表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/12

ナイトダンジョン

「離せ! 今日はもうダンジョンに行きたくない!」


「……うん」

「……うんうん」


「昼間にダンジョン行ったの! もう帰って寝るから!!」


「……うん」

「……うんうん」


 ふざけるな! と叫んでも俺の身体は美魔女ゾンビ──聖子──にホールドされたままだ。


 ずるずると引き摺られ、ぼろぼろになったアスファルトに線が出来る。聖子と村田はウィスキーの瓶をラッパ飲みしながら、ダンジョンに向かって歩く。


 ただでさえ呂律が怪しいのに、コイツら酒を飲んで大丈夫か? モンスターと戦えるのか!?


 問い続けるが、俺の声は届かない。


「む、むむむむむむ、村ちゃん」

「ままままままままま、ママ」


 ……駄目だ。ゾンビの癖に酔っ払ってやがる……。いざとなったら二人を囮にしてでも逃げよう。


 丸々と太ったドブネズミが俺達の様子を不思議そうに見ている。ネズミの方が聖子と村田よりよほど賢そうだ。



 無情にも、ライトアップされた弁天堂が近づいてくる。


「つ、つついたわよ。ダンジョンに」

「まままままままま、ママ!」


「なぁ、何の為にダンジョンに来たか覚えてる?」


 聖子と村田が顔を見合わせる。


「……みみみ……」

「……耳?」


「ミックスナッツだよ!」


 そういえば、オークの耳もミミガーというのか? なんてことを考えていると、細腕からは考えられない聖子の怪力で、弁天堂ダンジョンに向かって放り込まれた。


 辛うじて受け身をとって背中をさすっていると、聖子と村田もダンジョンに飛び降りてくる。


 ただでさえ血走っている目が更に赤い二人が、酒瓶を右手に構えて歩きだす。


「大丈夫なのか?」


「むむむむむ!」

「ままままま!」


 駄目だ! 付き合い切れない! 逃げよう!! 


 俺は二人に気付かれないようにゆっくり後退りをするが、早くもモンスターの気配──。


「ギャギャギャ!」


 オークじゃないだと!? ダンジョンの奥から現れたのは緑の肌をした小鬼、ゴブリンだった。錆びついた短剣を振り上げ、先頭を歩く聖子に迫る。


「ヤマザキ!」


 聖子がウィスキーの銘柄を叫びながら酒瓶でゴブリンに殴りかかると、ドバンッ! と緑の頭が弾け飛んだ……。


 頭を失い、崩れ落ちるゴブリンの体。村田が慌てて近寄り、吹き飛んだ頭の残骸から何かを拾っている。


「……あ、あった? 村ちゃん」

「……あ、あったよ。ミックスナッツ」


 ねえよ!! ゴブリンの頭からミックスナッツが採れるわけないだろ!!


 しかし当然、二人は聞きやしない。次々と現れるゴブリンと、その頭を吹き飛ばす聖子。そして何かを拾う村田。


 酔っ払ってはいるものの、聖子の膂力は恐るべきもので、村田よりも確実に上だ。機嫌を損ねないようにしないと……。しかし、もう帰りたい……。


「なぁ、村田。もう十分集まったんじゃないか? ミックスナッツ」


 村田のズボンのポケットはパンパンになっている。


「……ミックスナッツ?」

「……な、何のこと?」


「はぁ!?」


 貴様らが言い出したことだろ! この糞ゾンビ共!!


「もう帰る! 死ね馬鹿ゾンビ!!」


 くるり踵を返して入り口に向かって走る。背後から俺を追う気配はない。最初からこうすればよかった。



#



 ダンジョンの入り口から這い出し、弁天堂の外に躍り出る。いつの間にか弁天堂のライトアップは消えていて、周囲は真っ暗だ。遠くの街灯が唯一の頼り。


 そんな中、砂利を踏む音がした。ゾンビだろうか? しかし……変だ。ゾンビならもっと無遠慮に歩き回る筈。


 さっきの音は一度きりで、辺りにはしじまが広がっている。


 何かに見られているような感覚……。俺は急に不安になり、ステータスを開く。大丈夫だ。魔力板の回数は回復している。


---------------------------

【無属性魔法】レベル1

 魔力板:2回

---------------------------


 念の為、魔力板「盾」を顕在化して身体の前に配置した。


 弁天堂の石段をゆっくり慎重に降りる。


 ジャリ。


 まただ。間違いなく何かいる。音のした方に「盾」を回し、気取られないように歩く。


 視界の端で、黒いものが動いた。ドブネズミ? タタタタタっと俺の目の前を横切り、走っていく。


 ──パシュ! という音がして、ドブネズミが地面に転がった。赤い光が微に見える。赤外線照準器? 銃器で撃ったのか? となると、人間がいる……?


 ──パシュ! という音と同時に「盾」が何かを弾いた。赤い光が「盾」に当たっている……。やばい! 撃たれる!


 慌てて魔力板「盾」をもう一枚顕在化し、守りを堅くして一気に走り抜ける。


 人間だろうとなんだろうと、攻撃してきたからには敵だ。


 カン! カン! と乾いた音が何度もして「盾」震わせる。やはり狙われている!


 逃げろ! 逃げろ! 逃げろ!


 撃たれたらお終いだ。絶対に治療なんて受けられない。


 アスファルトを蹴り、少しでも明るいところを目指す。



 全速力で脚を回し、不忍池から離れ上野の商店街に飛び込むと、そこに変わった様子はなかった。「うぅ」としか言わないゾンビが飲食店の店頭に立っているだけ。


「助かったのか……?」


 ゾンビに囲まれて安心するのも変な話だが、少なくともコイツらは俺を襲ったりしない。


 さっきの奴は一体……?


 俺は未だ収まらない動悸に息を深くしつつ、寝床と定めたネットカフェに向かうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ