女ゾンビ、二階堂
村田がパワー型なら、二階堂はスピード型だった。
ダンジョンに入ってオークが現れると、二階堂はやっと俺の手を離した。握られていた部分を触ると、ひんやりしている。流石はゾンビ。
そんなことを感心している間に戦端は開かれる。
「ブモォォォ!!」とオークが雄叫びを上げながら、棍棒を振り回すが──。
「遅」
もうそこに二階堂の姿はない。オークの死角に回って短剣で斬りつける。ただし、傷は浅い。村田と比べると、大分腕力が弱いようだ。
とはいえ、危なげなく戦いは続く。オークは体中に裂傷を作り、動きはどんどん鈍くなっている。
よーし、この辺で俺も戦いに参加してみるか。
ゆっくりと屈み、地面の石を拾う。そして……。
ヒュン! と投石が空気を斬った。自分の想像よりも遥かに力強く投げられた石がオークの顔に当たる。オークは反射的に左手で顔を覆った。……二階堂の目が鋭くなる。
──斬ッ! と振るわれた鋭い短剣はオークの首を掠め、面白いように鮮血が噴き出した。残心をする二階堂の顔にもオークの血がかかるが、本人は気にならないようだ。無視している。
やがて、オークは地面に倒れ伏し動かなくなった。
──バフン! とオークの体が煙になると、村田の時とは違ってキラキラと光る石が地面に残った。二階堂は無表情のままそれを拾い上げ、口に入れた。そしてガリガリと噛み砕いている。
うーん……。飴玉ってこと? オーク飴? 喉にいい?
「美味しいの?」
「う」
二階堂が頷いて同意の意思を示すと、首がまた90度折れた。びっくりする。
「あっ、顔にかかった血が固まっちゃいそう。ちょっと動かないで」
俺はズボンの後ろポケットに入っていたハンカチを取り出し、二階堂の顔を拭う。流石にオークの血塗れなのは忍びない。
『クエスト【女ゾンビの顔に優しく触れる】をクリアしました!! 報酬として経験値3000獲得!!』
ちょ、別に優しく触れたわけじゃないけど!! このクエストシステム、なんかおかしくないか?
「二階堂もクエストクリアしたのか?」
「う」
首がガクンとなったあと、二階堂はステータスオープンを唱えて宙を眺めている。
「レベル上がったの?」
「あ」
上がったようだ。
「二階堂はレベルいくつなの?」
「じ、じゅ、じゅーろく」
16かぁ。なかなかの数字。
一方の俺もレベルが一つ上がって3になった。少しだけ、身体が軽くなったようか気がする。もう少しレベルが上がれば、本格的にダンジョンでモンスターと戦えるようになるかもしれない。
しかし、肝心の武器がない。そもそもダンジョンには武器を探しに来たのだ。一体、何処に武器があるのか?
そんな俺の考えを察したのか、ぼうっと宙を眺めていた二階堂が急に起動し、ダンジョンの先へと進み始めた。
ミニスカートに網タイツ。くるぶし丈のブーツはとても戦う格好には思えないが、多分人間だった頃の趣味なのだろう。
そんなことを思いながら、二階堂の後姿を追いかける。
「二階堂ってスタイルいいよな」
ピタリ。二階堂の足が止まった。そして首が180度グルリと回る。
──ニヤリ。
「ひえっ!」
迂闊に二階堂を褒めるのはやめておこう。そう心に誓いながら、俺はダンジョン探索を続けた。