたいらしい。
「しかし、遅い……」
もうかれこれ十五分は待っている。両腕の高級腕時計の針は止まっているけれど、体感ではそれぐらいだ。流石に心配になってくる。
俺は忍び足で脇道まで進み、壁に背を当てる。そして呼吸を整え、ゆっくりゆっくりと首を伸ばすと──。
「あ、あい、あいた」
二階堂が宝箱の前に座り、鍵穴をグリグリ弄っていた。「開いた」と言っているから、解錠に成功したのかもしれない。
「あ、あい」
こちらに振り返り、手招きをしている。俺が近寄ると、二階堂は宝箱の蓋に手をかけた。そしてゆっくり開くと……。
──バフン! と宝箱自体が煙になり、それが晴れると地面に一冊の本が残った。
「槍は出なかったな」
「ご、ごめ」
「別に二階堂が悪いわけじゃないだろ。気にするなよ」
項垂れる二階堂を見ていると、なんだか居た堪れない気持ちになる。
「この本は俺が買い取るよ。一万円でいいか?」
「……ノーサンキュ。ただ、ど、どぞ」
たまに出る英語で断られた。客のオーダーに応えられなかったプライドがそうさせるのだろうか?
「分かったよ。この本が何かは知らないけれど、もらっておく」
俺がそう言うと二階堂は首をガクンとさせて頷き、ダンジョンの入り口へ向けて歩き始めた。もう今日のダンジョン探索は終了ということだろう。
流石に俺も疲れたし、今晩寝るところも探さなくてはいけない。
ひとまずダンジョンを出たら「おでんの村田」で晩飯でも食べよう。随分と腹が減ってしまった。
そういえば村田の野郎。俺が二階堂に腕を引っ張られているのを見て笑っていやがったな。あのハゲゾンビめ。一度説教だ。通じるかは分からないけれども。
だが、その前に……。
「二階堂。今日はありがとう」
俺の言葉に二階堂は足を止め、首を180度回してニヤリとする。絵的にはホラーだけれども、流石に二回目なので心臓が止まるようなことはなかった。そして──。
『クエスト【女ゾンビと少しだけいい雰囲気になる】をクリアしました!! 報酬として経験値3000獲得!!』
というアナウンスが脳内に流れるのだった。




